習近平も怯える…アメリカは「コロナの元凶・中国」を絶対に許さない
8/28(金) 6:01配信
中国を許さないトランプ政権
米大統領選でドナルド・トランプ大統領の再選を目指す選対本部が8月23日、2期目の政権公約を発表した。私が注目したのは、新型コロナウイルスの感染拡大について「中国に責任をとらせる」方針を明確にした点だ。中国はどう対抗するのか。
トランプ氏の選対本部が発表した政権公約は、雇用やコロナ対策、対中関係、社会保障、教育、行政改革、警察強化、移民問題、技術革新、外交政策の10項目から成っている(https://www.donaldjtrump.com/media/trump-campaign-announces-president-trumps-2nd-term-agenda-fighting-for-you/)。中国については、次の5項目を列挙した。
・中国から製造業で100万人分の雇用を取り戻す
・中国から雇用を(米国に)戻す企業には減税をする
・とくに医薬品やロボットなどの重要産業については、100%の費用控除を認める
・連邦政府は中国に仕事を発注している企業と取引しない
・中国には世界中にウイルスを拡散させた責任をとらせる
5番目の責任問題を含めて、トランプ選対は27日(日本時間28日)に予定される共和党大会での指名受諾演説と、その後の選挙キャンペーンで「公約の詳細を明らかにする」という。したがって、現時点で具体的な中身は明らかになっていない。
トランプ政権は、中国にどう責任をとらせるつもりなのか。
アメリカが中国を訴える!
5月1日付の米ワシントン・ポストは中国に対する賠償請求について、複数の政府高官の話として、いくつかの選択肢を示した(https://www.washingtonpost.com/business/2020/04/30/trump-china-coronavirus-retaliation/)。それによれば、まず中国が保有している米国債の利払いを停止する案が浮上している。
中国は2020年6月時点で、1兆744億ドル(約114兆円)の米国債を保有している。米国の国際緊急経済権限法(IEEPA)は、緊急事態に際して、外国が保有している資産の没収や外国為替取引などを停止する権限を大統領に与えている。
いざとなれば、トランプ政権は中国保有の米国債を元本ごとチャラにするのも可能だが、まずは、一部の利払い停止から始める案を検討しているようだ。ただ、この案について記者団に問われた大統領は「米ドルに対する信認を傷つける」と語り、消極的な姿勢を見せた。
記事によれば、代わりにトランプ氏は「中国からの輸入品に、たとえば1兆ドルといった巨額関税を課す」案に言及した。大統領は「それだけでなく、他にもっと簡単な方法がいくつもある」とも語り、多くの選択肢があることを示唆している。
その1つは、中国政府や高官が米国に保有している資産を没収し、賠償に当てる案だ。これはジョシュ・ホーリー上院議員(共和党)やトム・コットン上院議員(同)らが7月20日、「COVID犠牲者に対する市民正義法」としてまとめ、上院に提出した(https://www.hawley.senate.gov/senator-hawley-colleagues-release-plan-hold-chinese-communist-party-responsible-coronavirus)。
中国政府や高官が、米国はじめ英国、カナダ、オーストラリアなど西側各国に巨額資産を保有しているのは、よく知られている。総額は1兆ドルとも4兆ドルとも言われるが、米国当局は相当部分を把握しているだろう。
米英など「ファイブ・アイズ」と呼ばれる5カ国は、情報機関同士が協定を結んで、中国に関する機密情報を交換しているから、その気になれば、各国が一網打尽で資産を根こそぎ没収してしまうのも、まったく不可能ではない、と思われる。
ただ、実際に没収するにはハードルもある。IEEPA法の発動は1つの手段ではあるが、トランプ政権はそんな緊急事態法制に訴えるのではなく、中国を米国の裁判所に訴えて、資産を差し押さえるルートを検討しているようだ。
ホーリー議員らが提出した法案は、中国の「主権免除(sovereign immunity)」を剥奪したうえで、中国を相手取って集団訴訟を起こす道筋を提案している。主権免除とは、主権国家は他の国家の裁判権から免除される、という国際法上の定理である。
今回のコロナ問題で中国は事実を隠蔽し、多くの関係資料や証拠も隠滅し、結果として感染を世界に拡大させた。ホーリー議員らはその責任を問うて、限定的にであれ、米国の裁判所に主権免除からの除外を認めさせよう、としている。
先のワシントン・ポスト記事によれば、大統領はホーリー議員らと面会し、打ち合わせている。ホワイトハウスは同議員らと連携して、新法を成立させ、中国の責任を追及しようとしているのだ。先の政権公約は、そんな下準備を踏まえて作られた、とみていい。
巧妙な中国政府の反撃
共和党のジョシュ・ホーリー上院議員[Photo by gettyimages]
さて、ここからが本題である。中国はトランプ政権にどう対抗しようとしているのか。
中国外務省はトランプ政権の対応を繰り返し批判しているが、言葉だけではない。5月15日付の香港紙、サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によれば、中国はホーリー議員に圧力をかけるために、議員の選挙区であるミズーリ州の企業に対する報復を仕掛けている(https://www.scmp.com/news/china/diplomacy/article/3084577/us-senator-calls-chinas-threat-over-coronavirus-bill-badge)。
4月3日公開コラムで紹介したように、ホーリー議員は早い段階から賠償を求めた対中強硬派の急先鋒である(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71583)。彼を標的にするのは、中国とすれば、当然だった。
ミズーリ州にとって、中国は油料種子や穀物、肉製品など3番目に大きな輸出先であり、12900人の地元雇用を支えている。中国はこれらの輸入を減らしたり、同州から中国に進出した企業に懲罰を加えようとしている。たとえば、同州に本拠地があるバイオ化学大手、モンサントも中国進出企業の1つだ。おそらく、ホーリー議員もモンサントとは近しい関係にあるだろう。
中国の反撃を最初に報じたのは、中国の政府系新聞である「環球時報」だった。SCMPは環球時報を引用する形で報じたが、SCMPもオーナーは中国有数の大企業、アリババであり、中国の影響下にある。中国は有力メディアを動員して、議員を揺さぶっている。
報復は日本にも及ぶか…
以上の展開は、日本にとって示唆に富む。
なぜかと言えば、もしも、日本が米国と同じように対中制裁に動き出せば、中国は政府に文句をつけるだけでなく、与党議員の選挙区に手を突っ込んでくるに違いないからだ。議員を支援する企業に報復をちらつかせるのである。メディアも動員するだろう。
中国は「民主主義国家の急所」を良く知っている。政権を黙らせるには、与党議員を黙らせる。与党議員を黙らせるには、議員の支持者を黙らせる。メディアも利用する。戦争は武器だけで戦うのではない。相手の政治システムの弱い部分を突けばいい。
日本の大企業はもちろん、多くの中小零細企業が中国と取引している。企業経営者の多くは自民党支持者だ。近い将来、日本が腹を決めて中国に対抗しようとすれば、彼らは「中国にとって格好の標的」あるいは「人質」になってしまう可能性がある。
いや、実は、そんな中国の恫喝と取引は、水面下ですでに始まっているのかもしれない。安倍晋三政権が中国に優柔不断であるように見えるのも、真の問題は政権自身というより、そんな経済界からの圧力ではないのか。
中国との戦いは一筋縄ではいかない。米国と中国が始めた殴り合いは、やがて明日の日本でも本格的に始まるだろう。そのときに備えて、いまから周到な準備が必要だ。
長谷川 幸洋(ジャーナリスト)
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