WHOだけじゃない、「国連の上級幹部職」を続々と手中に収めて…「新型コロナ」から見えた中国の“野望”

4/3(金) 17:00配信クーリエ・ジャポン
WHOだけじゃない、「国連の上級幹部職」を続々と手中に収めて…「新型コロナ」から見えた中国の“野望”

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、WHOの“中国寄りの対応”を批判し、テドロス事務局長に辞任を求める声が高まっている。一方で、いまやWHOに限らず、国連全体に中国の息がかかりつつある──。

連載「日米中『秘史』から学ぶ、すぐ役立つ『知恵』」でおなじみの譚璐美さんは、そう警鐘を鳴らす。具体的に、どんな“影響と弊害”が出ているのか?

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長に対して辞任を要求する署名運動がインターネット上で活発化している。米国の署名サイト「Change.org」で2月に始まった署名活動は、4月2日の時点で賛同者が70万人を超えて、なお急増中だ。

同サイトの趣旨を要約すれば、テドロスWHO事務局長は世界的に感染が危惧されていた新型コロナウイルスを、1月23日に「時期尚早」だとして緊急事態宣言を見送ったために、今、制御不能に陥らせて世界中が恐怖している。これはテドロス氏が事態を過少評価したために、感染拡大を防げなかったことが原因のひとつである。また、中国政府の感染者数をそのまま発表しつづけ、中国の政治的妨害で台湾がWHOに参加できないことも辞任要求の理由に挙げている。(1月30日の緊急会議で、多数の国々が「伝染病対策に空白地帯を作るべきではない」と主張し、2月11日・12日の会合に台湾はオブサーバーとして加えられた)。つまり、公平であるべき国連組織のリーダーとしてテドロス氏は相応しくないと、世界の人々が「ノー」を突きつけた格好だ。

中国・武漢から発生した新型コロナウイルスがパンデミックと化す中で、テドロス事務局長が度々中国政府を称賛してきたことは周知の事実である。背景には、テドロス氏の出身地エチオピアが、中国から巨額の投資を受けていることがあるとされる。

3月、中国はコロナウイルスを巡る世界貢献として、WHOなどに約21億円を寄付することを申し出る一方、「世界は中国に感謝すべきだ」と、理解不能な論理を展開してはばからない。

WHO以外にも「中国の圧力」
だが、中国寄りの姿勢はWHOに限ったことではない。国連の複数の機関で中国寄り、または中国に押し切られる格好で法案や決議が流れる事態が発生し、とりわけ人権保護などを促進する国際協調が損なわれつつある。それは中国が国連に「カネ」と「ヒト」を大量投入して、急速に発言権を増しているからにほかならない。

習近平政権になった2012年以降、中国は国連への拠出金を大幅に増やし、2018年12月、日本を追い抜いて、アメリカに次ぐ第2位になった。それと同時に、中国の元高級官僚を次々に国連へ送り込み、国連の政策に中国の政策を強引に反映させるようになった。しかも、中国にとって不都合な議題があがると、あの手この手で個別取引をもちかけ、参加国へのプロジェクトの融資を申し出たり、逆に融資をやめると恫喝したりするのである。

例えば、2019年11月、国連の人権理事会(UNHRC、本部はジュネーブ)で、イギリスのピアース国連大使は、100万人ものイスラム教徒が新疆ウイグル自治区の収容施設で虐待されているとして中国の人権侵害を非難し、国連監視団が現地調査を実施するよう声明を発表した。アメリカなど22ヵ国が賛同・署名したのに対し、中国は「新疆での活動はテロとの戦いである」と強く反発して、イスラム国家である中東諸国などに反対署名を求めた。

その際、中国代表はオーストリア代表に対し、「イギリスの声明に署名すれば、オーストリアが北京の大使館移転で希望している土地を入手できなくなる」と恫喝したとされる。それでもオーストリアは署名したが、同じく署名したアルバニアは、同国と中国との国交樹立70周年を記念して北京で行われる予定だった祝賀イベントを中止された。

激しい論戦の末に共同声明が採択された日、イギリスのアレン国連次席大使は安堵し、「今回は、多くの国が(中国の)強い圧力にさらされた。だが、我々は自分たちが信じる価値と人権のために立ち上がらねばならない」と、ツイートしたという。

中国政府を代弁する国連幹部たち
国連には15の専門機関と10の関連機関があるが、そのうち複数の機関で中国出身者が上級幹部に就任し、中国政府の代理人のように振舞っている。各種情報をまとめてみよう。

● 国連食糧農業機関(FAO、本部はローマ)は、2019年6月、FAO総会で中国人候補が米国の支援する候補を破って事務局長に選出された。

● 国連会計監査委員会(BOA)は国連の行政監査機関で、2020年に監査委員が改選され、3人のメンバーの1人が中国人になる。

● 国連経済社会局(DESA)は国連部局のひとつで、2017年7月、中国外交部副部長・劉振民氏が事務局長に就任した。DESAでは中国の「一帯一路」計画を推奨し、宣伝活動に余念がない。米誌「フォーリン・ポリシー」(2017年5月号)によれば、匿名希望の欧州の外交官のひとりは、「それはだれでも知っている」「DESAは中国企業のようなものだ」と語った。

● 国際民間航空機関(ICAO)は、現在193ヵ国が加盟し、事務局長は元中国共産党高官の柳芳氏が就任している。台湾は東アジアの航空路線のハブだが、中国の「ひとつの中国」の原則に基づき、ICAOとの直接連絡が認められず、発信される情報を直接入手することもできない。2016年以降、それまでオブザーバーとして参加していた権利も奪われ、発言権がなくなった。今回の新型コロナウイルスの発生時には、1月30日の緊急会議で、イギリス、カナダ、日本など多数の国々が「伝染病の水際対策で、世界に空白地帯を作るべきではない」として台湾の参加を強く求め、多数決でようやくオブザーバーとして参加できたが、中国は終始不満を口にしていた。

● 国際電気通信連合(ITU)は、地球規模の無線周波数と衛星軌道の分配と管理を担い、世界の電気通信標準の制定、インターネットの世界的監査をする機関だが、2014年10月、中国人の趙厚麟氏が事務局長に就任し、2018年11月に再選された。中国はITUと連携して、加盟国の電波インフラ分野で「一帯一路」を推し進めている。アメリカが華為技術(ファーウェイ)に対するスパイ疑惑を主張した際、趙厚麟氏は「アメリカには政治的動機がある」と非難した。

● 国連工業開発機関(UNIDO)は、170ヵ国以上の加盟国があり、発展途上国の産業発展を促進する機関だが、事務局長は中国財政部の元副部長(副大臣に相当)の李勇氏が就任している。

● 国連教育科学文化機関(UNESCO)副代表の一人は、中国国際問題研究所の元所長だ。

こうした数々の機関を通じて、中国は国連の文書に、習近平思想である「合作共赢(ウィンウィン)」という文言を挿入することに成功し、中国が推し進める「一帯一路」計画をグローバルなインフラ建設構想として推進するよう働きかけている。グテーレス国連事務総長など国連の上級幹部たちも中国を称賛し、「一帯一路」をグローバルな経済発展の模範だと位置づけている。

「外交官のゆりかご」からエリートを続々投入
その一方、中国は「ヒト」の投入、つまり国連事務局の一般職員の増加にも余念がない。

「国連事務局における望ましい職員数」(国連資料、2018年12月)によると、実際の職員数は1位のアメリカが360名(望ましい職員数は383名~519名)。第2位のドイツ、3位のフランスと続き、中国は7位で89名(同169名~229名)。日本は9位で職員数75名(同172名~233名)である。そして中国はこの一般職員を増やすため、今後5年間に800名のJPO派遣を目指すという。

JPO(Junior Professional Officer)とは、国連への若手派遣制度のことで、自国の費用負担で若手人材を原則2年派遣して職務経験を積ませ、任期終了後に専門機関に空席があれば応募し、合格すれば正規採用されるという制度だ。日常の職務は英語かフランス語で行われるため、例えばTOEFL試験で満点近い英語力を必要とされ、大学院卒業、一定の職務経験があることなどが受験資格とされる。

見るからにハードな試験におもえるが、中国には語学など簡単にクリアできる体制が整っている。例えば、北京外国語大学は中国最高峰の語学教育機関で、2008年世界ランキング95位にも選ばれている。同校の紹介サイトによると、121の本科と115の専科があり、中国と国交のある175ヵ国の公用語をほぼ網羅している。教育目標には、外交、翻訳、経済貿易、ジャーナリズム、法律、金融などの分野はもちろん、とりわけ外交官や国際公務員など、対外関係業務に従事する国際的外国語人材を養成することに重点を置いている。学内には科学研究機関「国連と国際組織研究センター」も設置されている。

中国外交部の概算統計によると、北京外国語大学の歴代卒業生のなかで、各国大使に任命された者は400名余り、参事官は1000名余りにのぼり、「外交官のゆりかご」と呼ばれているのだという。

中国人は生来社交的な人が多く、語学習得に向いているうえ、国連の外国官を目指して一心不乱に勉強すれば、JPO派遣で選抜された人材も精鋭揃いにまちがいないだろう。

近い将来、国連は中国のフロント企業ならぬフロント機関と化すのではないか。そんな悪夢がふと脳裏をよぎる。今、国連は存在意義をめぐって、まさに危機的状況に直面しているのである。

Romi Tan

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