屈辱の外交文書 中国共産党政権の強大化許した“媚中外交” 天安門事件に宇野・海部氏“弱腰”、「失敗」として国民的記憶に刻め

屈辱の外交文書 中国共産党政権の強大化許した“媚中外交” 天安門事件に宇野・海部氏“弱腰”、「失敗」として国民的記憶に刻め

 【有本香の以読制毒】

 日本の「媚中外交」が、中国共産党政権の強大化を許した歴史的事実が明らかになった。外務省は23日、1987年から89年までの外交文書26冊(約1万600ページ)を一般公開した。この中に、中国当局が民主化を求める学生らを武力鎮圧した「天安門事件」(89年6月4日)に関する文書があり、欧米諸国が対中制裁にかじを切るなか、日本政府は事件当日、「長期的、大局的観点から得策でない」として反対する方針を明記した文書を作成していたのだ。その後、対中融和路線を取り続けた。ジャーナリストの有本香氏は人気連載「以読制毒」で、日本外交の失敗が、中国の軍事的覇権強化につながった黒歴史に迫った。「親中派」の影響力が指摘される菅義偉政権への強烈な教訓といえそうだ。

 やっぱりか-。23日に公開された外交文書から、31年前の「真相」を知っての感想だ。文書では、89年6月、中国北京市で起きた「六四天安門事件」直後の日本政府、宇野宗佑内閣の対応ぶりが明らかにされている。31年も前のことだが、当時のことははっきり記憶している。

 少しばかり私ごとを書かせていただく。89年当時、旅行雑誌の編集者だった私は、世界中を取材する日々を送っていたが、中国へ赴くことには積極的でなかった。この頃の中国旅行は、相当前からビザ(査証)を申請取得する必要があり、到着後の自由旅行は許されていなかった。

 旅程中は「旅行ガイド」と称する監視員が片時も離れず随行する。そんな国に行くのはめんどくさいなという思いがまずあった。共産党体制についても、ネガティブな評価をしていた。理由はいくつかあるが、大学時代の体験によるところが大きかった。

 私が大学生だった80年代前半は、中国・韓国とのいわゆる「歴史問題」が起き始めたときだ。教科書問題、靖国問題などが起きるたび、隣国の言うことに、ひたすらおもねる日本の政治家、メディアの論調に、私は疑問と反感を抱いていた。

 そんな若者は当時、圧倒的少数派で、学内の左翼活動家と大論争になったこともある。他方、当時(80年代前半)は稀有(けう)だった、中国に批判的な論客、中嶋嶺雄氏(故人・政治学者)の国際関係論の講義を熱心に聞いたことも影響したと思う。加えて、当時から「台湾独立」を支持する友人知人がいたことの影響もある。

 そんな私が、初めて中国に行ったのが89年3月だった。彼の国はまだ都市も農村も貧しく、現地取材では不自由も多かったが、旅そのものは楽しかった。北京大学の学生と短い会話の機会も得た。共産党体制への疑問は持ち続けたが、旅で会った老若男女に悪感情はなかった。

 その3カ月後に起きたのが天安門事件である。ネットはなかったが、CNNは見ることができた。この時も日本のメディアは頼りにならず、政府はもっと頼りにならなかった。

 竹下登首相辞任の後、その原因ともなったリクルート事件の絡みで、自民党内の実力者が皆、首相の座に就けず、たまたまお鉢が回ってきたのが宇野首相だった。そんな首相に、中国非難などできたはずもなかった。それどころか、宇野首相は就任3日後に女性スキャンダルが発覚。あっという間に辞任に追い込まれた。

 世界のあちこちから、北京への非難の声が上がっているその時、日本のトップニュースとして世界に配信されたのは、「首相の芸者スキャンダル」だったのだ。何と情けない国か、と泣きたい気持ちになったものだ。

 今回の外交文書公開で詳(つまび)らかにされたのは、この時代のこと。天安門事件直後、宇野首相と三塚博外相が「中国の孤立はさせない」と言って、対中非難を強める先進諸外国と歩調を異にした概略はこれまでも言われてきていた。

 しかし、今般の文書では、事件直後の89年7月、フランスのアルシュで開かれたサミット(先進7カ国首脳会議)で採択された中国非難の宣言をめぐって、日本政府が他の参加国と対立してまで、非難の表現を弱めようとした様が明らかにされている。当然、中国は日本の対応を評価し、宇野氏は首相退任後の90年に訪中して、江沢民(元国家主席)の歓待と謝辞を受けている。

 文書は、天安門事件の翌年(90年)、天皇陛下(現上皇陛下)ご即位の礼に参列した中国の呉学謙副首相が、陛下に直接、ご訪中を招請したことも明らかにしている。海部俊樹首相はこの事実を直後に呉氏から聞いたものの、世論を懸念し非公開にしたそうだ。

 この時の媚中外交が「今」を招いている。

 「当時の状況を考えれば仕方がなかった」という言い訳はやめようではないか。今こそ、89年のことを、「失敗」として正しく振り返り、国民的記憶として刻むべきだ。そう、菅義偉首相と二階俊博・自民党幹事長に強く申し上げたいところである。

 ■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。

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