中国船が尖閣に押し寄せる8月、日米が「マジギレ」する時がきた…
8/7(金) 6:01配信
南シナ海に東沙諸島(プラタス諸島)というサンゴの環礁島があるのを、ご存知だろうか。台湾が実効支配しているが、台湾本土からは遠く離れ、まさに「日本における尖閣諸島」のような存在だ。台湾は8月、その島に海兵隊の精鋭部隊を派遣した。
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私もネットで検索するまで、東沙諸島がどこにあるのか、知らなかった。おそらく知っている読者は、よほどの台湾通だろう。中国大陸からは東に200キロ、香港からは南東に325キロ、台湾からは南西に420キロである。つまり、台湾よりも中国、香港に近い。
島の面積は、わずか1.74平方キロ。3つの環礁から成り、うち東沙環礁以外は満潮時に水没する。かつては無人島だったが、台湾は領有権を主張するために、軍関係者を中心に200人近くを常駐させている。約1550メートルの滑走路があり、軍用機も飛来する。
この絶海の島がにわかに注目を集めたのは、共同通信が5月、中国の人民解放軍がいずれ島を奪取するために、大規模な軍事演習を計画している、と報じたためだ(https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1084189)。東沙諸島は中国にとって、軍が太平洋に進出するために、戦略的に重要な拠点になる。
共同通信は8月3日、続報として、中国人民解放軍・国防大学の李大光教授が親中系雑誌に寄稿した論文で上陸演習の実施を明らかにした、と報じた(https://this.kiji.is/662817648766764129? c=39546741839462401)。記事は「教授は軍事戦略の専門家であり、中国軍内の人物が演習実施を明言したのは初めて」と指摘していた。
台湾の英字紙であるタイワン・ニュースによれば、台湾国防部はこの報道に直ちに反応し、海兵隊の精鋭部隊「アイアン・フォース(鉄の部隊)」を現地に派遣した(https://www.taiwannews.com.tw/en/news/3980811)。
同紙によれば、李教授は「自分は5月の報道に言及しただけだ」と記事の内容を否定したが、中国の政府系新聞、環球時報(英字名グローバル・タイムズ)は「演習は本物の軍事侵攻になりうる」と警告した、という。
台湾は警戒を怠っていない。台湾はかねて東沙諸島の防衛計画を策定している。緊急事態が発生すれば、陸軍の特殊部隊と海兵隊部隊が合同作戦を展開して反撃する想定だ。その際、海と空からの攻撃拠点になるのは、太平島である。
南シナ海のど真ん中にある太平島も、台湾が実効支配するサンゴの島だ。発電施設や病院、1200メートルの滑走路などがあり、東沙諸島と同様、台湾軍関係者ら約200人が常駐している。
なぜ、こんな話をするかと言えば、もうお分かりだろう。台湾は本土から遠く離れた絶海の小島を防衛するために、少数とはいえ軍隊を常駐させているだけでなく、中国の軍事演習報道に敏感に反応し、直ちに精鋭部隊を派遣しているのだ。日本と大違いではないか。
日本は、と言えば、先々週まで3回のコラムで書いてきたように、沖縄県の尖閣諸島が連日、中国の武装公船に脅かされ、たびたび領海侵入も許しておきながら、島には自衛隊どころか、政府職員も派遣していない(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73950 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74151 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74348)。
台湾の断固とした行動とは、雲泥の差である。これでは、いくら日本政府が言葉で抗議を重ねても、中国が日本の決意を見誤ったとしても仕方がない、と言われてしまうだろう。誤解するのは、中国だけではないかもしれない。私が懸念するのは、米国である。
「ためらう日本」を米国は支援しない
米国は、在日米軍のケビン・シュナイダー司令官が7月29日、記者会見し「中国漁船団が8月中旬以降、海警局の公船や人民解放軍の軍艦に守られて、尖閣周辺に押し寄せてくる圧力が高まっている。米国は日本政府を支援する約束を100%堅持する」と語った。
わざわざ「8月中旬以降」と時期を明示したのは、中国が独自に設定している尖閣周辺の休漁期間が、8月16日に明けるからだ。2016年夏には、数百隻もの中国漁船が休漁明けとともに、尖閣周辺に押し寄せてきた。
米軍司令官の警告はありがたいが、日本自身がもっと積極的に動くべきではないか。いつまでも日本が具体的な行動をためらっていれば、米国が日本の本気度を疑ったとしても、不思議ではない。台湾の実例があるからには、なおさらだろう。
台湾について言えば、いくら精鋭部隊を派遣したところで、中国が本気で攻めてくれば、軍事力の差はいかんともしがたく、自力ではひとたまりもないかもしれない。だが、台湾自ら血を流す姿勢を見せているからこそ、米国も武器売却など支援に力を入れているのだ。
そんな米国の姿勢を象徴する動きもある。
トランプ政権は8月4日、アレックス・アザー厚生長官が近く台湾を訪問し、蔡英文総統と会談する、と発表した。閣僚級の台湾訪問は6年ぶりで、米中、中台関係が緊張する中、米台関係の緊密さをアピールする狙いがあるのは当然だ。
米下院のテッド・ヨーホー議員(共和党)は7月29日、中国が台湾に侵攻した場合、米国が軍事介入する法案「台湾侵攻防衛法」を下院に提出した(https://yoho.house.gov/media-center/press-releases/yoho-introduces-taiwan-invasion-prevention-act)。法案は、台湾防衛に大統領が軍事介入する権限を与えるなど、次のような政策を盛り込んでいる。
米国と台湾、および利益を共有する他国との安全保障対話を進め、合同軍事演習をする。台湾への武器売却や予備役改革、米軍と連携したサイバー攻撃への対処など、軍事的助言をする。米通商代表部(USTR)に台湾との通商協定交渉を促す。台湾で米大統領や国務長官との首脳会談を開く。米下院合同委員会での台湾総統の演説を歓迎する。
ヨーホー議員は声明で「中国の台湾侵攻を抑止するために、米国が採用してきた『戦略的あいまい政策』は、明らかに失敗した。人民解放軍の劇的な軍備増強や台湾海峡での挑発行為は、彼らの侵攻意図を明確に物語っている。米国は直ちに、中国が超えてはならないレッドラインを明確にしなければならない」と語っている。
台湾はもちろん、こうした米議員の行動を歓迎している。台湾外交部の報道官は「重要法案を提出したヨーホー議員に対して、心から感謝したい。台湾政府は民主主義と自由を守る。我々はけっして妥協しない。これは台湾国民、2300万人のコンセンサスだ」と語った(https://www.taiwannews.com.tw/en/news/3976853)。
香港に国家安全維持法が導入され、香港の自由と民主主義が失われたいま、台湾の戦略的重要性がかつてなく高まっているのは、言うまでもない。だからこそ、米国も本気で台湾を守ろうとしているのだ。米国の心ある人々は、内心「台湾はそこにいる。日本はどこにいるのか」と思っているのではないか。
尖閣諸島に押し寄せていた中国公船は8月3、4の両日、台風が近づいているためか、現れず、連続侵入記録は111日で途絶えた。だが、いずれ再開されるのは間違いない。
日本はどうするのか。いまは、いつ実現するか分からない「敵基地攻撃能力」の保有をうんぬんしているような局面ではない。そんな絵に書いたような話は、尖閣情勢を安定させてから議論すればいい。危機は目の前にある。台湾の決意と行動に学ぶべきだ。
長谷川 幸洋(ジャーナリスト)
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