なぜ日本は75年間も「無謀な戦争を仕掛けた敗戦国」のままなのか
8/15(土) 9:16配信
75年前に日本は戦争に負けた。そのことを日本はいつまで反省しなければいけないのか。早稲田大学社会科学総合学術院の有馬哲夫教授は「前提となる歴史観には首をひねりたくなるものが多い。その原因はマスコミと教育であり、GHQが日本に対して行った『心理戦』に源流がある。そろそろ占領時の呪縛から解き放たれてもよいのでは」という――。
※本稿は、有馬哲夫『日本人はなぜ自虐的になったのか:占領とWGIP』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
■夏になると蘇る「敗戦国」の記憶
毎年、8月になると戦争関連の報道、番組が増えます。この場合の戦争というのはもちろん1945年に日本の敗戦で終わった先の戦争のことです。さまざまなテーマが扱われますが、基本的なトーンとしては「反省」が軸にあるものがほとんどです。無謀な戦争をして、多くの犠牲を出し、酷い敗け方をした以上は当然でしょう。
しかし一方で、その前提となっている歴史観には、首をひねりたくなるものも多々あります。たとえば、以下のような文章を読んで、読者はどう思われるでしょうか。
「日本は無条件降伏したのだから、旧連合国の要求や批判を受け入れるしかない。先の戦争は連合国とくにアメリカがアジア諸国から日本の支配を排除した太平洋戦争であって、欧米列強からアジア諸国を解き放ち共栄圏を作るための大東亜戦争ではなかった。連合国とくにアメリカは正義の戦争を戦って悪の戦争をした日本に勝ったのだから、極東国際軍事裁判で日本の戦争責任と戦争犯罪だけを追及する正当性を持っている。広島、長崎への原爆投下は、それによって戦争終結が早まり、およそ百万のアメリカ将兵の命が救われたので仕方がない一面がある。日本は戦争中『韓国人』や『北朝鮮人』に被害を与えたのだから、賠償するのは当然だ」
一言で言ってしまえば「無謀な戦争をしかけた敗戦国には何も言う資格はない」ということでしょうか。
程度の差こそあれ、このような歴史観を持つ日本人は決して珍しくありません。それどころかマスメディアや研究者の世界には多数います。朝日新聞などもこうした見方を肯定します。その影響は決して無視できるものではありません。
■現在も影響が残る、GHGが仕掛けた心理戦
しかし、こうした見方は一次資料をもとに検討した場合、間違っているといわざるを得ません。代表例として「無条件降伏」について触れてみましょう。
「ポツダム宣言で無条件降伏を受け入れた」という認識を持っている人はことの他多くいます。たとえば、NHKが今年8月6日に放送した「NHKスペシャル『証言と映像でつづる原爆投下・全記録』」では、あいかわらず「日本は無条件降伏した」というナレーションが入っています。
しかし、冷静に考えてみてほしいのですが、そもそも無条件降伏などというものは、いかに当時といえどもありえません。そのようなことが許されれば、皆殺しすら正当化されてしまいます。近代の戦争でそのようなことは許されません。だからトルーマン大統領は無条件降伏を主張したものの、当のアメリカの軍人たちからも反対が出ました。
有名な玉音放送で、天皇は「国体を護持」できたことを明言しています。それが降伏条件の一つだったことは明らかです。
また、大東亜戦争という用語は、ほとんど右翼が用いる言葉のようなイメージを持つ人が多いため嫌われがちで、一般には太平洋戦争という言葉が使われています。しかし、前者は日本政府が当時閣議決定した名称ですから、この方が本来正しい。そもそも日中戦争は太平洋で行われていません。ところが、GHQがこの用語を禁じ、後者を強いたために現在では、こちらが一般的になったわけです。
■ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP)の中身
このように、さきほど述べたような歴史観(「日本は無条件降伏したので~」云々)は、戦後、GHQが日本に対して行った心理戦の影響が今なお残っていることを示しています。
この心理戦の中でも最も有名なのがウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(WGIP)でしょう。
WGIPとは、日本人に極東国際軍事裁判(一般には東京裁判と呼ばれる)を受け入れさせるため、占領中にアメリカ軍が日本人に先の戦争に対して罪悪感を植えつけ、戦争責任を負わせるために行った心理戦のことです。その存在は評論家の江藤淳が『閉された言語空間』で明らかにしたことで有名になりました。
結果として、先の戦争において敗北した日本だけが悪をなした「戦争加害国」であるという「戦勝史観」が日本国内ではいまだに幅をきかせています。これを「自虐史観」と呼ぶ人もいます。
戦争を反省するのは決して悪いことではありません。大きな問題は、こうした見方が結果的に現在の我々にもなお悪い影響を与えていることです。
■中国と韓国は戦勝国ではない
たとえば、中国と韓国は、「日本はアメリカおよび連合国だけでなく、自分たちの『国』とも戦って負けたのだから、自分たちは戦争賠償を求めるなど戦勝国としての権利を持っている」と主張しています。
しかし、戦後秩序を決めたサンフランシスコ講和会議において、両国は日本と戦争状態にあった「国」とも、戦勝国とも認められませんでした。
そもそも韓国にいたっては日本の一部でした。したがって、戦後の日本に対する権利や請求権などを定めたこの条約の署名国になっていません。にもかかわらず両国は、これはアメリカが勝手に決めたことで無視できると考えています。
とりわけ韓国は、1965年に2国間条約である日韓基本条約を結んで「両締約国(日本と韓国)及びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及び国民の間の請求権の問題が(中略)最終的かつ完全に解決されたこととなること」を確認したにもかかわらず、「朝鮮人慰安婦」や「朝鮮人戦時労働者」の問題を常に持ち出しているのはご存じの通りです。
日本のマスメディアは、こういった誤った歴史認識を正すどころか、むしろこれらを肯定する報道をしています。それらが、とくに韓国、中国に利用された結果、日本は領土や補償や外交の問題で不利な立場に立たされ、不当な扱いを受ける事態に立ち至っています。
■「GHQのマインドセット」に陥る日本のマスコミと教育
欧米の公文書館所蔵の歴史的資料に照らしてみれば、このような言説はまったくの虚偽なのは明白です。私はこれらの公文書に基づいてこのような言説が誤りであることをこれまで雑誌論文や著書に書いて明らかにしてきました。新著『日本人はなぜ自虐的になったのか』もその一冊です。
しかしながら、日本のマスメディアや教育はいまだに前述の戦勝史観の影響下にあるため、国民の多くがGHQの設定したマインドセット(教育、プロパガンダ、先入観から作られる思考様式)に陥ったままなのです。
つまり戦後75年経ってなお「敗戦国」としての贖罪意識を持ち続けている。アメリカは心理戦について戦前、戦時中を通してずっと研究と実践を行っていました。GHQは、その研究成果に基づいて手腕を存分に発揮したわけです。
■国民が何十年も嘘を信じ込まされている
こうした話をすると、「日本人はバカではないのだから、そんな70年以上も前のものに騙され続けることなんてあり得ない」という人がいます。
“リベラル”を自称する人に多いようです(本来のリベラルではない)。こういう人は、先の戦争について少しでも戦勝史観から外れた見方を示す相手に対して「右翼だ」とか「陰謀論者だ」などといったレッテルを貼ります。いかにWGIPの影響が大きいかを示す現象だともいえるでしょう。
しかし、バカではないのに国民のほとんどが何十年も嘘を信じ込まされている例は多く見られます。現在の北朝鮮、韓国、中国がそうです。北朝鮮では、人民は独裁者を崇拝させられ、彼のいうことを信じ込まされています。異を唱えれば処刑されます。
韓国では、先の戦争で連合軍の一員として日本と戦って独立を勝ち取ったと政治指導者たちが偽り、歴史の教科書に書いているので、それを信じています。実際には、韓国は1948に独立しているので、1941年から始まった戦争で連合軍の一員になれたはずがありません。1919年から対日独立運動をしていたというのですが、当時の世界のどの国もそう認めていませんでした。
中国では、毛沢東率いる共産党軍が日本軍を打ち破って中国人民を解放したとし、歴史の授業でもそう教えられているので、圧倒的多数の人々はそれを信じています。しかし、日本軍に勝利したのはアメリカやイギリスなどの連合国軍です。そこに蒋介石率いる国民党軍も加わっていましたが、その役割は補助的です。
■「そろそろ占領期の呪縛から解き放たれてもよいのでは」
もうかれこれ70年以上もたっていますが、これら3カ国の大多数の国民は、いまだに虚偽を信じ続けています。彼らの知能が低いということはありません。そう信じ込ませるようなシステムや制度が存在するからです。
また、特定の宗教指導者をトップとしている国もあります。これらの教義は異教徒にとっては理解しがたいものですし、必ずしも民主主義国家の価値観には合わないかもしれません。だからといってその国民をバカだなどとは決して言えません。
ただし、日本は戦後の一時期を除けば、一貫して言論の自由が保証された民主主義国家であったはずです。そろそろ占領時の呪縛から解き放たれてもよいのではないでしょうか。
有馬 哲夫(ありま・てつお)
早稲田大学社会科学総合学術院教授(公文書研究)
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『歴史問題の正解』など。
この記事へのコメントはありません。