【高橋 洋一】コロナショックはリーマン級「全国民10万円給付と消費減税」が必要だ 「ショボい対策」では乗り切れない
2020年3月23日 6時0分
日本もしっかりと財政金融政策を
欧米の先進国では、どこも入国制限、イベント休止、学校休校などの行動制限措置がとられている。イギリスは3月上旬まで、他の欧州諸国と異なり比較的寛容な措置をとっていたが、1週間も持たずに、他の欧州諸国と同様の厳しい行動制限措置に移行せざるを得なかった。
世界の新型コロナウイルスに感染者数の推移を、改めて一応確認しておこう。
図の縦軸は、対数目盛である。つまり、目盛が一つ上がると桁数が一つ上がる。同様の図は先週の本コラムでも使ったが、この各国の数字から、おおよその傾向がわかる。
中国や韓国は安定しつつあるが、欧米は大変な状況だ。特に、G7諸国のイタリア、フランス、ドイツやアメリカで、感染者数が爆発的に増加し続けている。
そこで、G7サミットがテレビ会議で先週16日に行われた。筆者のまわりの数人が、安倍首相に直接進言していたものだ。もちろん、こうしたときこそサミットが必要であることは筆者も知っていたので、安倍首相には伝えていた。
官邸でも、前々から準備をしていたようだ。次回のG7はアメリカで開催される予定なので、アメリカが議長国だ。安倍首相らの働きかけでトランプ大統領もテレビ会議に賛同し、各国の協調姿勢が確認された。その後、6月10日からアメリカのキャンプデービッド山荘で予定されていたG7会合は、直接会わずにテレビ会議となることが発表された。
筆者が、今回G7テレビ会議を開催すべきだと言ったのは、G7の政策協調を示すという趣旨であった。しかし本音は、日本だけで経済対策を考えると、財務省の意向によってかなりシャビーになるので、G7政策協調という枠をはめて、日本もしっかりと財政金融政策をやってほしかったからだ。
アメリカの対策は「200兆円」も
アメリカ市場では、今後30日間の株式市場の予想変動範囲を算出し、「恐怖指数」と呼んでいる。過去のリーマンショック時には90近くまで上がった。NY同時多発テロ、アジア経済危機、ギリシャ危機等の時には、50近くまで上昇した。
今回の新型コロナウイルス騒ぎでは、3月18日に85近くまでに上がった。リーマンショックとほぼ同じであり、アメリカの投資家の恐怖心を反映していると言えるだろう。
新型コロナウイルスの封じ込めには、当面の行動規制が必要になるが、これでは経済活動が成り立たなくなってしまい、リーマンショックと同じく大きな経済ショックをもたらすと予想されているわけだ。
こうした事情を反映し、日米英の株価は異常事態とも言える急落を見せている。ここ3,4年の株価上昇を、一気に吐き出しているかのようだ。
こうした中でアメリカでは、当初GDPの5%に相当する100兆円規模の経済対策が言われていたが、ここにきて、GDPの10%にも達する200兆円という数字も出始めている。これは21日、クドロー米国家経済会議委員長が言及した数字だ。
アメリカの場合、政府は議会と交渉して予算を決めるので、これはあくまで政府の単なる「言い値」かもしれないが、それほど今回のコロナショックが経済に与える影響は大きいのだ。
麻生財務相の懸念は当たっているか?
それでも日本の危機感は相変わらず鈍い。3月19日、麻生太郎副総理兼財務相は、経済対策について、「現金給付や消費減税は財務省で検討していない」と否定的な見解を示している(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200319/k10012339661000.html)。
そのロジックは、リーマンショック時に現金給付の効果があまりなかったことと、赤字国債の増発を懸念している、というものだった。
リーマンショック時に財政政策があまり効かなかった理由は、本コラムで何度も書いている通り、財政政策(含む減税、給付金)とともに大規模な金融緩和を行わなかったこと、そして財政出動の規模がショボかったことだ。
前者については、マンデル=フレミング効果があるからだ。これは、学部や大学院レベルの経済学で厳密な数式を含めて習うが、原理をかいつまんでいえば、国債発行をすると、国内金利が海外と比べて高くなりがちなので、自国通貨が高くなるというものだ。そこで、国債発行による財政出動(含む減税、給付金)で内需を拡大しても、為替高で外需が減少するので、財政出動の効果が減殺されてしまう。
マンデル=フレミング効果については、提唱者のマンデル氏のノーベル賞受賞業績にもなっているくらいなので、時代を超えて古今東西で事例が見られる。例えば、日本が東日本大震災後、大規模な財政出動をした際、円高に見舞われたのは好例だ。
こうしたメカニズムがわかっているので、財政出動と同時に金融緩和をすれば、国内金利は落ち着き、自国通貨高にならずに財政出動の効果がそのまま発揮される。
現在、政府与党で検討されている経済対策では30兆円という数字が出ているが、よく見れば、これは「事業規模」だ。いわゆる「真水」ではなく、数字がかさ上げされているので、GDPへの効果はそれほどでもない。「真水」だとおそらく30兆円の半分にも達しないだろう。
麻生財務相は、そもそも今回のショックがリーマン級であるという認識すら危うい。もしリーマン級であることを認めると、安倍首相が「リーマン級の出来事がない限りは消費増税する」と述べていたことと関連してしまうのを気にしているのだろう。
「国民1人10万円給付」を
もし、今回のコロナショックがリーマン級であれば、少なくとも昨年10月の8%から10%への消費増税の前提が違ってくるという話になる。8%への減税、さらには安倍政権が2014年4月に行った8%への消費増税も、吹っ飛ぶ可能性も出てくるのだ。
筆者は、アメリカの経済対策がGDPの5%以上になることから、日本でも同規模の対策が必要と考えており、その際には、有効需要を短期間で作りやすい減税や給付金系の財政出動がいいと考えている。
GDP比5%以上で可処分所得を広く増やすためには、消費減税、社会保険料減免、国民への現金給付が考えられるが、筆者は5%への消費減税(全品目5%の軽減税率を2年間限定で実施)と、国民1人あたり10万円給付(アメリカと同じような政府振出小切手を配布)という試案をテレビなどで披露している。
これであれば、いわゆる「真水」で25兆円規模であり、GDPの5%程度になる。10万円給付については、4月に入ってから補正予算で手当てするのではなく、3月中に「予算修正」で行い一刻も早く支給するのがいいと主張している。消費減税も、すぐ実施するために、現行制度の軽減税率を使って6月からの実施を言っている。
同時に、年間80兆円ベースの金融緩和への復帰も提言しているが、これであれば、上記の財政措置を国債で賄っても、すべて日銀オペで日銀に吸収される。その結果、日本のマネタリーベースは増加するが、これは日米の金融政策が相対的に同じ緩和なので為替が安定的になるメリットがあるとともに、財政措置の財源が「マネタイズ」されるため、日銀に国債の利払いをしても納付金で帰ってきて、実質的に財政負担もなくなる。
要するに、麻生財務相がいくら財政事情を懸念しても、時限的な経済対策であれば、問題はなくなるわけだ。
「荒療治」が必要なとき
この政策の難点は、インフレ率が高まることだが、リーマンショック級の不況の中で心配すべきことでない。
今のところ、消費増税とコロナショックがダブルパンチとなっている。しかし、本コラムでもすでに予想したように、東京五輪中止が加わってトリプルパンチになる可能性もある。それに備えるために、一刻も早く、3月中の予算修正というこれまでにやったことのない「荒療治」を使ってでも、早めの経済対策が望まれる。
最後に、日本国内の新型コロナウイルスの患者数予測を述べておこう。政府の専門家会議は、今のところ持ちこたえているが、警戒の手を緩めるときではないとしている。もちろん筆者もこの考え方に賛成だが、民間の立場から見れば、もう少し先の話がほしいところだ。展望なしではガマンもできなくなる。
下図は、筆者の独自の試算による、日本国内での新規感染者数の予測である。十分な幅をもって読むべきであることを留意されたい。
今のところ、政府の規制・要請が功を奏しており、徐々に沈静化に向かいつつある。最悪期は脱しつつあるというところだ。今のペースでいけば、4月上~中旬には、新規感染者数が1日10名前後に落ち着く可能性もあり、そのころにはだいぶ視界が開けてくるかもしれない。
もちろん、少しの油断で集団感染(クラスター)は生じうるし、まだ爆発的な感染拡大(オーバーシュート)の可能性がなくなったわけではないことは、言うまでもない。
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