コロナ禍と北朝鮮有事のウラで、米中「海洋覇権」戦争が激化中

4/28(火) 6:01配信現代ビジネス
コロナ禍と北朝鮮有事のウラで、米中「海洋覇権」戦争が激化中

朝鮮半島問題と台湾問題
 昨今、人々の目は、動態が伝わらない北朝鮮の金正恩委員長の「異変」にばかり向けられているが、東シナ海と南シナ海における米中両大国の角逐も、にわかに緊張感を増してきている。

 意外に思うかもしれないが、中国にとっては本来、朝鮮半島問題と台湾問題は、切り離すことのできないものだ。

 一例を示すと、私は20年ほど前に、年老いた北朝鮮からの亡命者をインタビューしたことがある。

 彼は1950年10月、朝鮮戦争で朝鮮人民軍が敗北を重ね、北朝鮮があわや国連軍(アメリカ軍)に統一されそうになった時、中国の人民義勇軍が中朝国境の鴨緑江を渡り、朝鮮戦争に参戦する様子を目撃したという。その時、人民義勇軍が進軍しながら掲げていた旗には、「我們一定要解放台湾!」(われわれは必ず台湾を解放する)と大書されていたそうである。

 中国にとっては、「朝鮮を解放する」ことが、「台湾を解放する」ことでもあったというわけだ。中国が不利と言われた朝鮮戦争に参戦を決めたのは、アメリカ軍が鴨緑江を渡ってきては困るということがあったのはもちろんだが、それに加えて、台湾を統一するためには朝鮮半島を抑えておかねばということもあったのである。

 毛沢東主席も、ある時、天安門の楼台に両手を広げて言ったと伝えられる。

 「私の左手の先には朝鮮があり、右手の先には越南(ベトナム)がある。この両国の盟友が安泰であれば、必ず台湾を統一できる」

 というわけで、朝鮮半島の状況がきな臭くなった時には、東シナ海と南シナ海にも目を向ける必要があるのだ。

 特に昨今は、周知のように新型コロナウイルスの影響で、世界中の防衛行動が手薄になりがちであり、各地で「火事場泥棒」のようなことが起きかねない状況にある。それは、東シナ海と南シナ海においても同様である。

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南シナ海が看過できない事態に
 そもそも今年1月11日、台湾の総統選挙で、独立志向の強い蔡英文総統が、817万票という台湾憲政史上、未曽有の得票数で再選された時から、今後の台湾海峡を巡る情勢が緊迫することは見えていた。

 この総統選挙の現地ルポは、新著『アジア燃ゆ』に詳述したので、どうぞご覧になっていただきたい。一言で言えば、蔡英文総統が再選を決めた夜の与党・民進党本部前広場は、さながら「独立集会」の様相を呈していた。香港の民主派の若者たちも合流して「ノー・チャイナ」を叫び、「台湾独立バッジ」まで堂々と売られていたのだ。

 蔡英文総統再選を受けて、対岸の中国政府は怒りのボルテージを上げていった。中国人民解放軍の艦船が、これ見よがしに台湾近海での航行を増加させるようになった。

 台湾は水面下で、アメリカに対して、より一層の近海防衛を要請。アメリカ軍も警戒を強めており、ドナルド・トランプ大統領にとっても台湾は、大量の武器を購入してくれている「顧客」である。

 この頃、中国は、湖北省の省都・武漢で、新型コロナウイルスが感染爆発した。1月23日、中国政府は意を決して、武漢を「封鎖」するという前代未聞の措置に出る。そして1月25日、まったく明るい気分のしない春節(旧正月)を迎えた。

 この春節の日、アメリカ軍は、南シナ海で「航行の自由作戦」を敢行した。このことで、中国側は怒り心頭となった。アメリカで言うなら、クリスマスの日に相手が挑発してくるようなものだからだ。

 しかしアメリカにしてみれば、あえて春節の日に警告しておくべきことがあったとも言える。それは、3ヵ月近く経った4月18日に判明した。

 この日、中国民生部が突然、「海南省三沙市に市の管轄区設立を国務院が批准した公告」を公布したのである。そこには、こう書かれていた。

 〈 国務院は近日、海南省三沙市に、西沙区と南沙区を設立することを批准した。三沙市西沙区は、西沙諸島(注:英名パラセル諸島)の島嶼及びその海域を管轄する。また中沙群島の島嶼及びその海域も代理で管轄する。西沙区の人民政府を、永興島(注:英名ウッディ島)に置く。

 三沙市南砂区は、南沙群島(注:英名スプラトリー諸島)の島嶼及びその海域を管轄する。南沙区人民政府は、永暑礁(注:英名ファイアリー・クロス礁)に置く 〉

 中国は、胡錦濤政権の末期にあたる2012年6月、海南省に西沙群島・南沙群島・中沙群島を管轄する三沙市を設立させた。これは、同年4月に、フィリピンと南シナ海の黄岩島(英名スカボロー礁)の領有権を巡って、激しく争ったことが背景としてあった。そして習近平政権になってから、南シナ海の7つの占領している島嶼を拡張し、人工島を建設していった。

 それが今回、さらに一歩進めて、「人民政府の設置」を発表したのである。そこに人が住んで、様々な活動を行っていくということである。そのうち、北方領土におけるロシアの政策を見習って、補助金をエサに居住者を募集しだすかもしれない。

 もちろん、人民解放軍も駐留するし、本格的にミサイルや軍事レーダーを配備すると、周辺国は警戒を強めている。アメリカ軍としても、南シナ海が看過できない事態になってきているのである。

偵察機に向けてレーダー照射
 2月には、米中両軍による一触即発の事態も発生した。3月26日に定例記者会見を開いた中国国防部の任国強・新聞局副局長兼報道官(大佐級)が、突然次のように述べたのである。

 「2月17日、中国海軍が公海上で、定例の演習を行っていたところ、アメリカ海軍のP-8A偵察機が、中国側の多数回の警告をも顧みず、中国艦隊に接近してきた。それは4時間以上にわたり、最も接近した時には、中国艦隊まで400m余りまで迫った。アメリカ側の無謀な飛行は、プロの軍人の操縦とは思えず、極めて安全を損なう行為だった」

 米中が一触即発となった場所は特定しなかったが、南シナ海か東シナ海であることは間違いない。この時は、中国艦隊がアメリカ軍の偵察機に向けて、レーダー照射を行ったとされる。

 こうした事態を受けて、3月3日、マーク・エスパー国防長官と魏鳳和・国務委員兼国防部長が、緊急電話会談を行った。

 だが、この米中国防相会談は、成果を見なかった模様だ。米中国防相会談から一週間後の3月10日、米ミサイル駆逐艦「マッキャンベル」が、南シナ海の中国が実効支配する西沙諸島で、「航行の自由作戦」を断行。3月15日には、空母「ルーズベルト」戦闘群が、南シナ海で軍事演習を行った。

 だが中国は、アメリカ側の再三の警告を無視して、南シナ海での「人民政府設置」を決めてしまったのである。

 なぜ4月18日に発表したかと言えば、おそらく4月23日の人民解放軍海軍創設記念日に間に合わせたかったからだろう。

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「一歩も引かない」姿勢
 いまの中華人民共和国の海軍は、建国から半年ほど前の1949年4月23日に創設された。そもそも毛沢東率いる共産党軍は陸軍しかなかったが、国民党軍の基地を接収する形で、華東軍区のある江蘇省泰州に、海軍を創設したのである。

 毛沢東時代は、「長江」「洛陽」「南昌」「黄河」「広州」という5隻の軍艦で、「帝国主義の侵略から祖国を防衛する」としていた。そうした初期の面影は、山東省青島にある海軍博物館に、すでに役割を終えた軍艦とともに展示してある。私は2016年に見学したが、その後、習近平主席の指示で立派に改装された。

 今年の海軍71周年は、新型コロナウイルスがまだ終息していないこともあって、昨年の70周年のような派手なパフォーマンスはなかった。その代わりに海軍は、「向海図強」と題した3分47秒の勇ましいビデオを発表した。

 このビデオは「潜艇」「水面艦艇」「航空兵」「陸戦隊」「岸防部隊」の5部構成で、空母、戦略核潜水艦、055型駆逐艦など、最新鋭の人民解放軍海軍の装備が登場する。「強国建設のため、南シナ海ではアメリカ軍に一歩も引かない」という中国の姿勢が、ひしひしと伝わってくる映像だ。

 「一歩も引かない」のは、東シナ海においても同様である。昨今、新型コロナウイルスを巡るWHO(世界保健機関)での米中対立が話題になっているが、WHO本部があるジュネーブよりも、台湾近海の方がより深刻な状況だ。

 前述のように、1月11日、台湾独立を志向する蔡英文総統が、台湾人の圧倒的支持を受けて、再選を果たした。そんな蔡英文政権を後押しするかのように、3月26日、トランプ大統領が「台北法案」(TAIPEI Act)に署名した。

 この法律は、台湾の外交・国際参加・経済貿易の3つの分野において、台湾の地位向上をバックアップするようアメリカ政府に要請している。例えば、新型コロナウイルス拡大を受けて、台湾がWHO(世界保健機関)にオブザーバーとして参加できるようサポートするといったことだ。昨年5月に上院で、10月に下院で審議が始まり、それぞれ順調に通過。蔡英文政権は、トランプ大統領が署名する日を心待ちにしていた。

 逆に中国からすれば、「絶対に許すまじ」とする法律だ。人民解放軍は3月16日、空警-500、殲-11などの戦闘機を、台湾西部及び南部の海域上空に派遣する「夜間訓練」を強行し、警告を発した。

 アメリカ軍も、「台北法案」が成立した時期から、「攻勢」を強めている。台湾側の4月21日の発表によれば、3月25日、26日、27日、31日、4月に入ってからも8日、12日、13日、14日、15日、17日、18日、21日と、EP-3E電子偵察機やB-52爆撃機などを、台湾南部海域に出動させている。3月25日にはミサイル駆逐艦「マッキャンベル」が、台湾海峡を越えた。

 このように、世間のニュースが新型コロナウイルス一色となる中で、南シナ海と東シナ海において、米中の角逐が激しさを増しているのである。

コロナ後の国際秩序はどうなるか
 特に中国側の「攻勢」を、新型コロナウイルスと関連づける見方もある。

 3月24日、空母「セオドア・ルーズベルト」に乗艦する3人から、新型コロナウイルスの感染者が出たことを、アメリカ軍が明らかにした。その2日後の26日にはCNNが、感染者が25人に急増したと報じた。

 さらに28日には、30人に増えたと報じられた。「セオドア・ルーズベルト」には約5000人が乗艦しており、ベトナムに寄港した後、現在はグアム島に停泊中だ。乗船者は隔離施設に入れられて、検査を受けた。

 3月27日、FOXニュースは、原子力空母「ロナルド・レーガン」でも、乗艦中の2人に陽性反応が出たと報じた。この空母は、横須賀基地を母港としている。これを受けて、横須賀基地も一時的に封鎖された。

 「感染症は軍隊が運ぶ」とは、古代から続く現象だ。約100年前の1918年~1920年に全世界で大流行し、最大で5000万人が死んだとされるスペイン風邪も、もとはアメリカ軍が第一次世界大戦のヨーロッパ戦線に運んだものだった。アメリカ軍からフランス軍とイギリス軍へ、そこから敵方のドイツ軍へ、さらには各国の軍隊から各国市民へと拡散していったのだ。約45万人が死亡したと推定される日本でも最初は、スペイン風邪を「軍隊病」と呼んでいたほどだ。

 感染症が世界秩序を変えることも、しばしば起こっている。直近では、このスペイン風邪が第一次世界大戦の終息を早めたことが挙げられる。

 1914年に勃発した第一次世界大戦は、長く膠着状態が続いていたが、1918年春にアメリカ軍が参戦し、たちまち合流したフランス軍に感染。同年5月から10月までに、フランス軍の感染者数は13万9850人、死者数は7401人に上り、戦闘不能状態に陥った。

 イギリス軍も、ヨーロッパ戦線に送り込まれた約200万人の兵士の中で、6月と7月だけで120万人以上が感染。やはり戦闘不能状態に陥った。

 スペイン風邪は、敵方のドイツ軍にも、たちまち広がり、ドイツ最強を誇った皇太子軍が最も打撃を受け、こちらも戦闘不能状態に陥った。8月8日の仏アミアン近郊での決戦に敗れると、主にスペイン風邪を恐れたドイツ軍の兵士たちが、100万人近くも脱走してしまった。

 こうして約1000万人もの戦死者を出した第一次世界大戦は、11月にドイツが降伏して終結したのである。その5倍もの死者を出したスペイン風邪は、「戦争終結の最大の功労者」と皮肉られた。かつ、事実上のヨーロッパ最強国家にのし上がっていたドイツ帝国は崩壊したのである。

 今回も、コロナウイルスが完全に終息した後、国際秩序が変わっていく可能性がある。東アジアの海洋覇権も同様だ。

歴史は繰り返すのか
 当然ながら、日本の尖閣諸島防衛にも、すでに影響が出始めている。

 海上保安庁の発表によれば、尖閣諸島近海への中国公船の襲来は、すでに日常化している。今年に入って、1月が接続水域への入域が27日、延べ98隻。領海侵入が2日、延べ8隻。2月が接続水域への入域が26日、延べ90隻。領海侵入が2日、延べ8隻。3月が接続水域への入域が30日、延べ101隻。領海侵入が1日、4隻。4月が24日現在で、接続水域への入域が21日、延べ72隻。領海侵入が2日、延べ8隻である。接続水域への入域は、前年同期比で約5割増しだ。

 これだけの中国公船を日々、相手にしている海上保安庁の苦労が忍ばれる。海上保安庁のバックで控えている海上自衛隊も同様だ。

 4月11日には、空母「遼寧」など6隻が、宮古海峡から西太平洋に入ったことが確認されている。この艦隊はその後、南シナ海へ向かった。この宮古海峡ルートは、最近の人民解放軍の西太平洋進出ルートと化している。

 中国からすれば、自国が新型コロナウイルスで深刻な事態になっていようが、「対外攻勢」は変わらないのである。むしろ、アメリカ軍がコロナ禍で疲弊している分、チャンス到来と考えているようにも見受けられる。

 4月24日の河野太郎防衛大臣の会見では、記者との間で、4月18日からアメリカ軍とオーストラリア軍が南シナ海で合同軍事演習を始めたことに関する質問が飛んだ。

 記者: 「中国が南シナ海で新たに二つの行政区を設置するなど、実効支配の動きを強めております。アメリカが、南シナ海でオーストラリアと共同訓練を実施するのを牽制していますけれども、コロナが感染拡大する中で、中国の動きについて大臣の受け止めを改めてお願いします」

 河野防衛大臣: 「独自の主張に基づいて、一方的な現状変更を試みるというのは、国際社会が許さないことです。新型コロナウイルス感染症の広がりによって、世界各国が協調していかにこれを封じ込めるかという時期に様々軍事的な拡大を図るというのは、いつにも増して許されないことだろうと思います。日本としては『自由で開かれたインド太平洋ビジョン』の実現に向けて志を同じくする国々とこれからもしっかりと協調してまいりたいと思います」

 アメリカ軍は、もはや一国では中国近海で中国軍に対抗できないとして、オーストラリアに援軍を求めているのである。本当は日本にも求めたいところだろうが、日本には憲法上の制約がある。

 ともあれ、日本の話題が新型コロナウイルス一色になっている間に、日本の周辺海域がにわかに緊迫してきている。「歴史は繰り返す」と言うが、100年前と似ているのはウイルスのパンデミックだけではないということだ。

近藤 大介(『週刊現代』特別編集委員)

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    • T

    武漢肺炎により、中国は太平洋の覇権を拡大するチャンスが到来したのの、思っていた以上にアメリカ海軍の戦力が大きく、非常に厳しい立場になりましたね。
    中国としては世界中が自国の事でてんやわんやしている内に少しでも覇権を拡大したいがために、昨今の行動に出ているのでしょうが、アメリカの生産能力と工業力を知らないがために、このような愚かな行為をしているのでしょう。貿易・経済戦争ではまず中国に勝ち目はありません。
    軍事力の面においても、コストや技術の問題により5つ目の空母打撃軍編成を断念した中国(よって現在4つ)が、現在11の空母打撃軍を運用するアメリカに歯向かうのは、戦前の日本より愚かだと思います。(ちなみにアメリカは有事になると工業力が桁で上がります)
    今は中国がアメリカに大ダメージを与える事に成功していますが、終息後には想像もつかないような報復が待っているでしょう。

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