朝日新聞はなぜ世論から隔絶してしまったか?

朝日新聞はなぜ世論から隔絶してしまったか?
9/6(日) 6:01配信

 (政策コンサルタント:原 英史)

 世論調査のかなりの部分は、本気で民意を測っているわけではない。例えばここ数年の朝日新聞では、世論調査を受けて、こんな見出しの記事が出ることが多かった。

 ・検察庁法改正「反対」64% 朝日調査(2020年5月)
・桜を見る会の首相説明「十分ではない」74% 世論調査(2019年12月)
・森友問題「決着ついていない」79% 朝日世論調査(2018年6月)
・加計問題「疑惑は晴れていない」83% 朝日世論調査(2018年5月)

 「83%」などと極めて高い数値が示され、インパクトは強い。だが、これは裏を返せば、「たいていの人はそう答える」と分かりきった、わざわざ聞くまでもない質問をしたことを意味する。結論先にありきの調査だったわけだ(さらに、質問文で「たいていの人はそう答える」ように細工が施されていることもある。具体例は『正論』9月号掲載の拙稿『民意測れない世論調査』で説明したので、ご関心あればご覧いただきたい)。

■ 紙面では政権批判してきたのに、世論は安倍政権を「評価」

 ポイントは、「たいていの人の答え」と「新聞の論調」が合致していたことだ。モリカケ・桜が典型例だが、記事・論説で政権を厳しく批判し、“トドメ”として「国民のほぼ総意だ!」と世論調査を使うスタイルが、パターンの一つとして確立していた。

 異変が起きたのが、2020年9月の世論調査だ。

 9月4日、『安倍政権を「評価」71% 本社世論調査』
との見出しが掲げられた。 これは朝日新聞の論調とは正反対。社説(8月29日付「最長政権突然の幕へ『安倍政治』の弊害 清算の時」など)では、

 ・「安定基盤を生かせず」成果は乏しかった、

 ・「長期政権のおごりや緩みから、政治的にも、政策的にも行き詰まり、民心が離れつつあった」、

 などと厳しく批判し、失政を検証する記事を次々に掲載する最中だった。

 おそらく朝日新聞は、逆の結果を想定していたと思う。「安倍政権を評価しない=7割」、「安倍政権で政治への信頼感低下=8割」などと見出しにしようと考えていたら、「評価する=71%」、「政治への信頼感は変わらない=59%」などと思わぬ結果が出てしまったのでないか。

 ちなみに、質問文でちょっとした小細工を施しておけば(例えば「安倍首相が任期途中で突然辞任を表明しましたが・・・」と、政権放り出しを想起させるフレーズを加えるなど)、結果はかなり違ったはずだ。だが、そんな小細工は無用と思うほどに「国民の大半は評価していないに決まっている」と確信していたのだろう。

 調査結果では、想定に反し、多くの国民は安倍政権を高く評価していたこと、特に外交・安保や経済政策で評価していたことが示された。

■ 局地的な世論誘導に傾注、民意計ることが疎かに

 なぜ朝日新聞は民意を捉えそこなったのか?  答えは、冒頭に戻って、本気で民意を測ろうとしてこなかったからだ。

 最近の世論調査で質問項目に並べられていたのは、モリカケ・桜をはじめ、朝日新聞が「重要」と考えるテーマだった。その一方で、国民が何を「重要」と考えているかは、ほとんど調べてこなかった。かつての朝日新聞の世論調査はそんなことはなかった。80年代の調査では、景気、社会福祉、教育、政治浄化、行政改革、外交、防衛などのテーマを並べ、何に関心・不満があるか、内閣に何を期待しているかを問うのが定番だったが、こうした質問は近年は稀になった。

 「国民が何に関心を持つべきか」は自分たちが示し、国民を教え導く。そんな“上から目線”を強めてきた結果、局地的な誘導には成功したかもしれないが、徐々に民意から大きく乖離してしまったのだと思う。新聞発行部数の減少はその表れの一つだ。

 今回の世論調査は、朝日新聞にとって良い機会だと思う。これまでの紙面が国民の多くの関心・期待に応えてきたのか、この際しっかり検証したらよい。民意を正しく測るため、世論調査の改良にも取り組んだらよい。

 民意からの乖離は、朝日新聞に限らない。マスコミ全体の課題でもある。さらに、マスコミのとりあげるテーマを偏重してきた国会論戦も同じ問題を抱える。マスコミ報道と国会論戦がいかにおかしくなっているかは、高橋洋一氏との共著『国家の怠慢』で詳しく論じた。どんな政権になろうと、民主主義の適正な機能のために、マスコミと国会の改革は不可欠だ。

原 英史

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