韓国・文大統領の演説に見る日韓関係悪化の元凶、元駐韓大使が解説

韓国・文大統領の演説に見る日韓関係悪化の元凶、元駐韓大使が解説
8/18(火) 6:01配信

ダイヤモンド・オンライン

 文在寅政権を取り巻く現状は厳しさを増している。とりわけ日韓関係は、文政権下では修復困難だといえる。

 そうした中で、文在寅大統領は14日、忠清南道天安市で行われた「日本軍慰安婦被害者をたたえる日」にビデオメッセージを寄せた。さらに翌15日には、ソウル市内で行われた「光復節(解放記念日)」記念行事に出席し、演説を行った。

 2つの公式発言に込められた文政権の対日姿勢は、日本に対する直接的な批判は避けており、これ以上日韓関係を悪化させないようにするという姿勢が見えるとの評価もあるものの、内容はいずれも従来の虚しい主張を繰り返したものだった。

● 演説で欠けていた大局的な視点

 慰安婦問題については、韓国では常に挺対協(後に正義連)が市民運動を通じて、韓国政府の見解や姿勢に強い影響を与える存在だった。しかし、元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)氏による挺対協(正義連)の不正を批判する記者会見が行われて以降、挺対協(正義連)の運動は一般市民から遊離し始めている。

 これまで日韓両政府による慰安婦問題の解決を妨害してきたのは挺対協(正義連)である。運動を通じて利権集団と化してしまった挺対協(正義連)にとっては、慰安婦問題が解決すると、それまでの利権と存在意義を失うからだ。

 文政権としては、不正疑惑が噴出した挺対協(正義連)と一線を画すことが、慰安婦問題での前進につながる。言うまでもなく、国民世論の挺対協(正義連)からの離反は、慰安婦問題に対する韓国内の取り組みの大きな転換点となりうる動きだ。文大統領が挺対協(正義連)をどう評価し、慰安婦問題に今後どう取り組んでいこうとしているのかという展望が、最大の注目点であった。

 光復節で示された徴用工の問題に関する発言は、文政権として日韓間の対話による解決を呼びかけるものであった。

 しかし日本側にとっては、韓国側の国際法違反を是正することが先決であり、韓国側がこれに応じない限り、日本側はいかなる妥協も考えていない。文大統領は日韓間の対話に言及し、あたかも日本側に責任があるかのような発言をしているが、これはあくまでもプロパガンダであり、相変わらず独善的な主張を繰り返していると言わざるを得ない。

 その他にも日韓間には対話すべきさまざまなテーマがある。しかし、韓国側は歴史問題に固執し、政治や経済、文化などの重要な分野に対する見識は全く見られなかった。

 韓国では国民世論は文政権の対日政策に大きく左右される。そのため、日韓関係を改善させるには、文政権が日韓関係を歴史問題に振り回されることなく大局的に捉え、国民世論を過度に反日に刺激しないことが何よりも重要だ。しかし、文大統領の2つの公式発言からはその姿勢は全く見られず、相変わらず歴史問題にこだわるのみである。

● 慰安婦問題を巡る市民運動は歴史的転換点に

 前述したように、韓国における慰安婦問題に対する取り組みは、市民運動を中心としたものから大きく変わる転換点であり、極めて重要な局面だといえる。そこで、この数日の動きを細かく見ていきたい。

 14日の「日本軍慰安婦被害者をたたえる日」を目前に控えた12日、恒例の日本大使館前の水曜集会が挺対協(正義連)によって開かれた。この集会は世界連帯集会との同時開催であったが、参加者は100人にも満たない規模で、取材陣の方が多いくらいであった。

 集会で行われた演説では、いつも行われる日本に対する激しい非難だけでなく、慰安婦問題とは全く関係のない検察とマスコミを非難するという、論点のはっきりしない支離滅裂な内容だった。参加者からは、熱気の感じられない集会であったという声も聞かれた。こうした変化は、市民の挺対協(正義連)に対する意識の変化を端的に表すものだといえる。

 5月7日、元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)氏が「尹美香(ユン・ミヒャン)にだまされた」「挺対協(正義連)に集まった寄付金は元慰安婦のために使用されていない」と暴露した後、尹氏個人や挺対協(正義連)を巡るさまざまな疑惑が提起されてきた。挺対協(正義連)に寄付してきた人々からは返還要求が起きている。

 また、元慰安婦が共同で暮らす「ナヌムの家」の運営を巡っても、寄付金の流用疑惑が持ち上がり、市民団体は理事長らを地検に告発した。寄付金約7.9億円のうち元慰安婦の生活に使われたのは約2.3%にすぎないという。

 こうした、慰安婦関連団体の不正にもかかわらず、文大統領は「慰安婦問題の大義は守るべき」として、あいまいな態度に終始しており、挺対協(正義連)の不正をもみ消そうとしているのではないかとの疑惑がある。現に検察は、疑惑発生後3カ月がたってやっと尹美香氏の聴取を行った。だが検察は文政権の顔色をうかがい、形だけの捜査で終わらせようとしているのか判然としない状況にあるといわれている。

 多くの一般市民は、これまで挺対協(正義連)が慰安婦を代表する団体として、彼らの主張に寄り添ってきた。それが、挺対協(正義連)を、一切の批判を許さない不可侵の存在にさせたのだが、こうした状況も急速に変化している。

 多くの元慰安婦は2015年に日韓両政府で合意した「慰安婦合意」を受け入れている。挺対協(正義連)は、かつて日本が設立した「アジア女性基金」を巡っても、多くの元慰安婦の意思に反し、日本からの償い金の受領を妨害したとされる。

 挺対協(正義連)の情報かく乱により、これらの事実は韓国国民の間ではほとんど知られていない。挺対協(正義連)の実態が暴かれたのを機に、事実に基づく慰安婦支援を行うというのが選択肢としてあるべきだ。

● 文大統領のビデオメッセージは矛盾だらけ

 これまで述べてきたことを踏まえて、文大統領の「慰安婦をたたえる日」に送ったビデオメッセージを解説していこう。

 文大統領のメッセージの主要なポイントは以下の通りである。

 (1)問題解決の最も重要な原則は「被害者中心主義」
 (2)おばあさんたちが「もういい」という時まで被害者が受け入れられる現実的で実現可能な解決策を探す
 (3)歴史をただすための調査・教育を進め、学生や市民と被害者の連携をはかる
 (4)市民運動の成果を継承、韓日の未来世代が進むべき方向を講じることで問題を解決

 日本への直接的な批判や挺対協(正義連)の腐敗についての言及はなく、比較的無難な内容となっている。

 しかし、主張には一方的な決め付けや矛盾だらけである。

 (1)の「被害者主義の原則」を守っていないのは、挺対協(正義連)や「ナヌムの家」など、元慰安婦支援者組織である。

 前述したように、元慰安婦を前面に出して集めた寄付金や政府の補助金の大部分は、慰安婦のためではなく、代表や理事長の個人的な目的、あるいは組織の目的のために使用されていたという疑惑がある。また、アジア女性基金や韓国政府が日本からの償い金を基に設立した「和解・癒やし財団」からの償い金の受領を、元慰安婦の意思に反し拒否させた。

 文政権はこうした不正をただし、元慰安婦のために集めた資金を、元慰安婦に戻すことを主導しないばかりか、むしろ挺対協(正義連)の尹美香前理事長の不正をもみ消そうとしているといわれている。これでは慰安婦の「被害者中心主義」とは程遠いと言わざるを得ない。

 (2)の「現実的で実現可能な解決策を探す」については、既に日韓両政府の合意した解決策は示されている。

 15年の慰安婦合意に際し、既に7割強の元慰安婦は合意を受け入れている。受け入れていないのは、慰安婦団体に近い強硬派の元慰安婦であり、それも個人の意思なのか組織の強制なのか分からない。文政権は、この現実を直視すべきだ。

 (3)の「歴史をただすための調査」というが、韓国が依拠している慰安婦の歴史は挺対協(正義連)によって作られたものであり、むしろ真摯に学術的研究を行い、書籍にまとめたものを発刊禁止にするなど、真実の歴史を調査する姿勢に欠けている。挺対協(正義連)の語る歴史は政治目的のために作り上げられた面も多い。

 (4)に「市民運動の成果」というが、これまで述べてきたように挺対協(正義連)を中心とした市民運動は挫折したのであり、より独立した立場から慰安婦問題を考えていくことが重要である。

 今回の演説には、挺対協(正義連)に関する言及がなかった。だがその活動を総括し、今後慰安婦問題にどう生かしていくかが最も重要ではないだろうか。文大統領の演説は、核心の問題を外し、従来の事実誤認に基づく自己主張をしているのみである。

● 徴用工を巡る発言は国内向けプロパガンダ

 次に、15日の「光復節」での文大統領の演説について見ていこう。ここでは、この数週間で問題が深刻化している徴用工に関連する部分を取り上げる。

 (1)一人の人権を尊重する韓国と日本の共同努力が、両国民間の友好と未来協力の橋渡しとなる。韓国政府はいつでも日本政府と向き合う準備ができている。今も協議の扉を開いている。

 (2)(徴用工訴訟の原告が、「私のせいで大韓民国が損をするのでは」と発言したことに関連し)一人の個人の尊厳を守ることが、決して国に損を与えることにならないという事実を確認する。三権分立に基づいた民主主義、人類の普遍的な価値と国際法の原則を守るため、日本と共に努力していく。

 (3)大法院の判決は大韓民国の領土内で最高の法的権威と執行力を持つ。政府は司法の判決を尊重し、被害者が同意できる円満な解決策を日本政府と協議してきた。

 ここで改めて指摘しておきたいのは、韓国政府の徴用工を巡る対応は、日韓請求権協定に反するものであるということだ。韓国政府の主張を認めることになると、これまでの日韓関係を根本的に覆すことになる。

 請求権協定には、解釈の相違が生じた場合には、仲裁によって問題を解決するという規定がある。日本側はそれにのっとって仲裁を提案したにもかかわらず、韓国側はこれを拒否してきたのが実態だ。文大統領が(1)で「韓国政府はいつでも日本政府と向き合う準備ができている」と主張しているが、これは事実に反している。

 韓国政府が日本側に求める対話は、あくまでも韓国の大法院の判決を認めた上で、徴用工の個人請求権を前提に徴用工の主張を満足させるための協議であり、日本側の立場とは大きな隔たりがある。

 そもそも大法院の判決は、文政権になって大法院の院長をはじめ判事を文政権寄りの人々に入れ替え、しかも文大統領による「元徴用工の個人請求権は消滅しない」という立場表明を受けた判決である。

 つまり、司法判断は文大統領の意向を受けたものであり、文大統領は大法院判決という錦の御旗の陰に隠れ自己主張を通そうとしているのだ。それによって、日韓請求権協定を覆させようとするものである。日本側がこのような主張を受け入れられないのは当然である。

 (2)に「三権分立に基づいた民主主義」とあるが、文政権は行政権と司法権を、人事を通じて実質的に掌握し、総選挙の後には国会も掌握して、国会での論議なくして法案を通過させた。そのような文政権が「三権分立に基づいた民主主義、人類の普遍的な価値と、国際法の原則を守るため日本と共に努力していく」と述べたとしても、額面通りには受け止められない。

● 対話努力は文政権の「責任逃れ」

 徴用工問題では、韓国政府は、差し押さえた日本製鉄の資産が現金化された場合の、日本政府の報復措置を懸念している。それでなくても、文大統領就任以来の経済政策の失敗、新型コロナウイルスによって落ち込む韓国経済に、新たな試練となることは避けられないだろう。しかし、徴用工の個人請求権は消滅していないと元徴用工をたきつけてしまった以上、後戻りできない。

 慰安婦問題では、韓国側から妥協案が示されたことはほとんどない。むしろ日本側に案を出させ、韓国側がさらに要求をしてくるというのが日韓交渉のパターンであった。しかし、元徴用工の問題については、韓国側が次々に案を出してきている。それだけ韓国側も対応に困っているということだろう。

 問題は、日本側が受け入れられるような案が全くないということである。

 そこで、韓国政府としての対話努力を前面に出し、仮に日本の報復があり、経済に深刻な打撃が及んでも、日本政府に責任を押し付ける以外に韓国政府として何もできないという現実を表した発言とみるのが実態に近いのではないか。

 文政権は、不動産政策で国民の生活を脅し、政権幹部の財テクで不満が高まっている。雇用問題では、良質な雇用が失われ、特に若年層の失業問題が深刻な状況だ。さらに、朴元淳(パク・ウォンスン)前ソウル市長のセクハラ問題では、主要な支持基盤である30代女性の離反が始まった。北朝鮮に対して続ける親北政策も、北朝鮮からの拒絶反応に見舞われている。

 日韓関係以外にもこれだけ多くの困難を抱え、最近の世論調査(韓国ギャラップ、14日発表)では、支持率は前週比5ポイント減の39%に、不支持率は同7ポイント増の53%となった。別の調査では、与野党の支持率が逆転したという結果も出ている。

 文政権に対する韓国国内の信頼は失われている。文大統領が2つの演説で述べた日韓関係に関する政策についても、国民からの信頼は得られていないのではないだろうか。そのことを念頭に、文大統領が政策の軌道修正をしない限り、日韓関係の改善は見通すことはできない。

 (元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)

武藤正敏

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