肥育ホルモン剤入り牛肉の輸入規制ない日本 そこにある食卓の危機
アメリカのスーパーには「ホルモンフリー」牛肉が並ぶ(Getty Images)
発がんリスクのある「肥育ホルモン」が含まれたアメリカ産牛肉の輸入量が激増している。財務省の速報では、今年1月のアメリカ産牛肉の輸入量は2万1428トン。2019年1月は1万7525トンだったから、なんと前年同月比122%。その理由はトランプ大統領に“押しつけられた”日米貿易協定の発効だ。
1月1日からアメリカ産牛肉の関税率は38.5%から26.6%に下がり、4月からは25.8%になる予定だ。すでに、農畜産業振興機構が2月10日に発表した速報によると、2月初週(3~7日分)の輸入牛ばら肉1kg当たりの卸売り価格は、オーストラリア産が3円値上げした半面、アメリカ産は10円の値下げとなっており、アメリカ産の方が100円近く安い。このペースで価格差が開いていけば、流通量が上増しする可能性が高い。
東京大学大学院農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘さんはこんな見通しを明かす。
「牛肉の食料自給率(輸入牛肉に対し、日本国内で生産されている割合)は現在、35%くらい。それが2035年くらいになると16%にまで下がると試算しています。安価な輸入品が大量に日本市場に流入することで、国産の農畜産品が割高になるからです。同時に、日本の生産者が苦境に陥るのは間違いない」
私たちが値段で食材を選んでいると、安全な農産物を生産する日本の農畜産業の担い手が激減。極論すれば、いなくなってしまうかもしれないのだ。鈴木さんが続ける。
「肥育ホルモン剤以外にも、『ラクトパミン』という家畜の餌に混ぜる成長促進剤があります。人体に有害だとして、EUだけではなく中国やロシアでも使用と輸入が禁じられていますが、日本は国内使用は認可されていないものの、アメリカからの輸入は素通りになっているのです」
日本の“食の安全後進国”ぶりが浮き彫りとなる話だ。それでもアメリカ産牛肉は破竹の勢いで日本に流入している。今年1月分の輸入量から見ると、いずれは長らく牛肉の輸入元の第1位に君臨し続けたオーストラリア産牛肉を上回る予想もある。
実は、肥育ホルモンはオーストラリア、カナダ、ニュージーランドなどでも使用されている。ただし、アメリカ以外の国は、国際機関「コーデックス」が定めた基準を下回る残留基準値をそれぞれが取り決め、それを上回るものは出荷されないが、アメリカだけは「残留基準値の設定は不要」として定めていない。さらに、国内での肥育ホルモンの使用を禁じているはずの日本は、国際基準を大きく超える残留基準値を定めている。肥育ホルモンが“測定不能”なほど含まれているアメリカ産牛肉を受け入れるためでなければなんだというのだろうか。
「国産なら何も書いていなくてもホルモン剤不使用ですが、輸入牛肉で、特に『ホルモンフリー』などと明示されていないものは、必ず肥育ホルモンが使われていると思った方がいい」(鈴木さん)
財布を取るか、健康を取るか
食の安全に詳しいライターの小倉正行さんも、肥育ホルモン剤入り牛肉の輸入をまったく規制していないのは日本だけだと話す。
「諸外国は日本向けだけに肥育ホルモンを使う。日本は先進国で唯一といえる肥育ホルモン剤入り肉の輸出先になってしまっています」
蔓延するホルモン残留肉を避ける方法は3つある。1つ目が、国産肉を買ってきて自分で料理すること。2つ目は外食時に「緑提灯」の店を選ぶこと。
「国産食材の使用量が50%以上の飲食店は、店頭に緑色の提灯を掲げている。『5つ星』と明記している店の使用する食材は90%以上が国産。安全意識が高いので、必ず原産地も教えてくれます」(小倉さん)
最後がオーガニックをうたうレストランに行くこと。農水省がJAS認証する準備を進めており、有機食材を80%以上使用することが条件だ。自然素材で育てられ、もちろん肥育ホルモン牛肉は使えない。財布には厳しそうだが、ひるんではいけない。
「安いものを食べて病気になったら手遅れです。ホルモンは10年単位で影響が出るといわれています。今動かないといけない」(鈴木さん)
それでもまだ“安い”を理由にアメリカ産牛肉を買いますか?
※女性セブン2020年2月27日号
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