コロナでイベント中止、政府に補償求めるのは筋違い

コロナでイベント中止、政府に補償求めるのは筋違い

 (尾藤 克之:コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員)

 政府が新型コロナウイルス対策でイベントの打ち切りや延期を要請したことに起因する様々な声があがっています。また、昨日、安倍首相が3月2日からの全国一斉休校を要請するとの報道がされました。これらの決断に際して、政府の責任を問う声が少なくありません。私たちはどのように行動することが望ましいのでしょうか。

■ 「自己責任批判」は正しいのか

 2月26日、政府がイベント自粛について方針を示した後、ミュージシャンなどから疑問を呈するコメントが寄せられていました。

 能楽師・槻宅聡さんは「丸投げに等しい」とツイート。

 「能・狂言を主催する側としては、一律の自粛は求めないのに、開催の必要性を検討してほしい、というのは判断を丸投げされたに等しい。中止すればチケットは払い戻し、会場へは使用料を、出演者には違約金を払わなければならない。この損害に耐えられる主催者でなければ開催するしか選択肢がない」(原文ママ)

 ミュージシャンの西川貴教さんは、「自己責任は無責任」とツイート。

 「なぁなぁ、で結局のとこライブとかイベントはやっていいの? あかんの? どっち? やっても怒られて、やめても怒られる… そろそろ政府でちゃんと決めて欲しい( ⌯᷄௰⌯᷅ ;)<「自己責任」は無責任ッスよ…」

 一方で、時事通信によれば、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるため安倍晋三首相が大規模イベントの自粛を呼び掛けた26日、秋葉賢也首相補佐官(自民、衆院宮城2区)が地元で政治資金パーティーを開いていたことが分かったことが報道されました。身内には周知徹底しているようには思えません。

■ 「興行中止保険」で補填されるのか

 新型コロナウイルスの感染拡大で多くのイベントが中止に追い込まれるなか、損害を補償する「興行取り止め保険」への関心が高まっています。HP上で中身が検証可能な、東京海上日動、三井住友海上の中身を検証します。

 <東京海上日動>
 保険金を支払うのは、悪天候、交通機関の事故等の不測かつ突発的な事由により、イベントが中止または延期した場合とし、こちらも、イベントごとにオーダーメイドで設計するとしています。なお、イベントの出演予定者以外の者が、感染症にかかること、かかっている疑いがあることまたはかかるおそれがある場合は補償されないとの記述があります。

 <三井住友海上>
 コンサート、演劇、スポーツ大会、お祭り、花火大会等の興行(イベント)が、悪天候、出演者の傷害や疾病による出演不能、交通機関の事故等の不測かつ突発的な事由により中止や延期を余儀なくされた場合に、興行の準備のために既に支出していた費用や、中止や延期に伴い臨時に支出が必要となった費用に対して保険金を支払うとしています。感染症が起因となった場合、補償されないものと考えられます。

 感染症拡大のため交通機関が運休するなどして中止に追い込まれた場合は補償されますが、今回のようなケースは補償されないようです。被害やリスクの規模、そもそもの危険度が把握できないことが理由です。

■ 日本は民主主義国家

 筆者は、今回の政府の決断は英断だと考えています。リスクコントロールとしてはやむを得ない判断だからです。「政府の結論が遅いから」「政府に危機感がないから」という批判あります。しかし、このような批判は筋が通らない話です。政府に決めさせて、それで中止するなら補償してくれという主張は虫が良すぎます。

 日本では民主主義国家です。自由な活動や表現は許されていますが、その前提は自己責任です。こんなことで国に補償を求めていたら大変なことになります。補償の元は私たちの税金だからです。今回のことが補償されるなら誰も努力をしなくなってしまうでしょう。

 今回の新型コロナウイルスの感染拡大に関して、国家緊急権の話をされていたコメンテーターがいました。これは、戦争や災害などの緊急事態に際して、政府が平常の統治秩序では応対できないと決断した場合に、憲法秩序を一時停止する措置のことです。しかし、日本国憲法においては人権侵害や独裁につながるという理由から国家緊急権の議論は決着をみていません。

 2016年3月30日、第二東京弁護士会は「『国家緊急権』を憲法上に創設することは立憲主義に反し極めて危険であり不要であるとする会長声明」を出しています。「一時的にせよ行政府への強度の権力集中と憲法上保障された人権の制限を図るものであるから、行政府による濫用の危険性が高く、基本的人権の尊重と権力分立を旨とする立憲主義体制を根底から否定するものであって、そもそも日本国憲法上認めがたい」のが理由です。

 つまり、いまの日本では国家緊急権の行使ができません。そのため政府には強制力がないので、自粛要請になるのです。

 それなのに、政府に責任を転嫁し、イベント中止などについての補償を求める声が一部で出ています。政府が先頭に立って強制力をもってコントロールするのであれば、憲法改正により国家緊急権を制定する必須があります。いま、政府を批判している人は、立憲民主主義にそぐわない体制に移行せよと主張しているようなものです。自らの主張がそれほど危険なものであることに気がついていないようです。

 新型コロナウイルスの問題は自然災害と同じようなものです。国に補償を求めるのは道理にかないません。私たちがすべきことは、政府の方針を踏まえて行動することです。感染拡大を抑制するために数週間は活動を控えて、人混みをさけ、手洗いやうがいを徹底し健康状態に留意するしかありません。

 元大阪市長の橋下徹氏が27日、感染が拡大する新型コロナウイルスについて「ピンチをチャンスに変える!」と発想の転換を呼びかけました。この時こそ、テレワークの普及、遠隔授業・遠隔診察の解禁、シッター費用の税額控除などを進めるべきだという主張です。こうした取り組みの必要性は、今まさに、過去にないほど高まっています。技術やノウハウ、法的整備などは、橋下氏が言うように、一気に進めるチャンスと言えます。

 今回、政府は大きすぎる決断をしました。いまこそ、政治家の叡智が必要とされています。

尾藤 克之

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