ビル・ゲイツが期待を寄せて投資する「熱帯雨林を破壊しない人工パーム油」

ビル・ゲイツが期待を寄せて投資する「熱帯雨林を破壊しない人工パーム油」

「ビールを醸造するように、室内でパーム油を醸造する」
研究室生まれの人工肉(培養肉)ならぬ、研究室生まれの「パーム油(培養植物油)」に注目が集まっている。

きっかけは、マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツが、とある米スタートアップ企業へ、自身が立ち上げた投資ファンド「ブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ」から、日本円にして22億円以上の投資をおこなったことだ。

そのスタートアップ企業とは、微生物を活用してパーム油の代替品を作る「C16バイオサイエンシズ」。創業は約3年前。拠点はニューヨークだ。

「ビールの醸造、発酵プロセスに着想を得た」という創業者のシャラ・ティックは、この人工パーム油の製法について「ビールを醸造するように室内で、パーム油を醸造する」と語っている。

原料は、主に食品廃棄物。いわば、微生物(酵母)を使ってゴミを人工パーム油に変えるというもので、これまでの、採って、使って、捨てる「一方通行型」ではなく、「サーキュラー(循環)型」のビジネスモデルだ。フードロスの減少にも貢献することが期待されている。

また、同社の人工パーム油は、従来の生産方法を根本から覆すところも新しい。環境破壊を起こさない製法であるだけでなく、最終的には現在流通しているパームオイルよりも安価に提供できる可能性が高いと、注目されている。

パーム油の需要増に応えるために熱帯雨林が消えている
米ビジネス誌の「ファスト・カンパニー」は「ビル・ゲイツ、熱帯雨林ではなく、ラボで人工パーム油をつくる会社に投資」という見出しで報じた。

記事では、ビル・ゲイツが投資先に選んだのが、熱帯雨林を保護する団体ではなく、その破壊の大きな要因のひとつであるパーム油産業にテコ入れをする、新興テクノロジー企業であることを強調している。

日本語では「植物性油」と表記されていることが多いパーム油。それは、スーパーマーケットに並ぶ、実に50%の商品に含まれると言われている。

たとえば、アイスクリームやクッキー、パン、マーガリン、化粧品、石鹸、シャンプーなど。日用品の多くに含まれていることからもわかるように、パーム油の汎用性はきわめて高い。また、人口増加の影響もあり、世界中で需要が高まり続けている。

グローバル・レポートによると、その市場規模は、2015年時点ですでに6兆5000億円以上、2021年には9兆2000億円以上になると見込まれている。

この需要の高まりに伴い、栽培地を拡大するための熱帯雨林の伐採や焼き払いの横行が大きな問題になっていた。後者の放火は、木を伐るよりも安価に栽培地を拡大できることが理由だと、米「ブルームバーグ」は述べている。
パーム油の原料となるアブラヤシは、高温多湿の熱帯地域で育つ植物。原産国は西アフリカや中南米だが、WWF(世界自然保護基金)によると、現在、パーム油の85%以上はマレーシアとインドネシアで生産されている。

熱帯雨林は空気中の二酸化炭素を取り込み、酸素を生産する大切な資源である。それを伐採すれば、大気中の二酸化炭素が増えるのはもちろん、熱帯雨林を焼くことでも大量の二酸化炭素が排出される。インドネシアでは昨年、90万人以上が呼吸器疾患を訴えたと、米誌「ファスト・カンパニー」は報じている。

また、環境面での問題だけでなく、そこに住んでいたオランウータンなどの野生動物たちの生息地が奪われるといった、生態系破壊の問題も抱えていると同誌は述べる。

途上国での児童労働搾取、低賃金、強制労働問題にもつながり、加えて、東南アジアからの長期間の船上輸送による酸化を防ぐために使用される酸化防止剤の人体への悪影響の可能性もたびたび問題視されてきた。

人工パーム油はアブラヤシを必要としない
環境にも人権にも野生動物にも悪いなら、パーム油の使用をやめればいい、もしくは他の植物性油に代替えすればいいではないか、という声が聞こえてきそうだが、そう簡単にはいかない。上述の通り、パーム油ほど汎用性が高く、安価に生産できる植物性油は珍しく、また、他の植物性油をバーム油と同等量生産するとなると、その環境負荷はいま以上になりかねないとの指摘もある。

これに対し「C16 バイオサイエンシズ」は、根本的な「生産方法さえ変えれば」、環境、人権、野生動物に悪影響を与えないパーム油の生産は可能だと主張する。

微生物を使って、食品廃棄物を人工パーム油に変える製法のため、アブラヤシを必要としない。つまり、栽培地を拡大するために熱帯雨林を伐採する必要はいっさいなく、野生動物が生息地を失うことも、また、非人道的な労働搾取もない。

クリーンな製法で作られた人工パーム油に企業も興味津々
パーム油の問題は今日まで野放しにされてきたわけではない。2004年に設立された「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」 は、持続可能なパーム油の生産と利用を促進することを目指し、250以上の企業が加盟。生産・流通のトレーサビリティを明確にし、問題に対して無責任な行いをする生産者のパーム油を使用しない取り組みを進めてきた。

しかし、10年以上に渡る取り組みは「ほとんど実を結ばなかった」と、前出のティックはファスト・カンパニーに対して語っている。ただ、クリーンな製法で作られた人工パーム油に興味を示す企業は多く、すでに100社ほどが人工パーム油に興味を持っているという。

今回の出資によって、C16バイオサイエンシズはチームの拡大と、テクノロジーのスケールアップを試みるとのことで、ブルームバーグによると、1週間に10kgだった生産量を100倍に拡大する予定だという。

まずは、化粧品やシャンプー、石鹸などに使用される製品から試し、FDA(アメリカ食品医薬品局)のお墨付きや消費者からの信用を得たあと、食品へと展開していくだろうと報じられている。

ビル・ゲイツが創設したエネルギー・イノベーション投資ファンド「ブレイクスルー・エナジー」は、温室効果ガスの削減を目指してきた。当初は、太陽光発電や風力発電などクリーン・エネルギーへの支援に力を入れていたが、昨年頃から、他の分野への支援を示唆している。

たとえば、温室効果ガスの排出は「化石燃料だけでなく、農業にも注目すべき」と自身のブログで発言している。

米テクノロジーニュースサイト「ギークワイヤー」は、ビル・ゲイツが注目する、農業分野の温室効果ガスの排出削減を叶える5つのスタートアップを取り上げており、「C16バイオサイエンシズ」はそのひとつだった。

同社以外には、以前に取り上げた多年生の穀物「カーンザ」に携わる企業や、バイオテクノロジー企業で植物のための善玉菌を開発する「ピボット・バイオ」、青果物の表面を特殊コーティングすることで、劣化を遅らせ消費期限の延長に取り組む「ケンブリッジ・クロップス」や「アピール」などが取り上げられている。

COURRiER Japon

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