“副産物”が地球救う?! 「焼酎かす」が高性能電池に変身 鹿児島のベンチャーが開発
焼酎かすの活性炭に電極を取り付けた焼酎かす蓄電池。左端は焼酎かすの活性炭=福岡市東区和白東の福岡工業大で2020年2月4日午後2時2分、杣谷健太撮影
焼酎の本場・鹿児島県のベンチャー企業が、リチウムイオン電池に代わる次世代の電池の実用化に取り組んでいる。2~3年後には完成させ国内外で売り出す計画だが、そのカギとなる原料は、焼酎製造の際に出る「焼酎かす」なのだという。
ベンチャー企業は2019年4月に設立された「BlueForce」(鹿児島県霧島市)。電池製作には、同社の最高技術責任者で福岡工業大の田島大輔准教授(電気工学)が開発した、焼酎かすによる活性炭の作製技術を活用する。
焼酎かすは、芋や麦、米などの原料を発酵させた「もろみ」を蒸留した後に残る液状の副産物。日本酒造組合中央会によると、17年度の発生量は約71万8000トンに上り、うち九州が大半の約70万4000トンを占めている。環境規制の強化で近年は海洋廃棄ができなくなり、製造業者が発酵させて燃料用のメタンガスを取り出したり、飼料にしたりするなど2次利用を進めているが、施設建設費や処理費がかさみ、負担になっているのが現状だという。
田島准教授は、宮崎大農学部在籍時に焼酎かすの廃棄問題を知り活用法の研究を始めた。着目したのは、焼酎かすに含まれる固形物に、元々小さな穴がたくさん開いていること。この特徴を生かそうと、炭化させた上で、窒素を使ってさらに小さな穴を開けて表面積を増やし、多くのイオンが吸着できる活性炭にする技術を約10年がかりで開発した。各種焼酎かすを試したが、芋焼酎のかすが最も表面積が大きくなりやすいという。
同社はすでに、この焼酎かす活性炭に抵抗を少なくする導電材などを混ぜて成型し、電極などを取り付けて蓄電池を製作することに成功。ヤシ殻を使う従来の主流の活性炭蓄電池より電気をためる能力が2倍程度高く、原料の輸入も不要なためコストも約3分の1で済むものができている。
こうした基盤のうえで開発に取り組んでいるのが「金属空気電池」だ。マグネシウムなどの金属と空気中の酸素との化学反応で電気を生み出す電池で、リチウムイオン電池より高エネルギー化が可能とされる。各社で開発競争が繰り広げられているが、酸素を吸着させるための電極に一般的に使われるのは活性炭。同社は吸着力の高い焼酎かす活性炭を使うことで、より出力の高い電池の実現を狙っている。完成すれば、電気ロスをも減らせるよう焼酎かす蓄電池と組み合わせた電源ユニットに仕上げ、世界に向けて売り出したい考えだ。
リチウムイオン電池は、パソコンやスマートフォンなどに幅広く使われているが、大きなエネルギーが必要となる電気自動車では、航続距離が短いなどの課題がある。金属空気電池を使った同社の電源ユニットが実現すれば、廃棄物を減らして環境にも優しいうえに、電気自動車の航続距離を飛躍的に延ばすことも可能になる。工業用の電源などとしても活用が期待できるという。
田島准教授は「廃棄処理が課題となっている焼酎かすから、『産地直送』の電池を生み出し、世の中に貢献したい」と話している。【杣谷健太】
◇消費量日本一、全国ブランド、焼酎王国・鹿児島
鹿児島県は全国で最も本格焼酎が飲まれている「焼酎王国」だ。国税庁によると、成人1人当たりの消費量(2017年度)は21・8リットルで、全国平均(4・3リットル)を大きく上回る。日本酒造組合中央会によると、20年2月末現在の組合員数(焼酎)は111と、製造業者数も全国1位を誇る。
代表的な銘柄に、森伊蔵(森伊蔵酒造)、伊佐美(甲斐商店)、黒白波(薩摩酒造)、玉露(中村酒造場)などがあり、全国にファンを持つ名酒も数多い。ただ、本格焼酎の出荷量では、14酒造年度(14年7月~15年6月)以降は全国2位となり、18酒造年度の出荷量は10万1022キロリットル(前年比7・1%減)だった。この間の1位の座は、黒霧島などのブランドで知られるライバルの宮崎県に譲っている。
本格焼酎は米や麦、芋などの風味が残る単式蒸留機で作られた焼酎。連続式蒸留機を使った無味無臭の焼酎と区別される。
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