韓国で大騒動、元慰安婦団体をめぐる「疑惑の数々」が止まらないワケ

韓国で大騒動、元慰安婦団体をめぐる「疑惑の数々」が止まらないワケ

5/26(火) 7:01配信

 李容洙(イ・ヨンス)氏は5月7日、記者会見を開き、韓国挺身隊問題対策協議会(以下、挺対協)の後継組織である正義記憶連帯(以下、正義連)と尹美香(ユン・ミヒャン)氏が、元慰安婦の人々を「騙すだけ騙してきた、利用するだけ利用してきた」として暴露した。

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 これを契機として、韓国では保守系政党や報道機関は正義連の不正疑惑を次々に持ち出し、不正疑惑が広がると、進歩系メディアも尹美香氏を中心とする正義連が元慰安婦を利用して、数々の不正行為を繰り返してきたと伝えた。

 これまで正義連は韓国において元慰安婦を支援する組織として、20年間にわたり、日本大使館の前で、雪の日も、雨の日も水曜集会を行い、慰安婦問題の唯一の代弁者の地位を築いてきた。その実績があって正義連は神聖な存在となり、これを批判することは許されなかった。しかし、次々と広がる不正疑惑で、正義連批判はもはや聖域ではなくなった。

 そうした中で報じられているのが、北朝鮮とのつながりである。

 尹美香氏の夫、金三石(キム・サムソク)氏と妹の金銀周(キム・ウンジュ)氏の「兄妹スパイ事件」はひそかに語られてきた。これは、1993年、両名が国家保安法違反で国家安全企画部(現国家情報院)によって捕らえられ、懲役刑を言い渡されていたものであるが、2016年に再審を通じて一部無罪の判決を受け、民事訴訟を通じて2018年に1億8000万ウォンあまりの国家賠償も認められた。

 他方、金三石氏と妹のスパイ容疑は2017年3月、最高裁によって「92年に日本で反国家団体である在日韓国民主統一連合(韓統連)議長らと会い、少なくない金品を受け取った」ことが認定され、一部有罪判決が確定し、北朝鮮のスパイ活動に関与したことが明らかとなった。2人の有罪判決は本来ならば注目を集めてもおかしくないニュースだが、韓国のメディアの扱いは小さかった。朝鮮日報が報じた「疑惑」

 尹氏自身も平壌を訪問したことがあるという。また、挺対協をめぐる「親北」疑惑には、金正日総書記の死去の際に弔電を送った、主要メンバーが「親北反米」の政治思考を有する、朝総連との関係がある、13年に警察に国家保安法違反容疑で電子メールを家宅捜索された、などがこれまで指摘されてきた。

 尹氏はこうした正義連、挺対協をめぐる「親北」疑惑を否定しているが、疑惑はそれだけではない。朝鮮日報によれば、挺対協と市民団体「平和ナビ」は「欧州平和紀行」というプログラムを運営し、参加した学生に欧州で北朝鮮のスパイと会わせるなど、親北・反米教育を行っていたとの証言が明らかになったという。欧州平和紀行は、中高生、大学生に参加費を支払わせて欧州各地を旅行し、慰安婦問題を広める目的で2014年に始めたものである。

 「平和ナビ」の運営人の大半は院外政党の民衆民主党のメンバーである。同党は利敵団体に当たるとの判決を受け、解散させられたコリア連帯の後進である。また、「欧州平和紀行」に参加した学生たちがパリで開く水曜集会にはフランスのブノワ・ケネディ氏という人物が登場する。同氏はフランスの元公務員だが、北朝鮮に核開発関連の情報を渡し、18年11月にフランスの秘密を漏洩したとして逮捕され、国家反逆罪で裁判を受けた人物である。

 さらに、欧州平和紀行に参加した尹氏はフランスでケネディ氏とともにチョ・ドクウォン元コリア連帯と会っていたが、同氏は、1992年に北朝鮮に機密を流出させたとして、国家保安法委で懲役7年の刑を受け服役した人物である。

「親北路線」の文在寅政権

 一行は各地で水曜集会を開いていたという。そして休憩時間や打ち上げの際には民衆民主党のメンバーを自称する主催者関係者が学生に接近し北朝鮮を賛美する『思想化教育』をおこなったというが、それは本来慰安婦問題とは関係のないものだろう。

 こうした行動は学生の間で北朝鮮親派を広げ、北朝鮮のための工作を行う人々をリクルート、育成する行為だと言われても仕方がないのではないか。韓国社会の中に北朝鮮の利益集団を作り出し、韓国社会を混乱させようとする動きと見る向きもある。

 韓国には北朝鮮から多くの工作員が入り込んでいることは公然の秘密であるが、韓国の若者を北朝鮮としてリクルートしていれば、韓国政府はもっと敏感になって警戒してもいいはずである。

 しかし、現在の文在寅政権は、2010年に北朝鮮が韓国の哨戒艦「天安」を撃沈し、韓国人将兵46人が犠牲になった後に韓国政府が北朝鮮に対して課した制裁「5.24措置」について、「事実上、実効性がかなりの部分で失われた」「南北交流・協力を推進するにあたり、これ以上障害にならない」と事実上無視する政権である。

 現政権もこれまでは「5.24措置」を解除できないでいたが、総選挙での圧勝を受け、事実上廃止の方向に舵を切ったのだろう。

 また、今年5月に、北朝鮮が韓国の監視所を銃撃した時も、説明を求める電話通知文を送っただけである。抗議も報復もしていない。もともと文在寅政権は、日米韓の連携には躊躇しても、中朝に接近する傾向にある。それだけに文政権のトップは大統領も含め、北朝鮮に心情的には近い人々だといえる。

 北朝鮮に近い思想教育をすることにそれほど抵抗はないのかも知れないが、その結果、韓国はますます左傾化し、日米韓の協力関係から離れていくことが危惧される。文政権はいつレッドチームに入ってもおかしくない政権ともいえよう。元脱北者の「証言」

 中国の柳京食堂に北朝鮮から派遣されてきたホ・ガンイル支配人は北朝鮮女性12人とともに韓国に脱北したが、当時は朴槿恵政権下であり、北朝鮮は「国家情報院が捏造した前代未聞の集団的誘因拉致」だとして「全員を即刻送り返すべき」と強く反発していた。

 挺対協の尹代表夫妻は、2018年、民主社会のための弁護士会(民弁)とともに、元慰安婦のため購入した京畿道安城市の憩いの施設に「柳京食堂」からの脱北者の一部を招き、北朝鮮に戻るように勧誘。その勧誘を断ると後援の名目でカネをくれたとホ・ガンイル氏は証言している。懐柔対象の脱北者には、挺対協が民弁所属の弁護士を通じ毎月30-50万ウォン(約2.6-4.3万円)を送金していたという。

 ホ氏によれば、民弁は「(国家情報院の)企画脱北について公開記者会見を開いて韓国国民に国家情報院の工作事実を知ってもらおう、全員が韓国に行くことを知らずに脱出したと公開会見で話せ」と求めた由である。

 民弁はホ氏の主張に反駁し、「(我々が)北朝鮮に戻るように勧めたり、強制したりする理由はない」とする資料を出した。しかし、ホ氏は(民弁は)「北朝鮮にいる母親に会いたくないのか」として母親の手紙を渡したそうである。

 これは北朝鮮に帰って来いとの勧誘ではないかとホ氏はいう。昨年3月ホ氏は、韓国では安全は保障されないと判断し、海外に亡命した。

 民弁は、脱北した北朝鮮女性従業員が人権侵害に遭っているとして国連人権委員会に陳情したが却下されている。国連人権委員会は、脱北者が韓国で「活動の制約がない平凡な市民」として暮らしている一方、民弁は従業員やその両親の明白な委任を受けていないことから、陳情は採択できないと表明した。

北朝鮮からの脱北者を「本国送還」した文政権

 韓国政府は、2019年11月、北朝鮮のイカ釣り漁船に乗っていた漁船員が16人を殺害した後、韓国への亡命を希望していたにも拘わらず、ほとんど取り調べをすることなく、「2人を信用できない」「重大な犯罪者を韓国国内に留めるわけにはいかない」として、目隠しをしたまま、南北境界線上にある板門店に連れて行き、北朝鮮に引き渡した。

 こうした行動は、この「柳京食堂」の集団脱北がトラウマになって北朝鮮の反発を憂慮したための行動かも知れないが、いずれにせよ、挺対協は北朝鮮親派の民弁と一緒になって集団脱北の従業員を北に送り返そうとした。彼女たちが北に送り返されれば、どのような仕打ちを受けるか恐ろしい限りである。韓国政府は、それと同じことを漁船員に対して行っているのである。

 尹氏は慰安婦問題を主導することで、多くの寄付金を集め、政府からは補助金を得ており、これらを個人的に着服したのではないかとの疑いを掛けられている。それだけの資金源も、慰安婦問題が解決すれば、慰安婦問題への関心が細り寄付金収入が激減するのではないかと危惧したはずである。そのため、問題の解決を終始妨害してきたのではないかとすら考えられる。ちなみに、慰安婦問題で日韓が対立すれば、日米韓が連携して北朝鮮と対峙するのを防ぐ効果も生まれる。

 いずれにせよ、李容洙氏の暴露で正義連の実体、本質が明らかになった。

 金銭的不正行為係ばかりでなく、親北疑惑は韓国社会の未来に影を落とす。それは文在寅政権の北朝鮮べったりの体質とも迎合しており、正義連の本質が明らかにされなければ、大きな禍根を残すところであったといえる。

武藤 正敏(元駐韓国特命全権大使)

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