手抜き工事多発で世界にリスクをばらまく一帯一路

手抜き工事多発で世界にリスクをばらまく一帯一路
7/31(金) 6:01配信

 (藤谷 昌敏:JFSS政策提言委員・元公安調査庁金沢公安調査事務所長)

■ 決壊が危ぶまれる三峡ダム

 報道によれば、広東省、湖南省、江西省、重慶市など13省(自治区・直轄市)で、6月末から7月中旬にかけて豪雨が続き、3873万人が被災して224万人が避難生活を送っている。家屋約2万9000戸が倒壊し、農地51万6000ヘクタールが被害を受け、直接的な経済損失は860億元(約1兆3200億円)に上るという。

 中でも警戒されているのが三峡ダムで、今回の豪雨で一時的に水位が147メートルとなり、警戒水位を約2メートル上回った。中国メディアは、長江沿いの6億人がダム決壊の危機に直面していると報じた。

 三峡ダムは、1993年1月に着工、2009年に竣工し、堤高185メートルで、貯水池容量は393億立方メートル、年間流出量は4510億立方メートルと日本全体の年間流出量に匹敵するほどの世界最大級のダムだ。

 このダムは、建設当初から、多くの問題が発生した。まず、李鵬派官僚による「汚職の温床」と化し、総工費2000億元のうち34億元が汚職や賄賂に消え、建設中から手抜き工事もたびたび起こった。崖崩れ、地滑り、地盤の変形が生じ、ダムの堤体に約1万か所の亀裂が発見された。上流から押し寄せる大量の砂礫が貯水池に溜まることで、ダムの水門を詰まらせ、アオコが発生して、ヘドロや雑草、ゴミと交じって5万平方メートルの汚泥の「ため池」が広がった。こうした環境破壊によって、希少動物のカワイルカ(ヨウスコウカワイルカ)が絶滅したことは良く知られている。さらに地域住民140万人が立ち退きを迫られたが、十分な補償を受けられなかったことから、貧困層へと転落してしまい、犯罪の多発などの社会問題が発生した。また、三峡ダムが2008年5月に発生した四川大地震や汶川大地震、青海省大地震など、毎年のように大小の地震が発生した原因となったのではないかという指摘もある。四川大地震は、マグニチュード7.9を記録し、破壊力は阪神・淡路大震災の約30倍という巨大地震であった。

■ 手抜き工事が多発する中国の土木建設事業

 この三峡ダムに限らず、中国における土木建設事業では、様々なトラブルが発生している。例えば長江沿いの各省では、ほぼ毎年のように堤防の決壊事故が起こっているが、その原因は、「工事を受注した企業が代金を中抜きして、どんどん下位の企業に回し、最終的に悪質な下請け企業に工事が任されてしまう」「堤防建設における重要部分である土壌工事などで手抜き工事が常態化している」「検査をする機関が建設業者から多額の賄賂を受け取って、手抜き工事を見過ごしている」「民間の建設業者は、元々地方政府の下部組織だったことから、今でも地方政府との癒着がひどく、汚職の温床となっている」などと言われている。

 他にも2012年8月、中国黒龍江省ハルビン市で2011年11月に総工費約18億元(約220億円)をかけて開通したばかりの陽明灘大橋が崩落し、死傷者8人を出すという惨事が起きた。コンクリート部分の鉄筋が入っていなかったことが崩壊の原因だった。

 また建物については、新華社が「1980~90年代に建てられた建物に倒壊事故が頻発している。中国では新築建物の寿命は30年未満で、英国の4分の1でしかない」と報じており、事実、2008年の四川大地震や2014年に起きた魯甸地震(雲南省)でも、この時期に建設された建物が多数倒壊した。中国の建物倒壊事故の原因は、経済が最優先されて、拝金主義がはびこり、安全性を顧みない悪徳な建築業者が多数存在しているからとされる。

■ 世界にリスクをばらまく中国の一帯一路

 近年、中国は、「一帯一路」の柱として、東南アジアやアフリカなどで、ビル、鉄道、橋梁、道路、ダムなどの建設工事を多数請け負っているが、それらの建設工事においても、早期の倒壊事故、手抜き工事の多発、環境破壊、汚職・腐敗など様々な問題が生じている。

 2017年7月、ケニア西部で総工費1200万ドル(約14億円)をかけて中国企業が建設していたシギリ橋が、完成を目前にして崩落した。これまで政府の開発プロジェクトから置き去りにされてきた地域であり、2014年には川を渡ろうとしたボートが転覆して十数人が死亡する事故も起きていた。ケニアのインフラ開発プロジェクトは、中国企業と中国からの出資に大きく依存している。

 2020年1月、カンボジア南部のケップ州で、中国企業が建設中の7階建てのビルが倒壊し、36人が死亡、23人が負傷した。カンボジアでは2019年6月にも、シアヌークビルで建設中のビルが倒壊し、28人が死亡する事故が起きたばかりだった。原因は低品質の建築資材を使ったことなどが関係しているとみられている。

 ラオスでは、中国の援助を受けて、2020年までに75カ所、総発電量は1万MW規模の発電所建設が進んでいる。しかし、急激な開発によって、メコン川一帯で環境破壊が引き起こされ、塩害や水質汚濁で農業や漁業に大きな被害が出ている。ラオスは、世界有数の最貧国であり、中国から高速鉄道や水力発電ダムの建設資金として、数十億ドル規模の多額の資金援助を受けているが、2020年には中国へのローン返済で2億5000万ドルを支払わなければならず、デフォルトの危機が迫っていると指摘されている。

 「一帯一路」の目玉の1つである「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)計画では、620億ドル(約6兆6400億円)規模で、港湾や道路の整備、パイプライン、生産施設、パキスタン国内最大規模の空港などを建設する予定だが、2020年6月、建設を請け負った華能山東如意電力会社(HSR)などが建設費用を水増しして、過大請求していた問題が発覚した。この問題は、パキスタン政府を巻き込んだ大汚職事件となるおそれがある。

 中国は、改革開放以降、急激な経済発展を遂げ、その資金力と安い労働力を武器として全世界に経済進出を試みてきた。その背景となったのが中国の巨大経済圏構想である「一帯一路」である。本稿で取り上げた土木建設事業は、「一帯一路」の核心事業だが、その腐敗体質、安全性軽視の姿勢、未熟な建設技術、低い遵法精神などにより、今後、全世界的に倒壊事故や環境破壊などを引き起こす可能性が高い。

 [筆者プロフィール] 藤谷 昌敏(ふじたに・まさとし)
 1954(昭和29)年、北海道生れ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA危機管理研究所代表。

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