習近平も焦りまくる…いよいよ世界中で「中国アプリ」排除が始まった!
8/11(火) 6:01配信
現代ビジネス
売却要求の「本質的な問題」
売却か、それとも使用禁止か――。
アメリカのトランプ大統領は8月3日、中国企業バイトダンスに対し、交渉期限を「9月15日」と区切って、傘下の動画投稿サービス「TikTok(ティックトック)」の米国内事業の米企業への売却要求を突き付けた。
この売却交渉には、米マイクロソフト社が早くから名乗りを上げており、トランプ政権がとりあえずマイクロソフトの買収要望を容認した格好になっている。ただし、売買交渉が不調に終われば、トランプ政権は当初からの主張通り、TikTokのアメリカ国内でのサービス提供を禁止するとの姿勢を変えていない。
驚くべきことに、買収が実現した場合、バイトダンスが得るはずの売却益の一部を米国の国庫に納めることも迫っている。中国政府はこのあまりの乱暴さに反発、トランプ政権を「泥棒」と呼んで批判しているという。
こうしたトランプ政権のエスカレートぶりは、同大統領が6月にオクラホマ州タルサで開いた選挙集会をTikTokユーザーに妨害された“事件”が原因だとする報道が米国メディアの間で目立っている。確かに、トランプ氏には再選がかかった大統領選挙が11月に迫っており、この“事件”が同大統領のTikTokに対する心証を害した可能性は高い。
しかし、今回の事実上の事業売却命令の背景には、より本質的な問題がある。米国の安全保障に関わるという問題だ。
というのは、他国の一般的なアプリ・サービス提供事業者と大きく異なり、TikTokを運営するバイトダンスのような中国企業は、中国の「インターネット安全法」の規制を受け、事業を通じて収集したあらゆる情報を中国政府にストレートに提供する義務を課されているからだ。
その結果、中国系企業の米国内での事業展開は、米国人のプライバシーだけでなく、米国の安全保障にとっても大きな脅威になると、大統領府だけでなく米議会の与野党も含む政府機関が一致して脅威を感じている。その脅威に対する危機感が強硬措置の背景にあるのだ。
日本や欧州も無関係ではない
したがって、米国市場からの排除はTikTokにとどまらず、トランプ政権は今後、中国系アプリやクラウドサービスの全面的な締め出しに乗りだす可能性が高い。
そこから生じる様々な摩擦は、貿易戦争、技術覇権争い、人権問題、南・東シナ海の領有権問題に続く、新たな米中間の対立軸に発展し、世界の安定と平和にとっての脅威になるだろう。つまり、日本や欧州、その他の諸国・地域にも無縁ではないリスクが生じているのだ。
他の多くの重要政策と同様に、今回のTikTokの米国市場からの締め出しも、トランプ政権の当初の対応は迷走が目立った。
今回、トランプ大統領が最初にTikTokのアメリカ国内での使用禁止を口にしたのは、先月(7月)31日のことだ。その場所は南部フロリダ州からワシントンに向かう大統領専用機の中で、同行した各国記者団に対して、TikTokの米国内での利用を禁止する意向を示したのだ。禁止の根拠としては、大統領令や国際緊急経済権限法の規定をあげていた。
この時点で、大統領発言に先立って、米国メディアはマイクロソフトがTikTokの買収協議に入ったと報じていたが、トランプ大統領は、「そのアメリカ企業による買収には賛同できない」と、明確にマイクロソフトによる買収に難色を示した。
このトランプ発言は、バイトダンスがTikTokの米国内事業を現地企業に売却する方針を決め、その有力候補がマイクロソフトだとする報道と、肝心のマイクロソフトが大統領の意向を受けて買収交渉を中止したという報道が入り乱れる結果を誘発した。
余談だが、バイドダンスにすれば、事業を禁じられて米国事業が無価値になるのを手をこまねいて待つより、マイクロソフトのような現地企業に売り抜けた方が損害は小さいという算盤も当然働いたはずである。
強権の発動に踏み切ったワケ
それにしても、なぜ、トランプ政権は突然、このような強権の発動に踏み切ったのか。
利用規約やプライバシー・ポリシーを読めばわかることだが、インスタグラムのようなアメリカ系のサービスでも、TikTokのような中国系のサービスでも、アプリをインストールした端末や持ち主の個人情報を事業者が収集する目的は、基本的にサービスの向上に役立てるためだ。
そして、捜査や安全保障の観点から、法律に基づいて法執行機関に開示を求められれば、事業者が個人情報を当局に開示したり、当局と情報を共有することが明記されている。このため、一見すると、両方の会社の情報の扱いは同じように見える。ところが、中国企業の場合は事情が大きく異なってくる。
というのは、もともと中国は共産党独裁というお国柄のうえ、過去数年間に統制を厳しくする法整備をしてきたからだ。
端緒になったのは、2015年制定の「(新)国家安全法」だ。同法で、中国は中国政府が守るべき「国家の安全」の対象に、国土や領海といった領域以外の非伝統的な領域、つまりインターネット上のサイバー空間を加えたのだ。
さらに2017年施行の「インターネット安全法」で、インターネット関連商品とインターネットサービスを中国基準に合致させること、中国で収集したデータは中国で保存すること、中国で収集したデータを海外に持ち出す際には当局の審査を受けることなどを義務づけた。
そのうえ、中国で事業を営もうとする外国企業が中国以外で取得・蓄積した個人情報を保管するサーバーを中国国内に設置すること、それらに蓄積した個人情報などを中国当局に開示すること、外国企業の母国の本社と中国現地法人の間の通信を中国政府に対してガラス張りにすることなどを義務付けて、従わない外国企業を中国から締め出す一方で、中国企業を厳格な統制下に置いて来た。
アプリが安全保障を脅かす可能性
この結果、中国政府に従わざるを得ないTikTokのサービスを利用すれば、「米国人利用者の個人情報が中国に流出する懸念がある」というのが、今回のトランプ政権のTikTok排除の大義名分になっている。
中国政府は、自由な経済活動を行う企業を閉め出すものだと批判しているが、そもそも中国政府が過去数年にわたって米国IT企業に行ってきたのと同じことなので、その批判には説得力がまったくない。
TikTokが他愛のない短時間の動画共有サービスなので、なにを大袈裟なと思う読者もいるだろうが、例えば、万が一、極秘任務に就いている米軍兵の複数がTikTokをインストールしていれば、端末の特性、持ち主の氏名や所属・階級に加えて、その時々で持ち主たちの部隊が派遣されている場所の位置情報やその規模、布陣が中国に筒抜けになる恐れがある。
あるいは、家族を人質に取って米軍兵に母国の裏切りを強いるようなスパイ映画紛いの事件だって起きてもおかしくないというのだ。
民間企業独自の目的ならばコストがかかり過ぎるという理由で大規模なことはしないだろうが、問題が当局の軍事行動や安全保障に関わって来れば話はまったく別である。こうした状況では、安全保障上の大きな脅威にもなりかねない。
実際、米国防総省はすでに昨年、当初から対象だった陸、海、空の3軍に続き、海兵、沿岸警備隊の2軍でも国が支給した端末にTikTokを使うことを禁じていた。では、決定に当たって、トランプ政権はTikTokを実際に調査したのだろうか。
この疑問の答えはイエスだ。米国には、対米外国投資委員会(CFIUS)という名前の横断的な政府機関がある。常時メンバーは国防総省、国務省、司法省、商務省など16の省庁の長で、最近は国土安全保障省の代表者がメンバーに加わることが多いとされている。
強硬路線も不思議ではない
このCFIUS が、2017年のバイトダンスによるアメリカの動画サービス「ミュージカリー」買収を遡って調査し直した結果、そもそも、このバイトダンスの米国参入のきっかけになった買収劇に問題があったと判断。
CFIUSの議長を務めるムニューシン財務長官がトランプ大統領に対して、TikTokの米国事業の中国資本からの切り離しなどのリセットを勧告したと報じられている。
少なくともまだ詳しいことは明かせないが、実は筆者が現役の新聞記者だった2000年頃に、CFIUSが、ある日本企業の米企業買収案件を問題視して買収審査を行ったことがある。
当時、買収の認可条件として、買収先企業の保有していた個人情報に米司法当局のアクセスを容易にする措置を講じるよう命ずべきだと主張した省庁があった。が、当時の米財務省が「同盟国・日本の企業の買収案件を米企業が反発している要求を通す突破口に使うべきではない」ととりなし、事無きを得たというケースが存在したのだ。
ちなみに、このケースは9.11の世界同時テロより前のこと、つまり、米国でも、「テロ対策」と言えば、捜査の方が人権の保護よりも優先される風潮が罷り通るようになる以前のことだ。
しかも、筆者が取材したケースは同盟国・日本の企業が買い手だったのに対し、今回焦点になっているのは米国との対立を深める中国の企業である。加えて、大統領選を強く意識するトランプ政権の主導となると、米国が通常よりも強硬な路線に走りがちになるのは当然かもしれない。
TikTokはある種のパイオニアケースになる可能性がありそうだ。米国でアプリのサービスを展開している中国企業はたくさんあり、こうした企業はアプリがインストールされた端末や持ち主の個人情報をTikTokと同様にどん欲に収集している。
米国以外でも警戒感を強めている
そうした情報が中国の「インターネット安全法」に基づいて中国政府に筒抜けになるリスクがあり、米国政府が危機感を持っている以上、これまでのように放置しておくとは考えにくい状況になっている。
実際のところ、ポンペオ国務長官は8月5日の記者会見で、「クリーンなネットワークを拡大する」と述べて、通信キャリア、アプリ、アプリストア、クラウドサービス、海底ケーブルの5分野で中国企業を排除することを目指すと表明した。今はまだ曖昧な言い方だが、遠からずエスカレートしても不思議はない。
そして、トランプ大統領は同6日、米国企業と米国人に対して、TikTok運営会社としてのバイトダンスとの取引と、対話アプリ「ウィーチャット」の運営会社テンセントとの取引をそれぞれ45日後から禁じる大統領令に署名した。
バイトダンスは提訴の可能性を示唆しているが、中国企業の米国市場からの締め出しは着実に進んでいるように映る。
加えて深刻なのは、TikTokを危険視しているのが米政府にとどまらないことだ。
日本では自民党の議連が、そしてヨーロッパでも各国政府が新型コロナウイルスに関する中国政府の対応をみて急速に警戒感を強めており、様々な規制法制の整備が取り沙汰されている。それどころか、インドのように、すでに幅広く中国アプリの使用を禁じた国もある。
日本では、大阪府と埼玉県が8月5日、実態がよくわからず安全と言い切れないという理由から、TikTokの公式アカウントの利用を停止したが、対米関係を考えれば、今後、他の都道府県や企業が実態的に追随せざるを得なくなっても不思議はない。
町田 徹(経済ジャーナリスト)
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