習近平もうろたえる…日米による「IT企業排除」で中国経済は大ピンチへ…

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8/14(金) 6:01配信

国家安全維持法はムチャクチャだ

 逮捕されていた香港の民主活動家らが釈放された。ひとまず歓迎したいが、香港当局はどうやら、国家安全維持法の「事後適用」も辞さないようだ。香港人以外にも適用する「域外適用」といい、この法律はムチャクチャである。なぜ、こうなったのか。

 民主活動家、周庭(アグネス・チョウ)氏と香港紙「リンゴ日報」創業者、黎智英(ジミー・ライ)氏は8月12日未明、釈放された。私が注目したのは、周氏が釈放後、記者団に警察から証拠の提示がなく「なぜ逮捕されたのか、分からない」と語った点である(https://www.asahi.com/articles/ASN8D2DKDN8CUHMC01B.html)。

 周氏は国家安全維持法の成立を受けて6月30日、政治団体「香港衆志(デモシスト)」からの脱退を発表していた(https://www.afpbb.com/articles/-/3291104)。SNSには「生きてさえいれば、希望があります」とも発信している。自ら逮捕を招くような言動を控えていた様子がうかがえる。

 それでも逮捕されたとなると、容疑は「法成立後」の活動ではなく「成立前」の活動だった疑いが濃厚だ。つまり、法を事後適用したのだ。言うまでもないが「事後法の禁止」あるいは「法律不遡及の原則」は法治国家の重要な原則である。

 日本国憲法にも「何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない」(39条)と明記されている。

 国家安全維持法は38条で「域外適用」についても、次のように明記している。「香港特別行政区の永住民の身分を備えない人が香港特別行政区外で香港特別行政区に対し、本法に規定する犯罪を実施した場合は、本法を適用する」(https://mainichi.jp/articles/20200714/k00/00m/030/141000c)。

日本にいても、指名手配される

 以上の2つを合わせて解釈すると、香港当局は「香港人でなくても、香港以外の場所や、法成立前の過去の言動であっても、国家安全維持法を適用して逮捕する」という話になる。普通の民主国家では、およそ考えられない、とんでもない法律と運用だ。

 実際、香港警察は米国市民権をもっている朱牧民(サミュエル・チュー)氏ら海外在住の民主活動家6人を指名手配した(https://www.bbc.com/japanese/53609863)。こうなると、あちこちで中国を批判してきた私がターゲットになっても、おかしくない。

 私はもちろん、もはや中国や香港に足を踏み入れる考えはないが、中国と犯罪人引渡し協定を結んでいる外国にも、危なくて行けない。どこで逮捕されて、中国送りになるか分からないからだ。

 中国外務省は8月11日の会見で、日本の菅義偉官房長官が民主派の摘発に「重大な懸念」を表明した件について「日本は中国の内政干渉をやめよ」と警告した。だが、中国自身の行動を見れば、内政干渉どころではない、前代未聞の強権発動ではないか。

 内政干渉に反対できるのは、代わりに外国の主権を尊重するからだ。主権を尊重しない中国に、内政干渉を批判する資格はない。

 中国は、いや正確に言おう。中国共産党はなぜ、これほど乱暴な法律を制定し、かつ実際に運用しているのか。答えは「法治国家」の概念が根本的に違うからだ。

共産党に「常識」は通用しない

 どういうことか。

 実は、中共自身も「我々は法に基づいて国を運営する法治国家だ」と言っている。たとえば、第11期中央委員会第3回全体会議の後、党は「人民の民主の保障には、法治の強化と民主の制度化・法律化が必要である」と総括して「依法治国(法による国家統治)」を基本方針に定めた(https://spc.jst.go.jp/policy/national_policy/184conf/chapter01.html)。

 文字面だけを読むと、あたかも「法治国家」を目指すように見える。だが、彼らの言う法治は「権力者が専制政治のために法律を利用する(rule by law)」という意味であり、「民主国家の法治(rule of law)」とは、概念がまったく異なる(たとえば、https://blogs.wsj.com/chinarealtime/2014/10/20/rule-of-law-or-rule-by-law-in-china-a-preposition-makes-all-the-difference/)。

 中国共産党は、あたかも「法に基づいて権力を行使する」ようなフリをしてきたが、本当は「権力の都合がいいように法律を使う」という話なのだ。したがって、民主国家における法治の概念である「権力も法の制限を受ける」ような事態はもともと、ありえない。一言で言えば、彼らは法律を「権力維持の道具」と考えている。

 そういう観点から、国家安全維持法を見ると「中国共産党の意図」を、これまで以上に鮮明に示している。中共は、このように「香港市民を、いや世界を支配したいのだ」という意図をあからさまに語っているのである。そのための法制定だった。

 中共にとって、国家安全維持法は「とんでもない法律」でも「ぶっ飛んだ法律」でもない。中共が香港、ひいては世界を支配するために、必要不可欠な道具として制定した。だから、私たちが「常識外れ」などと批判しても、痛くも痒くもない。

 もともと、彼らの法治の概念が私たちとは完全に違うのだから、常識外れと批判しても「まさにその通り。オマエたちの常識とオレたちの常識が同じわけがない」と切り替えされるのがオチだ。我々は、そのように中国を眺めなければならない。

 我々の常識で中国を眺めること自体が大間違いなのである。

人も企業も、香港から逃げ出す

 そのうえで、いま進行中の事態を眺めると、民主活動家の逮捕を「日本人には関係ない」と受け止めるのは、実に危険だ。そもそも、彼らには「域外適用」とか「事後適用」といった概念は、初めからないのだから、いつ日本人に適用されても、おかしくない。

 事態はにわかに切迫している。香港と中国在住の日本人はさっさと逃げたほうがいい。そう言われても「自分は逃げたいが、会社があるから逃げられない」という日本人もいるだろう。そこで「朗報」もお伝えしよう。会社も脱出するかもしれない。

 というのは、米国のドナルド・トランプ政権が中国企業に対する制裁を強化しているからだ。米国は8月13日から、大手通信機器の華為技術(ファーウェイ)など5社に対する制裁を、5社と取引している外国企業にも拡大して、米政府との取引を禁止する。

 これは国防権限法に基づく措置だ(https://www.congress.gov/105/plaws/publ261/PLAW-105publ261.pdf)。5社はファーウェイのほか、通信機器の中興通訊(ZTE)、監視カメラの杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)と浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)と無線通信機器の海能達通信(ハイテラ)である。

 日本経済新聞によれば、影響を受けそうな日本企業は約800社、案件は約1万1000件、取引額は約15億ドル(約1600億円)に上る、という(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62475800Y0A800C2EA4000/)。中には、ソニーやパナソニック、村田製作所、京セラなど多くの大企業もある。

 問題の中国5社と取引している企業といっても、具体的にどの程度の取引を指すのか不明だ。さらに、米政府はともかく「米企業との取引はどうなるのか」も分からない。だが、米企業が「政府との取引を禁止された日本企業とは取引したくない」と考えてもおかしくない。

 日本企業にとって今後、5社との取引は米国市場で事業を展開するうえで、大きなリスクになる。最悪の場合、米国市場から追い出されてしまう展開も十分、ありうるだろう。

 言い換えると、トランプ政権の制裁は日本と世界の企業に「中国を選ぶのか、米国を選ぶのか」二者択一を迫っている。そうなったら、中国を捨てて米国を選ぶ日本企業は、かなりの数に上るのではないか。

 香港で起きている事態は、中国共産党の本質を赤裸々に暴露した。手遅れになる前に、日本人と日本企業には中国脱出をオススメする。


8月11日に公開した「長谷川幸洋と高橋洋一の『NEWSチャンネル』」は、大阪大学大学院の森下竜一寄附講座教授と学究社社長で元一橋大学客員教授の河端真一氏をゲストにお招きし、新型コロナワクチン開発の現状などについて徹底議論しました。ぜひ、ご覧ください。


また、森下教授と私は5月に発売した『新型コロナの正体~日本はワクチン戦争に勝てるか!? 』の対談第2弾として『どうする!? 感染爆発!! ~日本はワクチン戦略を確立せよ! 』(ビジネス社)を8月26日に発売します。アマゾンなどでは予約受付中です。こちらもワクチン開発や中国問題の最新情報が満載です。ぜひ、ご一読を。

長谷川 幸洋(ジャーナリスト)

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