「中国が沖縄を潰し、尖閣諸島を奪る」米国「ヤバい論文」の中身

「中国が沖縄を潰し、尖閣諸島を奪る」米国「ヤバい論文」の中身
8/18(火) 6:01配信

 コロナ禍の最中、東シナ海の尖閣諸島周辺海域で異常事態が発生している。中国の政府船が8月4日まで、111日にわたって連続で、日本の領海やその外側の接続海域に侵入した。連続記録は一時途切れたが、その後も中国船は同海域への侵入を繰り返している。こうした事態は2012年の日本政府による尖閣諸島国有化以来、初めてのことだ。いったい何が目的なのか。

 「今回、中国は本気で尖閣を分捕るつもりなのではないか」

 中国の動向を注視してきた防衛関係者は、そう語る。にわかには信じがたい話だが、実は米国ではそういった事態を想定したレポートがすでに発表されているのだともいう。防衛関係者が続けた。

 「ワシントンにあるシンクタンクで、米国の防衛戦略に大きな影響力を持つ『戦略予算評価センター(CSBA)』が今年5月に『Dragon Against the Sun: Chinese Views of Japanese Seapower』(龍対日:日本のシーパワーに対する中国の見方)と題する論文を発表した。

 同センターの上席研究員で、米海軍大学(U.S. Naval War College)で戦略担当教授を務めた軍事専門家であるトシ・ヨシハラ氏が執筆したものだが、このなかでヨシハラ氏は、『過去10年間で中国海軍は艦隊の規模、総トン数、火力等の重要な戦力において海上自衛隊を追い越した』と指摘し、中国の指導者は、中国海軍の方が優位であるという見通しのもと、日本との局地的な海洋紛争において攻撃的な戦略を採用するだろうと警告を発している」

 ヨシハラ氏の論文には、中国が数日のうちに尖閣諸島を奪取する具体的なシナリオも記されていた。防衛関係者によると、以下のようなものだという。


  1. 海上保安庁の船が尖閣諸島海域に侵入する中国海警局の船を銃撃し、その後、中国海軍が日本側を攻撃
  2. 尖閣諸島海域は戦争状態に。中国空母などが宮古海峡を通過し、日本側が追跡
  3. 日本の早期警戒機と戦闘機が東シナ海の上空をパトロールするが、中国軍がそれらを撃墜
  4. 自衛隊が民間と共用する那覇空港を中国が巡航ミサイルで攻撃
  5. 米国が日米安保条約に基づく協力要請を拒否。米大統領は中国への経済制裁に留まる
  6. 宮古海峡の西側で短期的かつ致命的な軍事衝突が勃発
  7. 米軍は依然として介入せず、米軍の偵察機が嘉手納基地に戻る。中国軍は米軍が介入しないことを確認

8. 中国が4日以内に尖閣諸島に上陸

歴史は繰り返す

 実際に中国がこうした作戦計画を立てているか否かは定かではないものの、尖閣諸島侵攻のための準備を着々と進めていることは間違いない、と防衛関係者は指摘する。

 「第一に、先兵役を務める海警局の船を大型化し、増強を図っている。海上保安庁の巡視船の多くは1000トン級だが、中国はこれをはるかに上回る3000トンから5000トン級の船を次々と投入している。なかには1万トン級のものもあり、大型の機関砲まで装備している。

 機構改編や法改正を行い、海警局を準軍事組織に格上げもした。そもそも海警局は国務院傘下の国家海洋局に所属していたが、2018年に中央軍事委員会が指揮する人民武装警察部隊の傘下に配置換えになった。そして、今年6月、同部隊の組織法である人民武装警察法が改正され、戦時には軍と一体で動き、軍事作戦にも参加することになった。また、平時においても軍との共同訓練や演習などを実施するよう取り決められた」

 まさに尖閣諸島奪取のシナリオに描かれた事態を想定しているかのような動きだ。中国は実際にやりかねないということである。

 歴史を見ても、それはうなずける。

 1974年、中国は南シナ海の西沙諸島をめぐってベトナムと交戦し、同諸島を奪取した。ベトナム戦争が終結し、米国が撤退した隙を突いてのことだった。

 また1988年には、ソ連が衛星国への不干渉を表明したことで、それらの国々が相次いで民主化し東西冷戦が終結へと向かうなか、ソ連の庇護を失ったベトナムに対し、中国はやはり南シナ海にある南沙諸島の領有をめぐって海戦を仕掛け、ファイアリー・クロス礁、ジョンソン南礁、クアテロン礁、ガベン礁、ヒューズ礁、スービ礁を奪った。

 さらに1989年に東西冷戦が終結したことを受け、1991年末に米国がクラーク空軍基地、スービック海軍基地をフィリピン政府に返還し同国から撤退すると、直後から南沙諸島で中国軍が活動を活発化。1995年には、フィリピンが実効支配していたミスチーフ礁を占拠し、建造物を構築したのだ。

 いずれも「大国の不在」を突いたものであった。

米国は動かない可能性

 そして現在――。米国はドナルド・トランプ米大統領のもと「米国第一主義(アメリカ・ファースト)」を掲げ、国際協調に背を向けつつある。軍事介入にも消極的だ。先に触れたシナリオのように、たとえ尖閣諸島が攻められても、米軍が動かない可能性が高い。

 「中国の侵略史から見て、尖閣諸島問題でキーになるのは米国のプレゼンスなのだが……」

 防衛関係者も、歯切れが悪い。

 米国は、公式には尖閣諸島も日米安保条約の範囲内であるとしている。その5条には、こう明記されている。

 《各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する》

 2017年2月に来日したジェームズ・マティス米国防長官(当時)も、「尖閣諸島は日本の施政の下にある領域であり、日米安保条約5条の適用範囲だ」としたうえで、「米国は尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」と中国を牽制している。

 これは、バラク・オバマ前大統領の発言を踏襲したものだ。2014年4月に行われた日米首脳会談の際、オバマ前大統領は「日本の施政下にある領土、尖閣諸島を含め、日米安保条約第5条の適用対象になる」と明言した。

竹島のようになるのか
 概してオバマ前大統領に批判的なトランプ大統領も、日米安保条約を順守する姿勢では一致しているかに見えるのだが……。

 防衛関係者は、こう付言した。

 「いまの状況からすると、手放しで安心していいものかという懸念がある」

 トランプ政権で国家安全保障問題を担当したジョン・ボルトン大統領補佐官は、トランプ大統領と対立し解任される以前には、「米国第一主義」との類似が指摘される「モンロー主義(1823年に第5代大統領ジェームズ・モンローが提唱したもので、相互の内政や紛争等には干渉しないとする孤立主義)」を公然と唱え、「今日、我々は万人の前で誇りをもってモンロー主義は健在であると宣言する」などと演説したこともある。

 「これこそがトランプ政権の本音なのではないか」

 防衛関係者は、そう語ったうえで、さらなる警句を発した。

 「尖閣諸島が竹島にダブってしまう。同じようなことが起こらなければいいが……」

 日本海に浮かぶ竹島は現在、韓国に実効支配され、同国の観光地化している。そんな事態が東シナ海でも起こりかねないというのだ。

 挑発行為を繰り返す中国。侵略戦争のシナリオが現実味を帯びる中、日本政府の対応能力がいま問われている。

時任 兼作(ジャーナリスト)

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