韓国洪水…“言い訳”番長な省庁、セウォル号に学べない国民の「安全不感症」
8/19(水) 17:00配信
適切な水位調節ができなかったと言い訳した
韓国では1カ月半に亘って梅雨前線が居座ったおかげで、全域に多大な被害が出た。「誤報庁」とあだ名される韓国の気象庁は、そもそも降水有無の的中率が46%にとどまるのだが、それら関係省庁は責任をなすりつけ合いばかり。セウォル号の沈没事故を受けた朴前政権が作った「国民安全処」も、文政権になって解散。そして国民もまた「安全不感症」を発症しているという。
ソウル市内の様子
韓国中部地方が梅雨入りした今年6月24日から8月9日まで降り続いた雨は、韓国全域に多大な被害をもたらした。死者38人、行方不明者12人。8人が負傷し、公民館や体育館に避難した罹災者は8月だけで7800人に達している。また1万8000件余りの施設が被害を受け、浸水家屋は4万件、およそ2万ヘクタールの農耕地が浸水被害を受けた。
甚大な被害に対し、ダムを管理する韓国水資源公社は、韓国農漁村公社と韓国水力原子力もダム用水を共用していて利害関係が交錯し、適切な水位調節ができなかったと言い訳した。
さらに、気象庁の予報より降雨量が多かったため、調節に失敗したと責任を気象庁に転嫁した。一方の気象庁は短期予報で補正したので降水量予測は間違っていないと反論した。
気象庁は、8月7日から8日にかけて多くの場所で降水量が300ミリと予測したが、実際の雨量は平均377.8ミリ、最大446ミリメートルを記録した。
気象庁は、300ミリの予報を出した後、全羅北道鎮安郡で215ミリの雨量が観測されたため、250ミリの短期予報を出した。215ミリに250ミリを足すと465ミリメートルになると詭弁を垂れた。
全国主要ダムの水位は7月時点で、例年より高かった。白村江の名で知られる錦江上流の大清ダムは7月25日時点で、貯水量が例年を10%上回り、洛東江上流の臨河ダムや蟾津江ダムも水位が例年より6%以上高かったが、当局は放流をしなかった。
韓国の気象庁は「誤報庁」、降水有無の的中率は46%
水没都市と化した
気象庁は当初8月上旬の降水量を平年と同じか、少ないという長期予報を出していた。夏季の緑潮を薄める水を確保するため、ダムの水を最大限貯めておいたとみる専門家もいる。
気象庁の予報は見事に外れて、水資源公社は一気に放流。洛東江は堤防の一部が崩壊した。崩壊したときの水位は最大許容より1メートル低かったことがわかり、欠陥があった可能性が浮上した。
水資源公社が責任を転嫁する韓国の気象庁は、巷では「誤報庁」と呼ばれている。「気象庁の体育大会は雨になる」「気象庁の野遊会は雨になる」など、自分たちの主催行事すら予報できないと揶揄されている。
韓国に接近する台風は、韓国と日本、米国が予報を出すが、国民は日本の予報を信頼する。まれに台風が日米の予報より韓国の予報に近い進路をとることがあるが、そういったとき、韓国気象庁はそのまぐれ当たりを喧伝する。
日本をはじめ、アジアに甚大な被害をもたらす自然災害に地震と台風がある。地震は現在の科学技術では予測できない。地震研究の第一人者は、地震予知を語る人は十中八九ペテン師と思って間違いないと話している。
一方、台風の的中精度は上がっている。とくに日本は気象衛星やスーパーコンピュータ、予報官の育成などに、惜しむことなく予算を投じてきた。
国民の安全を守るためである。
一方、韓国の気象庁には国民の安全を守るという考えはないようだ。当たるも八卦、当たらぬも八卦と考えているのだろう。
17年に韓国監査院が行なった調査で、降水有無の的中率は46%だった。八卦どころか半分も当たっていなかった。
安全意識の欠如は気象庁に限った話ではない。政府はもちろん、国民にも安全不感症が蔓延している。
北朝鮮のミサイル発射に関連した訓練でも不感症に
2014年4月16日、仁川港から済州島に向かう大型旅客船セウォル号が沈没し、修学旅行生250人を含む295人が死亡、9人が行方不明となった韓国史上最大の海難事故も安全不感症が背景にあった。
不適切な改造に加えて救命ボートの不備など安全対策が不十分で、船長やベテラン乗組員は早々に退避した。乗客への避難誘導は行われず、退避を促す船内アナウンスは船が傾いてから1時間半後。教育庁が事故発生の4時間半後に生徒と教員は全員無事だと誤報を出すなど政府機関も混乱を極めた。
大きな事故が発生すると、各交通機関は安全対策を再確認するが、沈没事故から間もない同年5月2日、ソウルの地下鉄で追突事故が発生した。車両に不具合が生じて停車していた列車に後続列車が追突したのだ。
後続列車の急ブレーキは間に合わず、前の列車は連結器が破損して後続列車は脱線し、238人が重軽傷を追った。アナウンスや避難誘導はなく、約1000名の乗客がドアを開けて避難。さらに甚大な事故が発生する恐れがあった。
道路の陥没事故も多発した。2014年7月にソウル近郊の議政府市で歩道が陥没し、歩いていた30代の女性が転落。15年2月には、ソウル龍山駅近くのバス停でバスから降りた乗客2名が突然陥没したシンクホールに落ちた。深さ約1メートルの陥没に走行中の乗用車が落ち込む事故もあった。道路陥没に伴う交通事故は、10年で2000件を超えている。
国民やマスコミは安全を政府に要求するが、その国民にも安全不感症が蔓延している。
2010年と2014年、北朝鮮との国境で銃撃戦が起きたとき、市民は何事もなく談笑していた。2010年はソウルから110キロ、14年は40キロしか離れていない場所での軍事衝突を地球の裏側で起きているかのように眺めていた。
道路陥没が相次いで、東京都技術協力を締結したが
セウォル号事件後の列車事故
北朝鮮のミサイル発射が相次いだ最中の2017年8月、政府は民防空退避訓練を実施したが、参加する国民は少なかった。
民防空退避訓練では、市民は外出が制限され、屋外にいる人は統制官の指示に従って待避所に避難しなければならない。
緊急車両を除く車両運行も制限される。自動車を運転中の人は、道路の端に車を寄せて、訓練終了まで待機せざるを得ないのだが。
統制官の制止を振り切ってバスに乗車する人や信号を無視する自動車、仕事にならないと統制官に詰め寄るタクシー運転手も。また、サイレンを鳴らして走行する消防車の前に割り込む自動車すらあった。
生徒を校庭に集合させた学校もあった。訓練はミサイル攻撃や空襲を想定しているにもかかわらず、である。
道路陥没が相次いだ2015年、ソウル市は「道路陥没対応業務、技術的協力に関する行政合意書」を東京都と締結した。
ソウルでは下水道の老朽化が原因とみられる道路陥没が相次ぎ、2010年は435件だったが、13年は854件、14年は1~7月までで568件に達していた。
市は市販の地中レーダーなどを使って自前で調査をはじめたが、一向に進捗せず、道路の地下空洞調査で高い技術を持つ東京のジオ・サーチ社に協力を依頼した。ジオ・サーチ社はわずか4日間の調査で未発見の地下空洞を41か所発見し、そのうち18カ所は地表から30センチ以内の崩落リスクが高い空洞だった。
文在寅大統領は、就任直後に国民安全処を解散した
日本企業の技術を目の当たりにしたソウル市は、東京都に泣きついた。
東京都は、地下空洞の原因把握や調査方法、対応マニュアルや応急処置、復旧技術を提供する。一方、ソウル市はIT技術を活用した道路陥没情報をリアルタイムで伝達する技術を供与することになった。
ソウル市のIT技術は、ボランティアのタクシー運転手が車載端末で道路の陥没を報告し、GPS(衛星利用測位システム)で情報を集約する仕組みである。発生後に情報を集めるもので、未然に防ぐ効果はない。
セウォル号の沈没事故を受けた朴前政権は首相直轄の国民安全処を創設した。消防防災庁や海洋警察庁など、複数官庁にわかれていた業務を集約して大規模災害に対処する組織である。
年間予算3兆億ウォン、1万人以上の巨大組織で、首相の指揮のもと事故や災害に対応する。
国民安全処はセウォル号が沈没したとき、何もできずに批判を浴びた朴前政権のひとつの回答だった。
文在寅大統領は、就任直後に国民安全処を解散し、安全対応は日本の省庁に相当する部処間のなすりつけ合いが復活した。
佐々木和義
広告プランナー兼ライター。商業写真・映像制作会社を経て広告会社に転職し、プランナー兼コピーライターとなる。韓国に進出する食品会社の立上げを請け負い、2009年に渡韓。日本企業のアイデンティティや日本文化を正しく伝える必要性を感じ、2012年、日系専門広告制作会社を設立し、現在に至る。日系企業の韓国ビジネスをサポートする傍ら日本人の視点でソウル市に改善提案を行っている。韓国ソウル市在住。
週刊新潮WEB取材班編集
2020年8月19日 掲載
新潮社
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