安倍レガシー「自由で開かれたインド太平洋」進化なるか 豪報道は歴史的「日豪安保」締結も日本では… これでは国民に事態の深刻さ伝わらない

安倍レガシー「自由で開かれたインド太平洋」進化なるか 豪報道は歴史的「日豪安保」締結も日本では… これでは国民に事態の深刻さ伝わらない

 【有本香の以読制毒】

 17日午後、短い時間だったが、安倍晋三前首相に面会した。取材ではないので、本来は話の内容はもちろん、面会したことも伏せるべきだが、夕刊フジ読者の皆さま含め、「安倍氏の近況を教えて」という声はとにかく多い。そこで、直近の様子のみをお伝えしようと思う。

 前回お目にかかったのは1カ月半前の9月下旬だったが、その時と比べて明らかにお元気そう、かつリラックスしているように見えた。順調に健康を取り戻しておられることは確かだ。

 その安倍氏は、私が面会した数時間前、来日したオーストラリアのスコット・モリソン首相と会談していた。ランチを含む約1時間の面会は、菅義偉首相との日豪首脳会談よりも前のタイミングで行われた。

 そもそもモリソン氏の来日は、安倍政権時の今年1月に予定されていたものが延びていたものだったので、先方が安倍氏との会談を望んだという事情はあるだろうが、とはいえ、この順番と時間は異例である。

 そのためか、当日のテレビニュースでも、首脳会談と安倍氏との会談をほぼ同等に報じた局もあった。

 しかし、このモリソン首相来日の一連の大メディアの報道に筆者は大いに不満だ。まず、どのメディアも、ことの重大さに鑑みて扱いが小さすぎる。菅新政権発足後、初めて来日した外国首脳であり、しかもコロナ禍が続くなか、帰国後は2週間の自宅待機を余儀なくされる自国の事情がありながら、押して来日したのだ。それはなぜだったのか。

 「歴史的な豪日防衛協定に中国が反応」

 オーストラリアで最もメジャーな全国紙「The Australian(オーストラリアン)」は、17日の首脳会談をこんな見出しで伝えている。冒頭の一文は次のとおりだ。

 「北京のプロパガンダ機関は、オーストラリアと日本は歴史的な防衛協定に署名したことで代償を払うことになる、と言い、両国は米国の『道具』だと非難している」

 オーストラリアの新聞報道を見ると、今回のモリソン首相来日が、両国とアジア太平洋地域の安全保障にとっていかに重大なことか、その喫緊度合いがわかる。

 ところが、日本の報道は、まるで北京のご機嫌を損ねないよう忖度(そんたく)したかと思われるほどに控えめだった。17日夕から朝の各紙第一報の見出しは次のとおり。

 「日豪首脳が会談 軍事訓練に関する協定合意、中国を牽制(けんせい)」(朝日新聞)

 「日豪首脳会談 「円滑化協定」に大枠合意 中国念頭「インド太平洋」推進」(産経新聞)

 「日豪、訓練円滑化で協定 首脳会談、大枠合意」(毎日新聞)

 「『自由で開かれたインド太平洋』実現へ日豪で連携強化…首脳会談で一致」(読売新聞)

 オーストラリア紙が「防衛協定(=安保条約と言い換えてもいい)」という単語を使い、「歴史的な署名(締結)」と言っているのに対し、日本の全国紙はあくまでも、「訓練の円滑化に合意しただけですよ」という腰の引けた表現に終止している。これでは日本国民に事態の深刻さは伝わらない。記事中では各紙とも「中国の脅威に対応した策だ」と書いてはいるが、それでも相手国に比べトーンが格段にやわらかい。

 米大統領選の結果もいまだ不透明ななか、沖縄県・尖閣諸島でも明らかなように、中国の周辺諸国への侵略的行動は露骨さの度を増している。にもかかわらず、日本の報道機関の国民への警鐘はいまだ眠い音色でしかない。いつになったら、目覚めのアラームを鳴らすのか。

 果たして、安倍前政権で初めて発信され、日本と米国、オーストラリア、インドとの間で共有された「自由で開かれたインド太平洋」なる理念は今後も受け継がれ発展させられるのか-。

 菅首相の手腕に大いに期待すると同時に、大メディアに、安全保障についての正しい現状認識を求めたいところである。

■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。

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