NHKが制作した端島炭鉱(軍艦島)ドキュメンタリーに重大疑惑 検証を望む声

NHKが制作した端島炭鉱(軍艦島)ドキュメンタリーに重大疑惑 検証を望む声

 一般財団法人「産業遺産国民会議」と、「真実の歴史を追求する端島島民の会」は11月20日、NHKが長崎県の端島炭鉱(軍艦島)を描いたドキュメンタリー作品「緑なき島」(1955[昭和30]年放送)に登場する坑内の映像が、端島炭鉱とは無関係である可能性が高いという調査結果をまとめ、検証動画を公式サイトで発表した。

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 動画は約21分あり、端島炭鉱で働いた経験を持つ元島民などの証言が紹介されている。

「緑なき島」に登場する坑内作業者が裸だったり、ヘルメットにキャップランプを装着していなかったりする点などを疑問視している。調査は産業遺産情報センター(東京都新宿区)でセンター長を務める加藤康子氏が主導した。

 2015年、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」がユネスコ(UNESCO:国際連合教育科学文化機関)の世界遺産に登録された。

 ところが韓国は当初から「長崎造船所や端島炭鉱などの施設で韓国人が徴用され、多くの犠牲者を出した」とし、全23施設のうち7施設の申請撤回などを求めていた。

 世界遺産登録時、UNESCOの諮問機関・イコモス(ICOMOS:国際記念物遺跡会議)の勧告の1つとして、「歴史全体について理解できる説明戦略」が日本側に求められた。

 これを受けて今年6月、内閣官房が産業遺産情報センターを開所した。産業遺産の歴史や意義を展示で分かりやすく説明したほか、センター長の加藤氏が中心となって行った一次資料の収集、元島民の証言などがアーカイブ化されている。

 加藤氏が端島炭鉱の実情に関して豊富な知識を持っていることから、元島民と共に今回のNHKのドキュメンタリー作品「緑なき島」の検証も行うことになった。

良質のドキュメンタリー
作業服とキャップランプが消えた

 15年7月に文化遺産として登録されたため、NHKエンタープライズは同年11月に「緑なき島」と「科学ドキュメント 風化する軍艦島」(1979[昭和54]年)の2作品を収録したDVDを制作、現在も販売を行っている。

 加藤氏の調査によると、ドキュメンタリー「緑なき島」は1955(昭和30)年の11月17日、午後7時10分から30分まで放送された。

 今でいう“ゴールデンタイム”だ。NHKとしても自信作だったのだろう。加藤氏は「島の生活を記録した資料的価値が高いのは言うまでもありません」と評価する。

「島の日常生活を追った描写も素晴らしく、良質の短編ドキュメンタリー作品だと思います。ただ、大問題の1部分を除けばの話ですが……」

 文化遺産の登録が決定する際、日本側は韓国側の主張する「強制労働」の表現を退けることには成功した。

 その一方で、「労働を強いられた人々」が存在することは認めた。いわゆる玉虫色の決着というわけだが、読売新聞は「韓国側の“ごね得”を認めた」と批判した。

 端島炭鉱の元島民は、この政府の対応に不満を抱き、加藤氏に疑問をぶつけた。その過程の中で、彼女は元島民より「NHKの『緑なき島』というドキュメンタリーで、坑内作業の映像は間違いだらけだ」という指摘を何回か耳にした。

「ところがテレビ業界に詳しい専門家に話を訊くと、『天下のNHKドキュメンタリーで、やらせや捏造など虚偽映像を作るなど考えられない』と全否定されました。私もNHKには取材力があり、国民の受信料で制作をしているので、厳しい倫理規定の元に作成しているはず。島民の言葉だけで捏造とは断定できないと思いました。そこで、本格的な調査を保留にしていたのです」

判明した疑問点
作業服とキャップランプが確認できる

 しかしどうしても島民の言葉が心にひっかかり、折を見ては、NHKエンタープライズが販売したDVDを何度も見た。そして今年になって、映像の矛盾点を見つけたという。

「NHKの取材班は、島内では実際にカメラを回しています。坑内に入る作業員の映像も本物で、作業服に身を包んだ男性たちが階段を降り、エレベーターで海底の炭鉱に降りていく様子が記録されています。ところが坑内に入ると、いきなり作業員は上半身裸になってしまうのです。『わざわざ作業服を着て坑内に向かったのに、坑内で服を脱ぐというのはおかしくないか?』と疑問が浮かびました」(同)

 コロナ禍の中、加藤氏やカメラマンは長崎など全国に飛び、元島民に「緑なき島」の視聴してもらい、その上でインタビューを行った。

「まず坑外と坑内ではヘルメットの形が違っていることが分かりました。また坑外ではヘルメットにキャップランプが装着されていたのに、坑内ではそのランプをはずしています。坑内は真っ暗でキャップランプなしに安全に作業はできません。更にガスが出る端島炭鉱では使用を禁止されていた裸電球が坑内にぶら下がっていました。NHKの映像では平らな坑道になっていますが、端島炭鉱の炭層は45度から60度の急傾斜なのでこんな坑道はないはず、と様々な疑問点が判明したのです」(同)

NHK『緑なき島』を参考にした可能性がある映画『軍艦島』

 国民会議と島民の会が作成した動画からキャプチャした写真をご覧いただきたい。「緑なき島」に登場する坑外の場面では、作業員は制服に身を包み、ヘルメットにキャップランプが装着されていることが分かる。

 ところがカメラが坑内に入ると、急に作業員は上半身裸となってしまい、ヘルメットのキャップランプも姿を消してしまっている。

“真っ白”な作業員の嘘
 端島炭鉱で働いた元島民は口を揃え、「これは他の炭鉱で撮影したとしか考えられない」と指摘した。

 しかし、だからこそ疑問が生じる。取材班が島内でカメラを回したのは紛れもない事実だ。わざわざ坑内だけ、他の炭鉱で撮影する必要があるのだろうか? 

「端島炭鉱の総務課に勤務していた男性が、『坑内の撮影を許可した記憶がない』と証言してくれたことが謎に迫る鍵になったと思っています。端島炭鉱はガスが多く、ガス爆発や炭塵爆発の危険もあり、撮影の許可が下りなかった可能性があるのです」(同)

 坑内の映像がなければ、番組として価値が落ちる──。ここまで判断したかは分からないが、「緑なき島」で登場した“端島炭鉱の坑道”という映像は、福岡県内に点在した小規模の炭鉱を連想させるという証言も相次いだ。

「端島炭鉱の記録を見ると、採炭現場から帰ってきた作業員は粉塵で真っ黒です。ところがNHKの『緑なき島』では、坑内の場面で登場する作業員は、裸の上半身も褌も真っ白です。この人々は一種の“エキストラ”だった疑惑も出てきました」(同)

現在進行形の問題
「65年も前の問題点を、今さら指摘して何になる。関係者も物故しているのは間違いなく、それこそ時効だ」と思われる人もいるだろう。

 だが加藤氏は「『緑なき島』の問題映像は、現在でも波紋を広げていることが分かったのです」と言う。

「信頼度の高いNHKが制作したドキュメンタリーですし、少なくとも島内の映像がリアルなのは事実です。問題があるはずの坑内映像は今も、特に韓国の政府やメディアによって『徴用工が劣悪な環境で働かれていた、奴隷労働の証拠』として何度も引用されているのです」

 もともと韓国では「炭鉱の中を上半身裸で寝そべって作業させられる徴用工」という有名な写真があり、日本の韓国人徴用工に対する非人道的な扱いを象徴するものとして広く知られていた。

 ところが産業遺産国民会議の調査で、この写真は昭和30年代に筑豊で撮られたもので、韓国人徴用工とは全く無関係であると判明している。

「韓国の釜山にある国立日帝強制動員歴史館でも、端島炭鉱の様子を紹介する展示は『緑なき島』の映像を解説に使用しています。他にも韓国のテレビ局が何度も映像を引用しているほか、2017年に韓国で公開された映画『軍艦島』[リュ・スンワン監督(46):CJ E&M]で作業の苛酷さを伝えるシーンに影響を与えています」

 国民会議と島民の会が発表した動画は、YouTubeなどで公開されている「軍艦島」の予告編から、NHKの「緑なき島」を参考にした可能性のある場面を紹介している。これもキャプチャした写真をご覧いただきたい。

 端島炭鉱では炭層の関係から、作業員は立ったまま作業を行い、坑道を斜めに掘り下げていったという。

 一方、NHKの「緑なき島」は狭い坑道を四つん這いになり、平行に移動している。映画「軍艦島」の予告編を見れば、類似したビジュアルイメージを採用したことが分かる。

NHKの取材
 NHKの公式サイトに「解説委員室」というコーナーがある。NHKの解説記事がアーカイブされており、例えば2017年8月に「時論公論」(NHK総合・平日・23:30)で放送された「日韓の新たな火種か 元徴用工問題」を読むことができる。

 タイトル通り、韓国の元徴用工が日本に賠償を求めた問題を解説したものだが、この中に《当時、軍需工場や炭鉱などに動員された人達の労働環境が劣悪で過酷だったことは確かです》との指摘がある。

 端島炭鉱の労働環境も、きっと劣悪で苛酷だった──こうしたイメージが裏付けとなる証拠がないまま拡散しており、その責任の一端は「緑なき島」にあるのでは、と加藤氏は懸念を示す。

「NHKは今年10月、九州地方のローカル番組として『実感ドドド! 「追憶の島~ゆれる“歴史継承”~」』という、端島炭鉱に関するドキュメンタリーを放送しました。NHKから取材申請があったので、私はディレクターの方2人のインタビューを受けました」

 NHKの公式サイトには、この番組が《“歴史”は、どのように記憶され、そして、忘却されるのか》という問題意識で製作されたことが紹介されている。

第三者委員会の必要性
 加藤氏に対し、NHKのディレクターは端島炭鉱における“負の歴史”も、産業遺産情報センターで展示すべきではないかと質問した。

 加藤氏は“負の歴史”という概念に疑問を示す一方、“負の歴史”というイメージが広がっていった責任の一端はNHKの「緑なき島」における坑内の映像にあるのではないかと指摘したという。

「私たちが問題だと考える『緑なき島』の場面を見てもらい、検証の結果も説明したのですが、議論は平行線でうやむやに終わってしまいました」(同)

 加藤氏は「撮影スタッフが物故している可能性はありますが、だからといって“真相は藪の中”と終わらせるわけにはいきません」と言う。

「元島民の皆さんに映像をチェックしてもらっただけでも、これだけのことが判明しました。NHKは歴史家などによる第三者委員会を設置し、問題のあったドキュメンタリーだったのか、徹底的な調査を行う必要があると思います。もちろん誤りが判明したら、日本国内だけでなく、世界に向かって発表し、車のリコール同様、DVDを回収して、編集しなおす責任があるはずです。島民の尊厳を傷つける映像でもあるのですから」(同)

 NHKに取材を依頼すると、文書で回答があった。全文をご紹介しよう。

《軍艦島(端島)の状況については、様々な見方や意見があることは認識しています。ご指摘のDVDの内容につきましては、当時の取材に基づいて、制作・放送したものと考えています》

 国民会議と島民の会が公開した動画は、YouTubeで公開されている。リンクは以下の通りだ。

https://www.youtube.com/watch? v=4xrtgyrWCIM

週刊新潮WEB取材班

2020年11月20日 掲載

新潮社

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