九州水害で露わになった民主党政権「ダム建設中止」の大きすぎる代償

九州水害で露わになった民主党政権「ダム建設中止」の大きすぎる代償
7/13(月) 6:01配信

 熊本県をはじめ、日本各地で多数の方が水害に見舞われている。亡くなられた方には心よりお悔やみ申し上げたい。

 この水害で思い出されるのは、川辺川ダムの建設中止だ。2009年8月30日に衆議院議員選挙があり、民主党が大勝、政権交代が成った。民主党の公約の中に「コンクリートから人へ」というものがあり、そのシンボルだったのが「東の八ッ場ダム、西の川辺川ダムの中止」だった。

 その当時、マスコミは民主党への政権交代という熱気の中で、八ッ場ダム・川辺川ダムの建設中止に異を唱える向きはなく、大賛成の大合唱だった。テレビのコメンテータとして出演している人までも賛成一色だった。

 筆者は、実は2001~2003年まで国交省の課長を務めている。その間、公共事業の適切な執行について、先進国で長期調査をした。そのときの結論は、ほぼすべての先進国で、公共事業は基本的にコストベネフィット分析に依拠しており、政治とは一定の距離を置いて、客観的な判断によって遂行されることが多いというものだ。もちろん、政治的な決定が皆無とは言わないが、それは例外だ。

 そうした立場から見ると、八ッ場ダム・川辺川ダムの建設中止には、どうしても合点がいかなかったので、『日本の大問題が面白いほど解ける本 シンプル・ロジカルに考える (光文社新書)』(光文社、2010年5月)の他、建設中止の非合理性をいくつかの論考で書いた。

 そのとき用いたフレームワークは、サンク・コスト論だ。そもそも論として、ある事業について、中止するのがいいのか、継続するのがいいのかを意思決定する際、この経済学のサンク・コスト概念が役に立つ。

 投下した資本のうち、事業の撤退や縮小を行っても回収できない費用のことをサンク・コスト(sunk cost=埋没費用)という。どれだけそれまでにコストをかけたかを気にしても仕方ない。その後にかけるコストと得られる便益を対比させ、その後のコストが大きければ中止、便益が大きければ継続となる。

「サンク・コスト論」の正解

 このサンク・コスト論は極めて有用である。本コラムの読者であれば、かつて筆者が、小池百合子東京都知事が築地市場から豊洲市場への移転中止を主張した際、この理論を適用して、移転中止は間違いだと論じたことを覚えているだろう(「築地市場は一刻も早く移転せよ!  都民のことを思うなら答えは一つだ」。

 その後、小池都知事は豊洲移転中止を取りやめている。また、詳しくは後述するが、八ッ場ダム中止も取りやめとなり、建設続行となった。川辺川ダムも、今回の水害で建設中止が間違いだったことがわかり、改めてサンク・コスト論の有用さが立証される事例となるだろう。

 先に掲げた筆者の本のエッセンスを述べれば、八ッ場ダムについて、コストは4600億円、便益は6000億円とされていた。B/C(便益・コスト比)基準でみると、B(便益)/C(コスト)=6000/4000=1.3 と1より大きいので、公共事業として採択された。

 ところが、民主党政権まででコスト4600億円のうち3400億円が支出され、残りは1200億円となっていた。サンク・コスト論によれば、コスト1200億円をかければ6000億円の便益があるので、中止は間違いで、工事続行が正しい。

 その著書の中では「川辺川ダムも同様」とだけ書いたが、改めて数字を述べれば以下の通りだ。

 川辺川ダムのコストは4000億円、便益は5200億円程度だったと思う。B/C=1.3程度で、公共事業として問題ない。川辺川ダムの場合、コスト4000億円のうち、中止までに2800億円が支出され、残りは1200億円だった。

 サンク・コスト論では、コスト1200億円をかければ便益5200億円程度となるので、やはり中止すべきではなく、工事続行が正しかった、となる。

 つまり理論上は、八ッ場ダムと川辺川ダムの建設中止を掲げた民主党の公約は、大間違いだった。しかし、政治的にはなかなか間違いとは言えない。特に、当時の前原誠司国交大臣は間違いを認めなかった。

 しかし、八ッ場ダムの場合、都知事など関東各都県の知事が中止反対を言うようになった。そうなると民主党も折れて、2011年12月に建設再開が決まった。2019年10月から試験運用が行われたが、その直後に令和元年東日本台風が来た際、治水効果を発揮している。

 一方、川辺川ダムについては、地元熊本県において、2008年3月に「脱ダム」を主張する蒲島郁夫氏が知事選に当選し、現在にいたるまで知事を続けている。蒲島氏は、当時から「ダムによらない治水」と言い続けている。

 「ダムによらない治水」の具体的な策としては、(1)遊水池、(2)放水路、(3)引堤(堤防を川の両側に広げること)、(4)堤防嵩上などの方法がある。

 ただし、7月11日放送の朝日放送「正義のミカタ」に出演した藤井聡・京大教授によれば、それらのコスト、工期は、(1)遊水池(1兆2000億円、110年)、(2)放水路(8200億円、45年)、(3)引堤(8100億円、200年)、(4)堤防嵩上(2800億円、95年)ということだ。

 「ダムによらない治水」の方法は、あるにはあるが、いずれもコストパフォーマンスではダムの代替にはなり得ない。大規模な住民立ち退きや別の環境問題も発生得るので、日本の急勾配の河川では多くの場合、上流の一ヵ所にダムをつくるほうがはるかにいいのは明らかだ。

 なお、ある民放の番組で、素人の左派知識人が「河道を掘削したほうがいい。そういう判断をされた熊本県知事の判断は正しかった」と言っていたが、まさにそれしかやらなかったために今回の惨劇を招いたというのに、あまりの非常識なコメントに愕然とした。

「脱ダム」の正解は?

 そういえば、その放送局は10年前、脱ダムを猛烈に推していた。今回の災害報道では、そのことを一言も言わないが、やはり「脱ダム賛成」の本性が出たのだろうか。

 いずれにしても、熊本では今になっても「ダムによらない治水」は実現しておらず、今回の災害を防げなかった。しかし、今に至っても、蒲島氏は「12年間『ダムなし治水』ができず悔やまれる」と述べるなど第三者的であり、当事者意識に欠けているといわざるを得ない。蒲島氏の脱ダム行政を検証し、今後の県政運営に生かすべきだろう。

 ダメ建設に限らず、公共投資を適正に行うために、先進国ではB/C(便益・コスト比)基準が導入されている。

 この分析を使えば、環境派・脱ダム派の意見を取り入れることもできる。「便益」の中には、洪水被害で失うことを防げる人命も入れる。環境・脱ダム派の主張する自然破壊も、マイナスの便益としてカウントしていい。

 しかし、環境派・脱ダム派は、救える人命をカウントせず、自然破壊を過大に評価するか、なぜか定量化できないと言いがちだ。筆者はダブルスタンダードの印象を受ける。

 いずれにしても、B/Cを算出し、これが1以上ならばいい公共投資、1未満ならば悪い公共投資と、定量的判断をすることが重要だ。この基準なら、上で述べたように中止も合理的に判断できるが、川辺川ダムではその合理性が欠けていた。「ダム建設中止」に浮かれていた民主党政権もマスコミも同罪である。

 ただし、安倍政権も合理的とは言えない。技術的な話になるが、B/Cの算出には、将来の便益やコストを現在価値に割り戻すための「社会的割引率」を使う。日本の場合、4%と高いモノを十数年も使い続け、その結果、公共投資が本来あるべき水準より半分以上も過小投資になっている( https://www.zakzak.co.jp/soc/news/191109/dom1911090003-n2.html )。

コロナ「第二波」を考えて

 筆者なりに、昨年からいろいろなルートで国交省に圧力をかけたら、やっと見直しを検討しはじめた( https://www.mlit.go.jp/page/kanbo08_hy_000031.html )。見直しが進めば、早ければ来年度予算から公共投資は倍増し、災害対策にもっと貢献できるだろう。中止された川辺川ダムを一刻も早く作り、今後数十年で予測される水害被害をできるだけ小さくする必要がある。

 なお、最後に、やはりコロナ問題の続報に触れておきたい。コロナ「第二波」は確実に来ている。規模についても、先週「ピーク時には第一波の半分以上となる可能性」と書いたが、さらに状況は悪化し、「第一波と同じ程度」になってもおかしくない。関東一部都県で、休業要請を出さざるを得なくなるかもしれない。

髙橋 洋一(経済学者)

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