ロジャーズ、バフェット、ダリオ 世界的な投資家が恐れる最悪シナリオ

ロジャーズ、バフェット、ダリオ 世界的な投資家が恐れる最悪シナリオ
7/13(月) 6:00配信

 日経ビジネスの取材に対し、2019年時点で「2020年にも未曾有の危機が到来する」と予言していた世界的な投資家のジム・ロジャーズ氏。新刊『危機の時代 伝説の投資家が語る経済とマネーの未来』では、大恐慌からブラックマンデー、リーマン・ショック、新型コロナウイルスまで歴史を振り返りつつ、繰り返される危機の本質とどのように行動すべきかを詳細に述べている。

 今回の記事では、ロジャーズ氏と、米バークシャー・ハザウェイのウォーレン・バフェット氏、世界最大級のヘッジファンドである米ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者であるレイ・ダリオ氏の発言から、今回の危機が、かつての大恐慌のような深刻な問題に発展する可能性を読み解く。


 ジム・ロジャーズ氏に限らず、世界的な投資家たちは歴史に強い関心を持っている。現在起きている「コロナ・ショック」と深刻化しつつあるグローバルな経済危機を読み解くには、歴史の教訓に学ぶことが大事だと考えているからだ。「歴史から未来を予測する」ことの重要性をロジャーズ氏は新刊『危機の時代』でくり返し強調しているが、ほかの偉大な投資家も同様の考えを持っている。

 例えば、2020年5月上旬に開かれた米バークシャー・ハザウェイの株主総会。同社の会長兼CEO(最高経営責任者)であるウォーレン・バフェット氏のスピーチはさながら歴史学の講義のようだった。建国以来の米国の歴史を踏まえて、経済情勢と市場の変化を解説しつつ、足元の世界情勢と投資に関する見方を詳細に語った。4時間半に及ぶ長い総会だったため、本稿では一部だけを紹介したい。

 とりわけ印象的だったのが、1929年に米ニューヨークで起きた株価暴落に端を発する大恐慌の分析だ。ウォール街で株価が大暴落した10カ月後の1930年8月に誕生した現在89歳のバフェット氏にとり、大恐慌は本で読んだだけの歴史物語ではない。同氏とその親やきょうだいが経験した現実の物語だっただけに説得力があるように感じられた。

 バフェット氏は「1929年10月にいったん大暴落した株価は、その後9カ月半で20%以上回復した」と指摘。「人々は1930年秋の時点で大不況が起きているとは考えていなかった。それまで米国では少なくとも十数回の不況が起きており、今回の不況が通常と劇的に違うものではないように見えた」(バフェット氏)。多くの人は、大恐慌の初期の段階では、これが過去と同じような不況でそこまで深刻なものに発展すると考えていなかった。

 しかし「その後の2年間で米国の株価は83%下落し、1929年9月3日のピークから89%も下落したのは異常だった」と続けた。その後、株価が1929年のピークを超える水準に回復するまで20年以上かかったという。

バフェット氏「株価が50%以上下落することを覚悟した方がいい」
 つまりバフェット氏は、コロナ・ショックをきっかけとする経済危機が大恐慌のような深刻な事態に発展して、株価が大幅に下落するリスクを懸念しているようだ。「株式を買って保有するなら50%以上下落することを覚悟した方がいい」「過去2カ月の間に世界を混乱させ、習慣を変え、ビジネスを危険にさらしたウイルスが、今後6カ月、1年で何をするかについて確信を持てない」。こうしたバフェット氏の発言からは株式市場と世界情勢の先行きに対する強い不安が感じられた。

 今年2月から3月にかけて、新型コロナウイルスの感染拡大を受けていったん暴落した株価は、その後反発したが、バフェット氏は懐疑的に見ていた。コロナ・ショックが企業業績に与える影響が本格化するのはむしろこれからで、先行きを楽観視できないと思っているようだ。

 歴史に詳しい投資家としては、世界最大級のヘッジファンド、米ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者であるレイ・ダリオ氏も有名だ。ロジャーズ氏も注目する投資家であるダリオ氏のブリッジウォーターも6月16日、顧客向けの書簡で「株式市場は失われた10年を経験する瀬戸際にある」という警告を発した。

 なぜそんな主張をするのか。過去数十年にわたって、先進国の多国籍企業の収益性向上をけん引してきた「グローバリゼーション」のピークが過ぎたからだという。米中の貿易戦争に象徴される保護主義的な国家間の経済対立と世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により、グローバル企業はコストの最適化ではなく、信頼性を重視したサプライチェーンを構築する動きを加速させている。こうした動きが企業の利益率の低下につながることを懸念している。

 最近までグローバル企業は、生産コストが安い国や地域を探して世界的なサプライチェーンを構築してきた。この結果、グローバル化を成功させた多くの企業は利益率が向上。しかし米中対立などの貿易戦争やパンデミックの影響で、サプライチェーンが機能しなくなる可能性を考えると、コストが高くても、取引ができなくなるリスクが低い地域に工場を置いた方が合理的だと考える企業が目立つようになった。

 米半導体大手のインテルや台湾半導体大手のTSMCが米国に最先端の工場を作ろうとしているのはその表れだとダリオ氏は考えている。こうした動きが加速すると企業の収益拡大にブレーキがかかり、利益水準が低下して長期的に株価も下がっていく可能性が高いと見ている。

1930年代のように世界でポピュリストが台頭している

 「最近の世界情勢は1930年代に似ている」とダリオ氏は以前から指摘していた。2017年に「ポピュリズム」に関する詳細なリポートを発表。米国やイタリア、フィリピンなどでポピュリストの政治家が台頭していることを指摘したうえで、ヒトラーやムッソリーニなど、過去に注目を浴びた14人のポピュリストを分析した。

 ダリオ氏は、ポピュリストの特徴をこう説明する。「協調的というより対立的で、包括的というよりも排他的だ」。具体的には敵を作って攻撃し、外国人などを排斥することで人気を得ようとするリーダーが多いという。ナショナリズム、保護主義、大型のインフラ整備、財政赤字の拡大、資本規制などがポピュリストの政策の特徴だと指摘する。

 「第1次世界大戦と第2次世界大戦の間(1920~30年代)は、世界の主要国の大半でポピュリズムの勢力が、ほかのどの勢力よりも世界史を動かしてきた」(ダリオ氏)

 ダリオ氏のこのようなコメントは、ロジャーズ氏が新刊『危機の時代』で語っている見方と似通っている。

 ロジャーズ氏は『危機の時代』でこう述べていた。「トランプ大統領が貿易戦争を起こしていたので、状況はさらに悪化し、1930年代のようにはるかに落ち込んでいくだろう。世界中の政治家が多額の借金を重ねるという過ちを犯していたため、通常の不況だった可能性もあったはずなのに大きな災害に変わってしまった」

 歴史上の多くのポピュリストと同様に、トランプ大統領は外国人を目の敵にしている。中国を厳しく批判するだけでなく、メキシコから入ってくる移民も「壁」を建設することで排除しようとしてきた。前回の大統領選で勝利した際のように、外国人を非難することが票につながることを知っているからだ。

戦争が起きる可能性は否定できない

 1930年代に世界各国でポピュリストのリーダーが政治権力を握ったのは偶然ではない。不況が深刻化する中で、生活が苦しくなった多くの国民は不満を抱えるようになっていた。経済的に困窮した人々の耳には、「外国人を追い出して、仕事を取り返そう」「輸入を制限して、自国の産業を保護しよう」「財政出動を増やして雇用を拡大しよう」といった政治家の声は魅力的に聞こえたはずだ。だからこそ世界中でポピュリストの政治家が力を持つようになった。

 ロジャーズ氏はこう指摘する。「現在の状況は、1939年に始まった第2次世界大戦の前と似ている。1930年代、世界中の国々で借金が積み上がり、貿易戦争が勃発。景気も悪化していた。そしてそれらが相まって、軍事的な対立につながっていった。今回の危機が今後どうなるか分からないが、戦争が起きる可能性は否定できない」

 前回の記事「ジム・ロジャーズ 恐慌状態になると戦争の可能性が高まる」では、ロジャーズ氏が経済の悪化が戦争につながる可能性を強く懸念していることを紹介した。「世界のすべての政治家は広島や長崎を訪れて、戦争がどれほど恐ろしいか学ばなければならない」「広島の地獄を見たら、人々は戦争を思いとどまることだろう」と警鐘を鳴らしていた。

 ダリオ氏も1930年代のようにポピュリズムが世界に広がることを懸念しており、ポピュリストが権力を握る土壌となる「所得格差の拡大は国家の緊急事態だ」と2019年に指摘。「多くの子供たちを貧困の中に置き去りにし、きちんとした教育を受けさせないのは虐待に等しい」などと述べ、資本主義を改革すべきだと主張していた。生活に不安を抱える低所得層が増えることがポピュリストの台頭を促すとダリオ氏は考えている。

 日本でダリオ氏はあまり知られていないが、その考え方については2019年に出版された著書『PRINCIPLES(プリンシプルズ)人生と仕事の原則』(日本経済新聞出版)に詳しい。ダリオ氏はロジャーズ氏に負けず劣らず歴史好きで、独自の投資哲学を信奉するファンは多い。父親がミュージシャンだったダリオ氏の耳には「危機のプレリュード(序曲)」がすでに鳴り響いているのかもしれない。

 3人の世界的な投資家の見方は、足元の株価が比較的堅調に推移していることを考えると「悲観的過ぎる」と感じる人も少なくないことだろう。しかしバフェット氏は大恐慌の時代に幼少期を過ごした人物で、ロジャーズ氏も第2次世界大戦中に生まれている。ダリオ氏は1949年生まれであるものの、歴史に基づいた世界経済の見方には定評がある。歴史に学ぶことで未来を予測しようとする投資の巨人たちの言葉には傾聴すべき点が少なくない。 

山崎 良兵

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