須田慎一郎が解説~東京高検の検事長定年延長決定の裏側

須田慎一郎が解説~東京高検の検事長定年延長決定の裏側

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月3日放送)にジャーナリストの須田慎一郎が出演。東京高検検事長の定年延長決定の裏側について解説した。飯田浩司が休みのため新行市佳が進行を務めた。

最高検察庁、東京高等検察庁、東京地方検察庁、東京区検察庁がある中央合同庁舎第6号館A棟(東京高等検察庁-Wikipediaより)

東京高検の検事長定年延長決定の裏側

2月7日で定年退官する予定だった東京高検の黒川弘務検事長の定年を、8月まで半年ほど延長する異例の人事が1月31日の閣議で決定した。この人事について、検察トップの検事総長に黒川氏をあてるための異例の手続きだと、一部のメディアが報じている。

新行)このニュースの裏側について、須田さんに解説していただきます。

須田)1月31日にこの人事が閣議で決定したのですが、これをもってして当てが外れた人たちが、また官邸の介入、忖度ではないかと野党や一部メディアが大騒ぎを始めていて、きょう(3日)以降、この一件が安倍政権批判に利用されそうな流れになっています。反応から先にご紹介すると、立憲民主党の枝野代表が「官邸の介入、破壊行為」と批判しています。何の事実関係も確認しないまま、朝日新聞だけを見て言ったのでしょう。その朝日新聞も、活字の方では比較的穏当なのですが、ニュースサイトになると「高検検事長の定年延長、官邸介入で『やりすぎでは』の声」と、官邸介入と決めつけています。しかも枝野さんは「東京高検検事長の勤務延長は明確な脱法行為」と、ここまで言っています。何をもって脱法行為なのかわかりませんけれど。

衆院本会議に臨む立憲民主党・枝野幸男代表と国民民主党・玉木雄一郎代表(左)=2020年1月20日午後、国会 写真提供:産経新聞社

枝野氏「黒川東京高検検事長の定年延長は脱法」~高検検事長は63歳まで

須田)簡単に事態を振り返りたいと思います。東京高検検事長は検事総長に次ぐ序列のポストで、法務検察のナンバー2です。そこに黒川弘務さんという人が就いているのですが、この方は2月7日で定年退職の予定でした。これは法律で決まっていて、検事総長以外の検察官は63歳までしか勤務することができません。63歳になる2月8日をもってして定年退官ということになっていた。ところがその定年退官を1月31日の閣議で半年間、8月7日まで延長するということが決められた。その背景に何があったのか。

正面玄関口(東)側から撮影した官邸(総理大臣官邸-Wikipediaより)

2019年11月に官邸から「検事総長は黒川氏で」というメッセージを送っていた

須田)そもそも法務検察のなかで、林真琴さんという名古屋高検の検事長、検察のなかの序列で言うとナンバー4という人がいて、黒川さんと同期です。この2人が検事総長の座をめぐって激しく争っていました。法務検察、つまり役所サイドとしては、役所の都合として林さんを推していました。黒川さんは法務省の官房長、そして事務次官という管理畑で、加えて言えば法務省関連の予算や法律を通すにあたって、国会調整・与野党調整をやって来た人です。政治の側に顔を覚えられている人です。そうすると、これからいろいろと法務検察絡みでやって行かなければならないから、官邸サイドとしては林さんより黒川さんがいい。それで決めろとは言っていないのですが、2019年11月中旬くらいに、官邸としてはメッセージを送っていた。法務検察サイドは官邸の意向を踏まえて、黒川さんで行こうということで調整に動き始めたのです。黒川さんで決めるには法律上、2月7日前に就任させなければならない。

カルロス・ゴーン被告と妻のキャロル・ナハス =2020(令和2)年1月14日、ベイルート(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

検事総長の調整中に起こったカルロス・ゴーン国外逃亡事件

須田)黒川さんにするために、検事総長にやめて貰わなければいけないということで、稲田さんという検事総長に「そろそろ退官していただけないでしょうか?」と調整を進めている最中、事件が勃発しました。12月末のカルロス・ゴーン被告の国外逃亡です。それが起こって、年明け早々に稲田さんが検事総長を退官してしまうと、世の中的には、「カルロス・ゴーン被告の国外逃亡を受けて、法務検察サイドが然るべき手続きをとっていなかった」ということで、引責辞任したと見られかねない。それを受けて、「検事総長は65歳までなので、任期も2年以上残っているのだから辞めたくない。この時点で辞めてしまうと、検事総長の権威を傷つけてしまうことになるから、この時点では辞められない」と稲田さんが言い出した。

【政治 201通常国会開会】衆院本会議で行われた安倍晋三首相の施政方針演説=2020年1月20日午後、国会・衆院本会議場 写真提供:産経新聞社

批判的なメディアが抜けている部分

須田)実を言うと朝日新聞などの批判的なメディアは、この部分がすっぽり抜けているのです。稲田さんの気持ち、検察サイドの事情、黒川さんで決めようではないかと動いているなかでカルロス・ゴーン被告の一件が起きたものだから、なかなか交代ができない。そういう法務検察の事情を一部メディアは無視しているのか、知らないかのどちらかですが、結果的にこういう報道の仕方になっている。黒川さんで決めたいのだけれども、稲田さんを辞めさせることができないから、とりあえず半年間の定年延長をして、然るべきタイミングで交代しようというのが今回の人事の背景です。ただきょう(3日)以降、この件で安倍政権は大きく批判を受けるでしょうね。その背景にはこういう状況があるのです。

新行)すなわち法務検察側の要望があって、それに対して閣議決定したという流れですよね。官邸が介入したわけではないということですね。

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