ベーシックインカム導入は「ショックドクトリン」でやるべき=竹中平蔵

8/1(土) 10:00配信

ベーシックインカム導入は「ショックドクトリン」でやるべき=竹中平蔵【週刊エコノミストOnline】
竹中平蔵氏

 <インタビュー「私が考えるベーシックインカム」>

 ベーシックインカムを支持する人の間でも、その目的や手法についての考え方はさまざまだ。財政や社会運動などの分野で幅広く活躍する4人の論者に聞いた。

(聞き手=市川明代/桑子かつ代・編集部)

── 本誌6月2日号で紹介した竹中さんのインタビューで、ベーシックインカム(BI)に前向きな発言をしたことに、ツイッターなどで大きな反響があった。

■そうだったんですか(笑)。新型コロナウイルスの感染拡大前から日本社会は大きな変動期を迎えていた。これまでは偏差値の高い大学を出て、大企業に入って管理職になれば安泰だったが、今はそういう人生の海図が描けなくなっている。チャレンジし続けなくてはならないが、チャレンジにはリスクがつきもので、「究極のセーフティーネット」が不可欠だ。BIは、究極のセーフティーネットだ。

── 特に若い人たちの間で、関心が高いようだ。

■今の若い世代には、そうした社会変動のリスクに加え、長生きのリスクがある。医療は進歩しており、彼らは私たちよりはるかに長生きする。どのように職を変え、そのためにどんなリカレント教育(社会に出た後の学び直し)を受ければいいのか、悩み続けなければならない。そういう中でBIが受け入れられているのだろう。

── 新型コロナ対策としての10万円の特別定額給付金が、BIへの入り口を作ったという声がある。

■新型コロナで世界中が異常な事態に陥り、現金給付をする国が相次いだ。日本はとにかく全員にということで、経団連会長にも配った。それが正しいことなのかという議論はもちろんある。

 今後、新型コロナの第2波、第3波が来れば、例えば毎月5万円を給付する必要が出てくるかもしれない。その際にはマイナンバーが重要になる。銀行口座とひも付け、高所得者には年末調整や確定申告の時に返してもらう。こうすることで事実上のBIになる。

 ◇生活保護は「不要」に

── 財源はどうするのか。

■基になるのは(米経済学者)ミルトン・フリードマンの「負の所得税」の考え方だ。一定の所得がある人は税金を払い、それ以下の場合は現金を支給する。また、BIを導入することで、生活保護が不要となり、年金も要らなくなる。それらを財源にすることで、大きな財政負担なしに制度を作れる。生活保護をなくすのは強者の論理だと反論する人がいるが、それは違う。BIは事前に全員が最低限の生活ができるよう保証するので、現在のような生活保護制度はいらなくなる、ということだ。

── 日本でBIを実現できると考えるか。

■非常に大変だろう。だからといって、少しずつ制度を変えようとすると、絶対に実現できない。既得権益を守ろうとする人たちが必ず出てくるからだ。社会主義国が資本主義にショック療法で移行した時のように、一気にやる必要がある。今がそのチャンスだ。

(竹中平蔵・東洋大学教授、慶応義塾大学名誉教授)

(本誌初出 竹中平蔵 ベーシックインカムは究極のセーフティーネット、今が一気に導入する好機 20200721)

 ■人物略歴

 たけなか・へいぞう

 1951年和歌山生まれ。一橋大卒。ハーバード大客員准教授などを経て、2001~06年の小泉政権で経済財政政策担当相、郵政民営化担当相などを歴任。16年から現職。博士(経済学)。

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