千載一遇のチャンス、独ソ開戦

・千載一遇のチャンス、独ソ開戦

1941年6月、ドイツがソビエトに攻めこんだことは日本にとって千載一遇のチャンスでした。独ソ開戦の報を聞くや否や、松岡外相は「即刻北進してソビエトを討ち、ドイツと共にソビエトを東西から挟み撃ちにすべし」と天皇に上奏します。日本が生き残る一つの道は本来の不倶戴天の敵ソビエトを討つことでした。
ソビエトは支那事変勃発後、大量の資金と軍事物資、爆撃機を国民党政府に提供し、1937年8月には国民党政府と中ソ不可侵条約を締結しています。
日本が日ソ中立条約を破ってでもソビエトに向かえば、本来は反共である蒋介石にも影響を及ぼし、支那事変解決にも繋がる可能性がありました。

日本が対ソ戦に打って出れば、沿海州・北樺太などのソビエト領は短期間に占領できたでしょう。北樺太には屈指の埋蔵量の油田があります。日本が北進すればソビエトは東西に兵力が分散されたままで、東西からの同時攻勢に抗しきれず、レニングラード、モスクワ、スターリングラードは恐らく陥落したでしょう。ドイツはコーカサスを進んでカスピ海の油田を手にいれ、更に南下してペルシャ湾の油田も獲得した公算が大きいです。ゾルゲから見ても「独ソ戦は日本にとって絶好のチャンス」「ソビエトにとって最大の危機」でした。
「扇の要」にいる近衛が、北進への代償として南進への道を開いたのです。これによりスターリンはモスクワ防衛のために極東ソビエト軍の二十個師団を振り向けることができ、独ソ戦の勝利に繋がります。一方、日本は米英と衝突する道を突き進むことになります。

日本による対ソ開戦論は世界的にみても妥当なもので、チャーチルやアメリカのウデマイヤー将軍が共にのちに次の如く回顧しています。
「日本が第二次世界大戦で勝者となれる唯一最大のチャンスは、独ソ戦勃発時に北進してソビエトを攻撃し、ドイツと組んでソビエトを東西から挟み撃ちにすることだった。この絶好の機会を日本はみすみす逃した。日本が北進せず南進して、アメリカとの戦争に突入してくれたことは、我々にとっては最大の幸福であった」

・近衛の野望

近衛の真意は、昭和天皇を廃して、藤原氏の筆頭として自らの覇権を打ち立てることにあったのです。そのために、共産主義者たちを利用して戦争を泥沼化させて大日本帝国を存亡の淵に陥れ、アメリカ軍をして皇軍を潰させるのです。皇軍を失い丸裸となり、かつ敗戦の結果として戦争責任を負う昭和天皇には退位して貰い、進駐してくるアメリカ軍を御しながら近衛が国の統治を担うのです。このような「支那事変から対米開戦へそして日本の全面的敗北、併せて天皇退位と米軍進駐、近衛による親米政権の樹立と覇権獲得」が近衛の野望のメジャーシナリオでした。
念のためのマイナーシナリオが風見や尾崎たちが主導している「ソビエトをバックとした敗戦革命」です。対ソ戦はこのメジャーシナリオの進行を妨げるものであり、同時にソビエトの力を弱めるという観点からマイナーシナリオにも悪影響を与えます。

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