「コロナ後」の韓国、文在寅がまたまた「日韓対立」を過熱させそうなワケ

5/19(火) 7:31配信現代ビジネス
「コロナ後」の韓国、文在寅がまたまた「日韓対立」を過熱させそうなワケ

文在寅「コロナ封じ込め」の真実
 韓国の文在寅氏は、大統領就任3周年に当たる演説で、「韓国が見せた開放・透明・民主の原則と創意的方式は世界的成功のモデルになった。国際社会の好評は韓国外交のすそ野を大きく広げた。この機会を積極的に生かしたい」と述べ、新型コロナ封じ込めの成功に胸を張った。

 韓国の新型コロナを封じ込めたのは政権としての大きな手柄である。それによって韓国の国民は先の総選挙において、文政権の内政、経済、外交政策における失敗や今後行こうとしている危険な道(著書『文在寅の謀略―すべて見抜いた』ご参照)を忘れ、与党「共に民主党」に勝利をもたらした。

 WHOのテドロス事務局長も「積極的なウィルス検査と診断、感染者の動きの追跡など韓国の包括的戦略が効果を上げていると評価し、5月にテレビ会議で行われるWHO総会でアジア代表として基調演説してほしい」と依頼した。

 しかし、新型コロナ封じ込めは、文政権だけの手柄ではない。また、それが「開放・透明・民主の原則」で成し遂げられたかについては大いなる疑問がある。

 そもそも韓国の新型コロナ封じ込めの成功の最初の要因は、徹底的なPCR検査によって、陽性者を割り出し、「生活治療センター」を設立して、軽症者はここに隔離し、医療機関への負担を軽減していったことであろう。

 そのうち、PCR検査の体制は、朴政権時代に中東呼吸器症候群(MERS)への対応の失敗が、朴政権への信頼を失墜した経験、その経験に基づき、検査体制が拡充していたことが幸いしたのであって、必ずしも文政権だけの功績というわけではない。

 ただ、国民は朴政権の対応の失敗と比べ、文政権の成果を高く評価することになった。文政権の最大の功績は「生活治療船センター」の設立であり、これを初期段階から導入していたことは評価すべきであろう。

「コロナ後」の韓国、文在寅がまたまた「日韓対立」を過熱させそうなワケ
photo/gettyimages
監視、追跡…さらに強まる「独裁的手法」
 反面封じ込めが、「開放・透明・民主」的な方法で行われたかというと、その意見には賛同できない。

 韓国では感染者の所在を、各所にある監視カメラ、電話基地局の情報、クレジットカード情報を活用して割り出し、追跡している。確かにこれは効果的な方法である。しかし、こうしたやり方は、プライバシー尊重の不在であると指摘する外信報道が出ており、中国に次ぐ監視社会だとする声もある。

 監視体制ばかりでない。ソウル市長は、匿名の検査に応じず、後に検査の結果陽性になり、かつ梨泰院のクラブに出入りしていたことが判明した場合には、200万ウォンの罰金を課すこととした。さらに中央災難安全対策本部は、全国のクラブや酒場などの遊興施設に営業自粛を勧告する行政命令を出した。強権発動である。

 このようなプライバシーを度外視して監視し、行政命令で営業の自粛を命令する、かつ梨泰院のクラブにいたことを隠しながら陽性が判明したものには罰金も課す強権的な手法は日本では取れない。しかし、文在寅政権は立法、行政、司法の国政の3権と言論を押さえている。これまで文政権は政権内に不正があってももみ消し、革新系に都合のいい、立法、行政、司法改革と政権の人事を思うように押し通してきた。

 国難の時期にあって、プライバシー侵害という非民主的手法で新型コロナをめぐる国難を乗り切り、総選挙にも圧勝したことで、今後ますます文政権の独裁体質は強まっていくであろう。

 しかし、日韓関係においてはこのような強権的手法は通じない。

元慰安婦の「告発」の巨大インパクト
 元慰安婦問題、元朝鮮半島出身労働者問題、など文政権で提起されている日韓間の歴史問題のいずれにおいても文在寅政権は事実を捻じ曲げ、解決済みの問題を再度提起し、高圧的に日本に対応を変えるように迫ってきているが、これに日本が応じるはずがない。

 文在寅氏が新型コロナの抑え込みに成功し、与党が国会議員選挙に勝利して、政権への国民の支持率が60%を超える水準に上昇したため、文政権の体質は忘れられがちになっているが、それは選挙前と全く変わっていないことを再度確認させてくれたのが元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)氏が、正義記憶連帯(以下“正義連”、韓国挺身隊問題対策協議会、以下“挺対協”の後継組織)に対する告発である。

 文在寅政権は、2015年に日韓で合意した、慰安婦問題の解決に対し、政権発足後、外交部に「被害者及び関連団体の反発」を理由にタスクフォースを設け、「合意が被害者中心主義から外れており欠陥が重大だ」という結論を下し、康京和(カン・ギョンファ)外相は、当該合意で慰安婦問題は解決されなかったと宣言した。これは明らかに挺対協(当時)及びこれに寄り添う文政権の意向を反映したものである。

 しかし、挺対協、正義連が元慰安婦の利益を本当に代弁してきた組織なのかが問われたのが、李氏による告発である。

 文政権は慰安婦合意を白紙化することで問題を再提起したが、その解決のためにこれまで日本と真摯に交渉したことはなく、不作為を決め込むだけであり、国内的に正義連に寄り添う格好をしているだけである。ただ、文政権が改めて交渉しようとしても、日本政府が応じないのは当然である。

 李容洙氏は、記者会見を開き、「自分たちは騙されるだけ騙されてきた、利用するだけ利用されてきた」、「義援金や基金などが集まれば被害者に使うべきなのに被害者に使ったことはない」と正義連の実体を暴露した。

韓国の新聞が暴いた「実体」
 李容洙さんの告発が出た後、保守系の新聞は、次々に正義連の実体を暴いていった。その一例を以下、紹介しよう。

 「正義連は、国税庁に極めて杜撰な会計報告を行い、その内容には数々の疑問があるが支出の詳細を明らかにしようとしていない」
「国庫補助金を受け取りながら、そのうちの多くの金額を申告せず隠している」
「受け取った寄付金のうち慰安婦に支給されたのはごく一部分に過ぎない」
「正義連前理事長の尹美香(ユン・ミヒャン)氏は、個人口座で寄付を受け取り、それを娘の米国留学資金に使った疑いがある」
「現代重工業から受けた寄付金で住居を購入し、慰安婦に提供することなく正義連の活動家がペンション代わりに使っており、尹元理事長の父親を管理人として住まわせ、管理費まで支払っていたが、李氏の告発後、買値より大幅に安い金額で売却した」……

 こうした疑惑は、正義連が慰安婦を支援する組織であるのか、自身の政治活動のために慰安婦を利用しているだけなのか疑問を提起している。

 しかし、尹氏はじめ正義連の反応は、「李容洙さんは高齢で記憶が歪曲された部分がある」(正義連)、「(この状況を見て)6か月間、家族や知人たちの息づかいまで暴きたてられたチョ国前法務部長官を思いだす」(尹氏)「世界のどの非政府組織が活動内容を一つ一つ公開して明らかにしているだろうか」(正義連)と開き直っているだけであり、疑問を払しょくする回答は一切ない。

 おそらく疑問を払拭することができないからであろう。

朝鮮日報が「私欲」と…
 2015年の日韓合意があった当時、尹氏は「当時被害者への相談が全くなかった。(合意は)解決だと見ることはできない。」と述べた。尹氏によれば「合意の前日、記者にばらまいた内容で一方的に知らされた」と述べたが、当時青瓦台国家安保室第一次長であった、趙太庸(チョ・テヨン)野党・未来統合党の国会議員当選者は「外交部の幹部が『事前に説明した』とはっきり聞いた」、と指摘し中央日報の取材でもこのことが確認されている。

 挺対協は、95年の「女性のためのアジア平和基金」を通じた問題解決に対しても妨害を繰り返した。元慰安婦のAさん他7名の元慰安婦は、この財団から日本が募金で集めたお金(見舞金200万に医療福祉費300万)を受け取ったことから裏切り者呼ばわりしたそうである。しかし、その後の調査で内密理に54名がお金を受け取った由である。挺対協が止めなければ多くの元慰安婦がお金を受け取り、より安らかな老後を送ることができたのではないだろうか。

 朝鮮日報は社説で、「ある瞬間から『問題解決』より『問題維持』と私欲を満たすことの方により力を入れるようになった」と指摘している。正義連にとって、慰安婦問題の解決は、レゾンデートルを失わせることになるのである。

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文政権は追い込まれると「親日非難」を繰り返す
 文在寅氏は、人権弁護士の出身である。しかし、その一貫性については疑問がある。日本の戦前の行為に対する人権侵害は指摘するが、極めて深刻な北朝鮮の人権侵害に対しては口を噤んでいる。

 そして慰安婦問題についても、元慰安婦に沿うよりも、元慰安婦団体を標榜する政治活動家を擁護し、強権で都合の悪いことをもみ消している。そして、もみ消しに使う常套手段が、正義連を攻撃しているのは2015年の慰安婦合意をまとめた政権の流れをくむ野党や保守系のメディアであるとして、親日活動家に避難の矛先を向けることである。

 韓国が日本と交渉する際には、国内の世論を刺激し、国民感情をバックに日本に圧力をかけてくるのが常である。

 日本は日韓関係の重要性に鑑み、過去には韓国の要求に対して相当程度譲歩したこともあった。しかし、元慰安婦問題は、そもそも日韓国交正常化交渉で解決済みなのを、これまで人道的見地から日本が歩み寄り、最後には2015年に最終的不可逆的解決で合意したものである。それを白紙化する文政権とは交渉の余地はない。

 それにもかかわらず、政権与党は相変わらず、正義連に寄り添い、正義連の不正を暴いている人々を「親日」呼ばわりして非難する。そして、不正を働いている政治活動家を擁護する。文在寅政権とはこのような政権である。これで日本といい関係が築けるはずがない。

 慰安婦の問題は韓国国内において、元慰安婦の心情を理解し、安らかな老後を送れるように配慮する以外、解決の道はない。その意味でも今回の李さんの告発を真摯に受け止め、正義連の不正を正し、元慰安婦の意向を組み入れた対応をすべきである。その際には、韓国政府は日本との交渉のやり取りを再度精査し、挺対協、正義連が歪曲してきた事実を改め、元慰安婦の一人一人に向き合って話し合いをする以外ない。

元徴用工問題の「行方」
 元徴用工の問題についても、文在寅政権は就任後100日目の記者会見において、元徴用工の「個人請求権の問題は未解決」であると発言し、これに寄り添って、大法院(韓国の最高裁)は日本の企業に対する賠償請求の判決を下し、日本企業の資産を差し押さえた。

 文政権は、これは司法の判断であり、大統領としてこれに従わざるを得ないとの立場を繰り返しているが、こうした判決が出るにあたっては大統領の意向が反映していると見ざるを得ないであろう。

 これまでの韓国政府は終始一貫解決済みとの立場を取ってきたが、文在寅氏は初めて、個人請求権を容認し、大法院長官や新任の裁判官に自身の考えに近い人を任命し、前長官を徴用工問題で不作為があったとして訴追させる。

 これでは大統領の意向に沿った判決が出ることは必然であろう。

 元徴用工の問題は、既に日韓国交正常化の際に解決した問題である。これを再度提起すれば、日韓関係は振出しに戻り極めて不安定なものになる。それにも拘わらず文政権は司法府の対応に丸投げし、責任を回避しているだけであり、いずれ日本企業の資産が売却されるまでこのまま進む可能性が高い。

「コロナ後」の韓国、文在寅がまたまた「日韓対立」を過熱させそうなワケ

国際的なルールに従うのが大原則
 文政権は、日本との関係であくまでも自身の原理原則に基づき、日本の対応を改めるよう求めるだけである。文政権は国内的に独裁的な手法ではやりたい放題やっている。

 しかし、国際社会の関係においては相手のあることであり、一旦合意したものを尊重しないと関係を維持できない。その基本的なかつ国際社会においての普遍的な原理原則を尊重すべきであることを改めて求めたい。

武藤 正敏(元駐韓国特命全権大使)

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