平壌で反日を叫んだ尹美香と北朝鮮、文在寅の蜜月コネクション、脱北者が語る

平壌で反日を叫んだ尹美香と北朝鮮、文在寅の蜜月コネクション、脱北者が語る

夫は「兄妹スパイ事件」の当事者
「親北朝鮮コネクション」が顕在化してきた

 1998年に北朝鮮を脱出した著者は、韓国に2002年から住むことになった。当時もっとも衝撃的だったのは、「韓国では、北朝鮮を追従する勢力(左翼的団体)が信じられないほど多いものだった」ということ。そして、“慰安婦おばあさん”から告発を受けた尹美香とその夫こそ、北にとってはどこまでも頼もしい存在だろうと分析する。逆もまた真なりで、尹夫婦もまた北という大援軍の存在を大いに意識しており、「尹夫婦」を「文在寅大統領」と置き換えても成立すると指摘するのだった。

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 大韓民国が今、騒がしくて仕方がない。

 慰安婦、李容洙(イ・ヨンス)さんに続いて、尹美香(ユン・ミヒャン)という名前が連日リアルタイム検索ランクのトップを争っている。

 改めて尹美香の経歴をたどると、韓国キリスト教長老会幹事とあり、イエスを信じる人であり、ヨシンドフェ全国連合会幹事(キリスト教女性信者会全国連合会)でもある。そしてその活動のハイライトは、1992年にトップに就いた「韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)」である。

 尹美香は不当に日本軍に連行されて、女性の尊厳と人権を悲惨に踏みにじられたと証言したおばあさんたちの心を代弁すると言い、過去およそ30年の間、その道を歩いた。

 長い年月、毎週水曜日、彼女は生存する慰安婦と一緒にソウルの日本大使館前で集会を開き、「人権、正義、謝罪、補償」と絶え間なく叫んだ。

 生存する慰安婦と尹美香とは、一心同体の30年を過ごしてきたと誰しもが思っていた。周りもいつのまにか尹美香のいない「挺対協」を想像することができなくなっていた。

 韓国での挺対協のプレゼンスは極めて大きく、地位は高く、彼らの道徳性に異議申し立てをする者はいなかった。慰安婦たちのために戦うという尹美香は、誰よりも道徳と良心の人である(ように見えた)。そしてそれらは、被害意識の強い韓国国民にとって、挺対協を盲信するのに十分な根拠になっていたはずだ。

 ところが、正義の味方だった彼女の名前が突如、一人の慰安婦おばあさんの告発で疑惑のデパートと化して大韓民国のニュースを飾っている。本人の個人口座で寄付金を募ったという事実から、見えにくくて大きく、そして深刻な疑惑が雪だるまのように膨らみつつある。

 純粋な心で寄付をしていた人はもちろん、大多数の国民は裏切られた気持ちだろう。しかし、すでに国会議員という身分を勝ち取った彼女が恐れるものはないように見える。

 脱北者と言う立場で、慰安婦問題にそれほど詳しくない私は、今回の事件をきっかけに尹美香とその夫・金三石(キン・サムソク)を調べ、慰安婦問題を紐解いてみた。(北朝鮮内で、慰安婦問題も徴用工問題も教育を受けるが韓国ほど長く時間をかけるものではない)。

 夫・金三石もその経歴の派手さでは妻に劣るところがない。

 1993年の「兄妹スパイ事件」の主人公である夫は、妹ともども在日朝鮮人スパイに篭絡されて工作資金を受け、軍事機密を北朝鮮に渡した罪で捕まり、刑務所で服役した。彼は今でも「兄妹スパイ事件」は何者かにより操作されたものと主張する。しかし、それをどう信じればよいのか。

 尹美香と金三石の夫婦は、数年前、集団脱北して韓国に定着した脱北者たちに、「脱北は罪になるので、北朝鮮に帰れ」と告げたという。そう! 話題の慰安婦おばあさんのために建てたという疑惑の「憩いの場」で起こった出来事である。自由を求め、命をかけて韓国に来た人たちに、罪人という烙印を押して送り返そうとすることは、真の社会活動家と言えるのか? 

 また、金三石には、国家転覆の意図を持ち、議員活動までしていた昔の統合進歩党議員:李石基(イ・ソッキ)のような人脈が連なっていることもわかる。李石基は、2013年に内乱陰謀などの容疑で逮捕された人物だ。

 自由民主主義の恩恵を受けて生きる人間が、その中でも特に慰安婦の人権を叫ぶ者が、実際にはどのような目的のために、南北どちら側に立とうとしているのか? 自明のことだった。

「番組内の慰安婦おばあさんの言葉を100%は信頼出来ない」

 韓国に挺対協が設立された時期は、1990年初頭。慰安婦の存在が北朝鮮メディアに登場したのは、それから2年後の1992年である。一見、慰安婦問題においては、北朝鮮が南の挺対協に先を越されたかのように思われる。

 1990年とは、私が北朝鮮で人民学校(小学校)に通っていた時だ。

 日本からの祖国光復(実際には、連合軍の勝利による無条件解放だが)を金日成の最大の成果とする必要(金日成=北朝鮮の神)から、北朝鮮においても、国民の意識に反日感情を必ず刷り込まなければならなかった。

 したがって学校でも、「朝鮮の歴史で最も厳しい暗黒の時期であった日帝時代、日本の蛮行を忘れずに子々孫々まで憎むこと!」と教えられる。逆に、朝鮮を解放させた金日成に対する人民の忠誠心は高まるというわけだ。

 1992年の夏のある日、夕食を早めに終えた私たち家族はTVを視聴していた。韓服(チョゴリ)を着たおばあさんが、自身の慰安婦生活を証言する番組が放映中だった。北朝鮮の慰安婦のおばあさんの番組である(最近、私は同じ映像を動画共有サイトで再び見ることができたが)。実は、私たちがそれまで学んできた日本の蛮行の中に「慰安婦」の話は一度も出てこなかった。番組ではその後も「従軍慰安婦」が相次いで出演し、日本軍に対する告発は続いた。

 私はまだ幼く、北朝鮮の住民が従軍慰安婦についてどのような感情を持っていたのかを説明することはできない。ただ、少なくとも私の両親はこう言っていた。「番組内の慰安婦おばあさんの言葉を100%は信頼出来ない」と。

 北朝鮮はすべてが統治管理された社会であり、TVに出演して全人民に自分の過去を明らかにするということは何を意味するのか……。両親はそれを簡単に想像出来たし、多くの北朝鮮の国民もまた、政治的意図のない番組などないと知っていたのだ。北朝鮮でも以降、何度か慰安婦問題に関する番組を見る機会はあったが、国民に、この問題はそれほど大きな反響を呼び起こすことはなかった。

 一方、韓国では慰安婦問題で社会全体が揺れていた。1992年から慰安婦問題の真相について、本格的な調査が行われる。慰安婦問題が本格的に争点化されると、1993年に日本の当時の内閣官房長官だった河野洋平は、日本軍慰安婦問題を公式に認めて謝罪する。また、1995年には、彼の主導の下に「アジア女性基金」も設立された。

 生存している被害女性たちに、補償金を介してその傷を癒して尊厳を回復する目的で設立されたこの財団は、表向きには、日本国民の寄付で作られた民間団体のように見えるが、事実上、政府主導で設立されたものである。にもかかわらず、慰安婦の募集は日本政府が主導した犯罪なのだから、日本政府が責任を負わなければならないという主張を挺対協は展開し、補償金の受け取りを拒否している。

 慰安婦問題で北朝鮮を訪問した尹美香は、この問題において北朝鮮との連帯を強調し、北朝鮮当局も、アジア女性基金からの補償を拒否した。インタビューに応じた北朝鮮慰安婦は「日本政府は日本国民を相手にどうして寄付を集めようとするのか」と鬱憤を吐いている。この時こそが尹美香の挺対協と北朝鮮とが、がっちりスクラムを組んだ瞬間だった。北朝鮮の立場では、慰安婦問題で反日活動をする尹美香のような韓国の女性同志が出来たことが非常にうれしかったのである。北にまで来て反日を叫ぶ南の彼女の“価値”を北当局が知らないはずがない。

独断で北に追従する現政府
 その後、過去30年近くに亘って、北朝鮮は慰安婦問題において、挺対協と非常に緊密な関係を続けていたことは間違いない。今回、韓国で尹美香問題が勃発した後に、北朝鮮は対外宣伝媒体である「わが民族同士」を使用して、積極的に尹美香を擁護している。

 彼女への疑惑提起を“進歩勢力に対する保守勢力の攻勢”と指弾し、このような行為は、「保守一味の親日、反人権、反平和勢力の蠢動」と攻撃を浴びせた。

「わが民族同士」では放送でこう檄を飛ばしている。「共に南朝鮮(韓国)人民は、日本軍性奴隷被害者問題の解決のために活動してきた反日団体である『正義記憶連帯』の不正腐敗疑惑について、執拗に食い下がっている保守一味と最後まで『親日清算闘争』を続けろ!」。挺対協と北朝鮮のコネクションを疑わざるを得ない内容だ。

 98年に北朝鮮を脱出した私が、韓国に2002年から住んで1番衝撃的だったのは、「韓国では、北朝鮮を追従する勢力(左翼的団体)が信じられないほど多いものだった」ということ。左翼的団体か否かは北朝鮮と同じ内容のことを話すので、見分けがつきやすい。

 私たちがしばしば左派政府と認める金大中、廬武鉉時代には、それでも国民の顔色を見ながら北朝鮮と付き合ったものだ。が、今の韓国政府は国民を無視し、まずは独断で北朝鮮に追従する傾向にある。北朝鮮が韓国の「進歩勢力」と奉る人たちは、北朝鮮の武力挑発や暴言に声をあげられないばかりか、むしろ北朝鮮に有益なことに注力することになる。

 先日も、北朝鮮の金与正(キン・ヨジョン)が、対北ビラを散布する脱北者を処罰するよう韓国政府へ命令然とした声明を出した。すぐさま韓国政府は呼応して、脱北人権活動家たちの活動を規制する法律を作り、脱北民団体を告発していくという人権差別を行っている。

 北朝鮮にとって、尹美香夫婦はどこまでも頼もしい味方である。韓国内で慰安婦を盾として反日感情という大きな流れを作ってくれたのだから。その非常に重要な「味方」が不名誉な疑惑で窮地に追い込まれたから、北が擁護すべく動いたのは当然のことだろう。尹美香も自身には北朝鮮という大きな援軍がついているという自信を深めているに違いない。

 今、韓国の政権を握っている自称「民主化勢力」こそ一皮むけば、「でたらめ集団」に相違ない。日韓両国の未来を阻害する反日こそ売国。そして親日こそ愛国という事実を国民にも理解してほしい。必要な態度は、「反日」ではない「反北朝鮮」なのだ。

金自由(キム・チャユ)
カナダ在住の脱北韓国人。1998年に北朝鮮を脱出し、4年間に及ぶ中国での生活を経て、2002年に韓国に入国。2004年東国大学校入学、2004年芸能界デビュー。2011年に結婚し、2013年に家族と一緒にカナダへ移住した。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月23日 掲載

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