日本はなんのために戦ったのか

◆日本はなんのために戦ったのか

・汎アジア主義

欧米列強の植民地となって苦しんでいる東亜から欧米列強を追い出し、アジアの民族がそれぞれの国を自ら統治できるように協力し合うことを目指す汎アジア主義は、明治・大正・昭和に渡って堅持されてきた日本の目指す理念です。
汎アジア主義の発祥の地は日本ですが、その構想は孫文をはじめアジア各地の多くの独立革命家を魅了し、民族自決の願いとなってアジア全土を覆っていました。
抽象的な理念に過ぎなかった汎アジア主義が「大東亜共栄圏」として、後に具体的にその姿を現しました。

・大東亜共栄圏の始まり

大東亜共栄圏の理念の礎を築いたのは、陸軍の武藤章でした。
「帝国の国策が日満支を枢軸とする大東亜生存圏の結成に指向せられ、挙国一体不動の決意を以て、是が遂行に邁進しつつある所以のものは……外国の圧迫の為めに奴隷的境遇に呻吟しつつあった東亜民族全体を解放し、之を日本を盟主とする一大家族的関係に導いて、有無相通じ緩急相救い、共存共栄以て大東亜の自力更生の実を挙げんとするに外ならない」
(武藤「時局の展望と国防国家確立の急務に就て」『昭和陸軍全史』より)
このように武藤は、欧米列強の植民地支配によって奴隷的境遇に苦しんでいる東亜の民族全体を解放し、日本を盟主として家族のように助け合い、大東亜の自力更正を実現しようと呼びかけています。

初めて公式に「大東亜共栄圏」という言葉を用いたのは松岡洋右外相です。1940年8月1日、政府の外交方針について松岡外相は次のように述べました。
「我国現前の外交方針としてはこの皇道の大精神に則り、先ず日満支をその一環とする大東亜共栄圏の確立を図るにあらねばなりませぬ。(中略)更に進んで我に同調する友邦と提携、不退転の勇猛心を以て、天より課せられたる我が民族の理想と使命の達成を期すべきものと堅く信じて疑わぬものであります」
当時アジアで独立を保っていたのは日本・タイ・中国の3カ国のみです。そのなかで欧米に対抗できるだけの軍事力を持っている国は日本だけで、実際に「大東亜共栄圏」という理想を実現できそうな国も日本しかありませんでした。

・大東亜共栄圏の理念とは

「大東亜共栄圏」とは、大東亜を欧米列強の植民地から解放した後、東亜諸民族があたかも家族のように協力し合うことで、欧米に頼ることなく自給自足経済を実現しようとする構想です。いわば大東亜全体の独立自尊を目指した雄大な構想と言えるでしょう。大東亜共栄圏の範囲は、東アジアや東南アジアのみならず、東部シベリアやオーストラリア、インドを含むものと定義されています。
日本が目指したものはナチスドイツがゲルマン民族だけの生存を目指していたこととは異なり、アジアに暮らす諸民族すべてにとっての生存圏でした。

・ブロック経済とは

ブロック経済とは、植民地をもつ国々が本国と植民地の間の経済的な結びつきを強くするために、その他の国に対して関税を高くするなどの輸入障壁を設けることを指します。
1929年にアメリカで発生した世界恐慌は各国の経済に打撃を与えました。
こうした状況の中、豊富な植民地を持つイギリスとフランスは自国の植民地を一つのブロックとし、本国製品には低い関税、日本などの関係のない国の製品には高い関税を課すことで、本国の製品が植民地内で売れやすくするようにしました。

広大な植民地を持つイギリスやフランスに比べると日本の経済圏は日本本土と朝鮮半島、台湾、満州国と限られた範囲でした。また日本製品は相対的に安価だったため、ブロック経済はイギリス、フランスの本土ならびに植民地から日本製品を締め出す効果がありました。
一方、日本やドイツ、イタリアは外に目を向けるしかなかったのです。世界的に保護貿易に変化していく中で自国製品を排他的に売れる地域を増やすためには、自国の勢力圏を広げるしかありません。
日本は中国大陸に進出していきアメリカやイギリスと対立し、ドイツは東ヨーロッパへ進出する中でイギリスやフランスと対立し、イタリアもアフリカへ進出していく中でイギリスやフランスと対立します。

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