新型コロナで「四重苦」に追いつめられた韓国・文在寅政権の末路

新型コロナで「四重苦」に追いつめられた韓国・文在寅政権の末路

文政権は追いつめられている
 韓国の文在寅政権が、新型コロナウイルスによって「四重苦」に陥っている。

 新型コロナへの感染者数は減少しているが、それは大邱・慶尚北道を中心とする「新天地イエス教会」関係者へのPCR検査が終了したためであり、それ以外の感染が終息したわけではない。

 韓国経済は、外為・金融・実体経済が連動して危機的状況を迎える、複合危機の状況に近づいている。

 北朝鮮は、「新型コロナウィルス感染者はいない」と主張しているが、状況証拠からは感染が広がっていると思われる。文在寅氏は北朝鮮に保健分野の協力を呼び掛けているが、韓国の状況からして、困難であろう。

 こうした中、4月15日に国会議員の総選挙が行われる。世論調査を見れば、新型コロナへの対応を評価する声もあるが、感染者が首都圏に波及している状況、複合経済危機、失業の増大を見れば状況は今後一層厳しくなることが予想される。

 新型コロナ感染者は、2月29日の909人を頂点とし、着実に減少傾向を示している。3月15日に初めて、100割れとなってからは100人前後を上下しているが、これは新天地イエス教会の信徒を対象としたPCR検査が終了し、信徒をつながりとした大規模感染の火種がある程度収まったからであり、感染が終息しつつあるわけではない。

 その間地域社会のところどころに広がった感染源が二次、三次感染を引き起こしている。ここ一週間の非新天地感染者は773人、一日平均で97人増加している。一日500人以上だった新天地関連感染者は15日から10人を下回った。22日全体感染者98人中、新天地は14人、非新天地は84人だった。

新型コロナで「四重苦」に追いつめられた韓国・文在寅政権の末路

韓国経済は危機的状況

 新天地に焦点が当たっていたため、これまでは他の集団感染が見逃されてきた。

 ソウル市九老区のコールセンターでは今月9日から3日間で感染者が100人以上発生し、その後も増え続けている。世宗市の政府庁舎でも12日、21人の感染が発生し、そのうち13人が海洋水産部であった。感染者が出た部門は閉鎖され、職員150人が隔離されて事実上業務停止状態になった。

 ここ数日急激に増えているのが海外からの帰国者の感染である。

 3月23日、新規感染者64人のうち、海外流入関連が22%(14人)である。現在韓国政府は、新型コロナ診断検査費用、治療費無料支援、生活費支援を行っているが、国内で反発が広がっている。

 韓国の感染者、死者数は、日本と同様、欧米と比べれば、比較的抑えられてきた。しかし、集団感染が今後広がる可能性は否定できず、海外からの感染者の流入もある。当面終息宣言ができないであろう。

 現在の韓国経済の状況は、文政権の経済政策の失敗に新型コロナ危機が増幅し、IMF危機当時より深刻な状況である。

 韓国銀行は、3月19日米国FRBと600億ドル規模の韓米スワップを締結した。これで韓国の準備高は4600憶ドルとなったが、これでも外国人投資家は韓国市場に背を向けている。

 3月20日こそ39.20ウォンのドル安となる1246.50ウォンまで戻したが、3月23日には再び1266.50ウォンまで値下がりした。株式市場も乱高下が続いている。3月24日には米国の政策期待で反発しているが、非常に不安定な状況であり、いつ資本逃避が起きるか懸念が高まっている。

持ちこらえられない韓国零細企業たち
 韓国から資金流出が起こるのは、短期対外債務(1年以内に満期が来る債務)比率が34%と2015年以来最も高い水準にあるためである。

 加えて貿易黒字が減少し、経常収支が悪化している。産業通商資源部によると先月の1日平均輸出額は18憶3000万ドルで前年比11.7%減少した。

 新型コロナウィルスによる影響で、韓国の産業界は、サムスン電子や現代自動車など主要企業の売り上げの半分以上が米国と欧州であるだけに、大きな打撃を受けている。

 1-3月期の営業利益予想は、SKがー40%、ロッテー37%、ポスコー26%、LG-25%である。輸出が落ち込むだけではなく、世界のほとんどの国が韓国からの入国を規制しており、韓国企業の海外事業に大きな支障をきたしている。

 大企業以上に売り上げの激減に直面し、最も大きな影響を受けるのは零細事業者である。不景気と最低賃金の引き上げで立ち行かなくなった零細事業者がコロナの打撃を受け、これ以上持ちこたえられなくなっている。

 韓国中小企業中央会によると、今年2月―3月13日に廃業または死亡した零細事業者がそれまでに拠出した共済金を年金形式で受ける「黄色い傘」の支給件数が昨年同期比41%急増した。

新型コロナで「四重苦」に追いつめられた韓国・文在寅政権の末路

韓国「格付け低下」リスクが急浮上

 コロナの衝撃が本格化すると、政府は文在寅大統領を中心とする非常対応体制を発足させ、危機対応措置を次々と出している。

 自営業者や中小企業向けに50兆ウォン(4兆4300億円)の金融支援が発表され、株式市場・再建安定基金などの対策も進められていた。

 さらに3月24日の非常経済会議ではこれを倍増し100兆ウォンの企業救護緊急資金を投じることになった。中小企業はもちろん危機を訴える大企業が出てきたので支援規模を大幅に拡大したものと思われる。ただ、中小企業を対象とした低利の融資は申請件数があまりにも多く、審査に2-3ヵ月かかるという。

 ただ、今提示されているのは足元の火を消す応急措置であり、コロナ以前から韓国経済は基礎疾患に喘いでいた。昨年の韓国の名目経済成長率はOECD加盟36か国中34位である。製造業生産能力は48年ぶりに最大の下落幅となり、ここ3年で118万ものフルタイム雇用が消失した。輸出は15か月連続で減少し、企業投資は海外に流れた。

 未曽有の経済危機の前で政府は果敢な財政出動と金融支援を行いつつ、基礎疾患を改善する道を選ばなければならない。

 しかし、ここ数年の文政権の放漫財政の弊害で、韓国財政の健全性に疑問が提起されている。2009年3月のIMF危機の時、韓国政府は28兆4000億ウォンの補正予算を編成した。今回は11兆7000億ウォンである。政府は追加措置を考えているようであるが、それは財政の健全性を一層悪化させかねない。

 急激に低下した財政健全性が経常収支など対外健全性と重なる場合、「格付けの低下」を招く恐れがあり、そうなれば政府企業の外貨調達コストの増加―>対外健全性のさらなる悪化―>ウォン安―>外国資本の流出拡大の悪循環につながる。

いまの文政権では北朝鮮を救うことはできない
 それ以上に深刻なのは、文在寅政権の経済失政を認め、最低賃金引き上げを中心とした所得主導政策の弊害を改めようとしないことである。

 韓国の実体経済は、極めて深刻な状況であり、それに外為・金融危機が重なり、財政の余裕もなく、文政権の経済を無視した政策の弊害が重なって複合不況の様相を呈している。

 北朝鮮の金正恩政権は、北朝鮮には新型コロナウィルスに感染した人はいないという。しかし、在韓米軍のエイブラムス司令官は、「北朝鮮の軍隊が基本的に30日間封鎖されていて、最近ようやく通常の訓練を再開した」「一例として、彼らは24日間に亘り飛行機を飛ばしていなかったが、訓練用の出撃飛行を再開した」と述べ、コロナ感染者がいるという見方を示した。韓国軍も新型コロナの勢いは尋常でないと分析しているという。

 金正恩委員長はこの間、首都ピョンヤンを離れ、元山(ウォンサン)に滞在しているという。

 北朝鮮は1月22日に中国との人の出入りを遮断した。しかし、昨年末には多くの労働者が帰国しており、ウィルス感染を広めたと思われる。中国との人的往来の遮断はこのためであろう。

 加えて、中朝国境沿いでは密貿易が行われていた。3月1日、平安南北道と江原道で7000人近い住民を「医学監視対象者」に分類し、自宅隔離したと北朝鮮の新聞が報じた。

 これは新型コロナの蔓延が収拾のつかない段階に来たことを示唆するものであろう。2月中旬からは中国や海外の貿易会社に、コロナ診断道具やマスクを購入するよう指示を出していたようである。

 こうした中、文在寅政権は、3.1独立運動記念日の演説で「北朝鮮と保健分野の共同協力」を望むと述べた。これを受けてか知らないが、金正恩委員長は3月4日、「南側の同胞の大切な健康が守られるよう祈る」「文大統領が新型肺炎を克服できるよう静かに応援するし、文大統領に対する変わらぬ友情と信頼を送った」とする親書を送った。

韓国国民の反発

 青瓦台によれば、金委員長の親書には防疫への協力要請はなかった由である。これに対し、文在寅大統領も感謝の意を込めた親書を返したそうである。

 ただ、その内容について「詳しく明らかにするのは外交上正しくない」として詳細を語らなかった。

 金委員長は、文大統領が米朝の仲介役を果たすことや、文大統領の南北協力の提案をことごとく拒否してきた。親書の前後には飛翔体を発射して、韓国を威嚇している。これは韓国に対し弱みを見せないとの意思の表れと思われ、文在寅大統領の演説を受けた親書の趣旨は、保健分野の協力を求めるものだったのではないかと考えても不思議はないであろう。

 米国のトランプ大統領も金正恩氏に防疫協力を提案している。しかし、トランプ氏は11月に行われる大統領選挙以外関心がない。そこへ来て、新型コロナ蔓延により米国の社会と経済に変調をきたしている。

 国内における新型コロナ感染者の急増に手一杯であり、北朝鮮を助ける余裕はないであろう。従って、トランプ大統領の支援提案は北朝鮮が非核化で大幅譲歩をしてくることが前提ではないか。

 これに対し、文在寅氏は非核化という条件を付けておらず、何としても北朝鮮との歩み寄りの機会としたいのであろう。反面、米国は非核化なしに韓国が北朝鮮に歩み寄ることは米国の努力を妨害すると移るのではないか。

 文政権にとって米国との関係のみならず、韓国国内の反応が問題である。韓国では感染が終息しておらず、経済が極度に疲弊しているときに、政権が北朝鮮を支援することに国民は反発するのではないか。総選挙が4月15日に近づく中で、国民の意思を無視して、北朝鮮を助けることはできないであろう。

新型コロナで「四重苦」に追いつめられた韓国・文在寅政権の末路

文在寅は「総選挙」で勝てるのか
 ただ、北朝鮮は中国との国境封鎖、貿易の遮断で国内経済は最悪の状況にあるようである。

 北朝鮮の住民は「コロナより、飢餓を恐れている」という話も聞く。その時、金正恩政権がどうなるのか。崩壊の危機に直面するような状況となれば、それが韓国に混乱をもたらすのを防ぐ意味で支援すべきという声となるかもしれない。

 文在寅政権は総選挙に勝てるのか。リアルメーターの調査によれば、新型コロナに対する文政権の対応を評価する人58%、評価しない人40%であった。韓国の世論調査にはバイアスがかかっているのでこのまま信頼できないが、このデータを見る限り選挙に勝利する可能性はある。

 反面、韓国国民にとって身近な問題として、経済と雇用の問題がある。

 経済状況は時がたてば経つほど一層悪化するだろう。その評価については、世論調査も明らかにしていない。いずれにせよ、4月の選挙が予定通りできるかどうかは、これに勝てるかどうかによって判断されるであろう。

武藤 正敏(元駐韓国特命全権大使)

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