ロッテ創業者の死に思う故国・韓国の理不尽

ロッテ創業者の死に思う故国・韓国の理不尽

 ジャーナリスト・崔 碩栄
 1月19日、ロッテグループ創業者、辛格浩(日本名・重光武雄)氏が他界した。

 日本統治下の朝鮮に生まれた彼は、1942年に渡日。戦後、ガムを製造、販売する会社を設立し、日本を代表する製菓会社の一つとなるまでに育て上げた。

【写真】重光武雄(辛格浩)氏=2017年12月

 そして、彼は故国である韓国にも積極的に投資を行い、設立した韓国ロッテは、韓国屈指の財閥グループと認められるまでに成長した。

 彼は、日韓両国で成功した企業家であると同時に、故国・韓国の発展のために尽力し、功績を残した人物でもあった。

 ◇最も成功した在日韓国人
 ロッテが日本で大手企業に成長した60年代、韓国はまだ貧しい国だった。50年に勃発した朝鮮戦争で産業は荒廃化し、一日一日を生き延びていくのがやっとという状態だったのだ。

 この時、韓国のために惜しむことなく協力の手を差し伸べたのが彼だった。

 当時、在日韓国人たちは、資金難で国際試合にも出場できない韓国代表チームのため、韓国で起きた自然災害のため、88年ソウル五輪のような国際行事のため、と韓国で何かあれば、力を合わせ、積極的に金銭的支援を行った。

 そして、その中心にはいつも辛氏がいた。彼が当時、日本で最も成功した在日韓国人だったからだ。

 同時に、彼は韓国ロッテを設立し、そこに巨額の資金を投資することで、韓国に多くの雇用を創出するとともに、日本の最新経営手法、サービスを紹介する役割を果たした人物でもある。

 もちろん、それが全て、祖国愛だとか、奉仕の精神の産物だったとは思わない。起業家として利益を上げるための計算もあったに違いない。

 だが、だからといって、彼が行ってきた寄付や投資が韓国経済に決して少なくないプラスの影響を与えたことは否定できない事実だ。

ロッテ創業者の死に思う故国・韓国の理不尽
韓国ソウルの日本大使館近くで日本製品不買運動デモを繰り広げた参加者が手にしていたパネル。日本企業の名前の中に「LOTTE(ロッテ)」の文字も見える=2019年7月5日【EPA時事】
 ◇6回の勲章授与
 彼の功績に対し、韓国政府は60年代から90年代まで6回も勲章を授与し、感謝の意を示し、マスコミは彼の投資を「母国への郷愁心が韓国経済のため寄与したいという信念として表われたもの」(毎日経済75年3月6日)と称賛した。

 その間に、韓国は驚異的な経済成長を遂げ、サムスン電子、現代自動車のような会社はグローバル企業に成長した。

 だが、それは、韓国のロッテへの依存度が下がり、その功績についての記憶が徐々に薄れていくことをも意味していた。

 私が最近「ロッテ」という企業名を韓国のテレビで目にしたのは、予想外とも言えるようなシーンにおいてだった。

 昨年、韓国で起きた激しい「日本製品不買運動」を紹介するニュースで、その企業名が映し出されたのだ。

 韓国の市民団体が有名日本企業のロゴを掲げ、街中で不買キャンペーンを展開したのだが、そこにロッテが含まれていた。

 韓国がまだ貧しかった頃に、勲章まで与えて愛国心を持つ同胞の会社として称賛されたロッテが、今では、日韓関係の悪化と扇動的な報道によって、不買すべき「日本企業」のリストに載せられ、排斥の対象とされてしまったのである。

 ◇差別的な報道
 実は、ロッテの韓国における受難はこれだけではなかった。

 2018年、辛氏の次男の現オーナーが、あるスポーツ財団に寄付した金が朴槿恵前大統領への賄賂と見なされ、文在寅政権下で拘置所に送られたのだ。

 それにマスコミは、次男のたどたどしい韓国語や日本語なまりをやゆするような差別的報道も辞さなかった。

 17年、晩年の辛氏が公の席に姿を現したとき、意味の通らない言葉を発するなど、認知症の症状があることが見て取れた。

 95歳を超える高齢であるから、それも無理のないことだが、それがかえってよかったかもしれないという不謹慎な考えが浮かんだ。

 もし、彼が健常で、韓国内で起きたロッテ排斥運動や在日同胞の発音を小ばかにする韓国マスコミの姿を目撃すれば、彼が数十年間にわたり故国のために尽くした努力に対する仕打ちに、深い悲しみと失望を覚えずにはいられなかったと思うからだ。

 玄界灘を越え、日韓両国にまたがる巨大企業を築き上げた辛格浩、享年98歳。一人の韓国人として彼に感謝の意を表するとともに、ご冥福を祈りたい。

 (時事通信社「金融財政ビジネス」より)

 崔 碩栄(チェ・ソギョン)
 1972年生まれ、韓国ソウル出身。高校時代から日本語を勉強し、大学で日本学を専攻。1999年来日し、国立大学の大学院で教育学修士号を取得。大学院修了後は劇団四季、ガンホー・オンライン・エンターテイメントなど日本の企業に勤務。その後、フリーライターとして執筆活動を続ける。著書に「韓国人が書いた 韓国が『反日国家』である本当の理由」「韓国人が書いた 韓国で行われている『反日教育』の実態」(ともに彩図社)、「『反日モンスター』はこうして作られた」(講談社+α新書)、「韓国『反日フェイク』の病理学」(小学館新書)など。

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