「脱中国」は台湾に学べ! 日本は中国から離脱する絶好のチャンスだが…政財界に行われる中国の“工作”
6/5(金) 16:56配信
新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)や、香港の「高度な自治」を無視した「国家安全法」の導入決定などをめぐり、中国への批判が高まっている。ドナルド・トランプ米大統領は、6月末に米国での開催予定だった先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)を9月以降に延期し、ロシアとインド、オーストラリア、韓国を招いて「中国包囲網」を構築する姿勢を明確にした。緊迫する国際情勢。元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は、集中連載「新型コロナと米中新冷戦」で、日本も学ぶべき、台湾の「脱中国」決断に迫った。
新型コロナウイルスは、「米中の覇権争い」を「米中冷戦」にまで激化させてしまった。米中が激しく対立する中で、台湾が注目の的になっている。中国にとって「台湾統一」は死活的に重要な国益であり、その実現を目指している。一方、米国にとっても、民主主義国家・台湾は中国に対抗するために不可欠な存在だ。
台湾の蔡英文総統は、世界が注目するリーダーになった。今年1月の総統選挙に勝利し、武漢ウイルスとの戦いにおいても、科学的で国民への情報公開に徹した「台湾モデル」により勝利した。「台湾モデル」は、中国共産党が採用した徹底的な都市封鎖や監視による強権的な「中国モデル」とは一線を画し、世界から絶賛されている。
もう一つ、重要な動きがある。
台湾半導体大手の「台湾積体電路製造(TSMC)」が、米国に半導体工場を建設するという決定に続き、中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」からの半導体受託生産を断る決断を下したのだ。
これら一連の決断の背景には、トランプ政権が重視する「米中ハイテク覇権争い」がある。
米国は、中国に最先端技術を窃取されないようさまざまな手段を講じている。最先端の機微技術(=武器や大量破壊兵器などに転用できる技術)について輸出規制を強化しているが、5月15日、外国企業をも巻き込んだ規制強化を発表した。
TSMCは、その規制強化に応じて、ファーウェイとの新規契約を停止した。TSMCは、この決定によって明確に「脱中国」を実現したのだ。
ファーウェイは、スマートフォンで世界第2位、第5世代通信「5G」で世界第1位の存在だが、TSMCが製造する半導体が入手できないと、大変な苦境に陥ることになる。トランプ政権の「ファーウェイ潰し」は本気なのだ。
習近平国家主席率いる中国政府は「ファーウェイを守る」と宣言しており、今後、対中依存度の高い米国企業であるアップルやボーイングを報復の対象とする可能性がある。つまり、米中新冷戦は台湾を巻き込んで激化するだろう。
蔡氏は総統再就任演説(5月20日)で、「半導体と通信産業の優勢を利用して、世界サプライチェーンの核心的地位を築く」「誰が中国依存から脱却できるか、誰が国家の製造発展のチャンスを先につかむか。政府は産業界を孤立させない」と宣言した。米国が主導する「中国を除外したサプライチェーンの再構築」に、台湾も参画することを宣言した。
つまり、台湾は「自由・民主」「基本的人権」「法の支配」といった価値観を共有する米国陣営に踏みとどまり、経済や観光における中国依存からの脱却を選択したのである。
問われるのは、日本の選択だ。
日本は「米国につくか、中国につくか」の決断を迫られている。どちらつかずの態度は許されない。日本の政財界のリーダーたちは、台湾の中国からの離脱の潔さと勇気を見習うべきだ。
■日本は中国から離脱する絶好機
安倍晋三首相は5月25日の記者会見で、米ウォールストリート・ジャーナルの記者に、「米国と中国がウイルスなどをめぐり激しく対立している。日本はどっち側につくのか?」と聞かれた。
安倍首相は「米国は日本にとって唯一の同盟国である。基本的価値も共有している。日本は米国と協力しながら、さまざまな国際的な課題に取り組みたい」と明言した。
こうしたなか、中国の日本への影響工作は、中国共産党中央統一戦線工作部を中心に組織的に行われている。政界や財界、メディア、学会(アカデミア)など、あらゆる分野に浸透している。
菅義偉官房長官は5月28日の記者会見で、習主席の「国賓」来日について、「関連の状況全体を見ながら、日中間で意思疎通を続けていきたい」と述べた。
■世界各国で批判
中国は、世界全体で35万人以上が犠牲となった武漢ウイルスの初動対応や、戦闘的なイメージの「戦狼外交」、中国への感謝を強いる「マスク外交」で世界各国で批判されている。全人代で先週、香港への「国家安全法」の直接導入を決定し、香港の「高度な自治」や「自由」を抑圧しようとしている。
世界で最も批判されている中国の指導者を「国賓」として招待することなど、日本国民にも、世界にも理解されない。これを許してはいけない。
今後、米中の対立は一層激化するだろう。今こそ、日本が中国からの離脱を果たす絶好のチャンスだ。「脱中国」を台湾に学ぶべきだ。
■渡部悦和(わたなべ・よしかず) 元陸上自衛隊東部方面総監、元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー。1955年、愛媛県生まれ。78年東京大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、第28普通科連隊長(函館)、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。13年退職。著書・共著に『中国人民解放軍の全貌』(扶桑社新書)、『台湾有事と日本の安全保障』(ワニブックスPLUS新書)など。
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