アメリカ脳からの脱却を! 戦後日本のGHQとCIAによる洗脳

アメリカ脳からの脱却を! 戦後日本のGHQとCIAによる洗脳

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

◆GHQが行った「日本人の精神構造解体」

 1945年8月15日に日本が無条件降伏をすると、8月30日にはダグラス・マッカーサー連合軍最高司令官が、パイプをくわえながら厚木の飛行場のタラップに降り立った。その日から日本はGHQ(General Headquarters, the Supreme Commander for the Allied Powers=連合国軍最高司令官総司令部)の支配下に置かれた。GHQは第二次世界大戦終結に伴うポツダム宣言を執行するために日本で占領政策を実施した連合国軍だが、実際はアメリカを中心とした日本国占領機関だった。

 1952年4月28日に日本の終戦条約であるサンフランシスコ平和条約が発効するまで、GHQによる日本占領政策は続いた。また降伏文書に基づき、天皇および日本国政府の統治権はGHQの最高司令官の支配下に置かれた。

 ここまでは教科書にも出てくる話なので、誰でも知っているだろう。

 しかし、このときにGHQが日本の武装解除と同時に「精神構造解体」まで行っていたことを認識している人は、今では少なくなっているかもしれない。

 拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』でしつこく追いかけたように、終戦の少し前までアメリカの大統領だったフランクリン・ルーズベルト(大統領任期期間:1933年3月4日~1945年4月12日)は、母方の一族が清王朝時代のアヘン戦争のころからアヘンを含む貿易で財を為していたので、非常に親中的で、容共的でもあった。

 特に「日本軍は異様に強い」と恐れるあまり、何としても当時のソ連に参戦してほしいと、再三再四にわたりスターリンに呼び掛け参戦を懇願した。そのためにソ連は日ソ不可侵条約を破って、アメリカが日本に原爆を投下したのを見て慌てて参戦し、私がいた長春市(当時はまだ「満州国・新京特別市」)に攻め込んできた。このときに北方四島を占領したという、忌まわしい歴史を残している。

 そのため1946年11月3日に公布され、1947年5月3日に施行された日本国憲法では、日本が二度と再び再軍備できないように、そして戦争できないように強く制限している。

 1971年7月、「忍者外交」で知られるニクソン政権時代のキッシンジャー大統領補佐官(のちに国務長官)は、北京で当時の周恩来総理と会談した際、周恩来が懸念した在日米軍に関して、「あれは日本が再軍備して再び暴走しないようにするために駐留させているようなものです」と回答している。アメリカは本当に、日本をこのように位置づけていたものと思う。

 だからGHQは日本国憲法第九条で日本が再軍備できないように縛りをかけた。

 ところが1950年6月に朝鮮戦争が始まったため、GHQは日本に「警察予備隊」の設置を許し、それがのちの自衛隊になっている。それでも憲法九条があるため、日本の防衛はひたすらアメリカに依存するという形を取り続けている。

 その結果日本はアメリカに頭が上がらず、精神的に奴隷化する傾向にあるが、GHPが行ってきた、もう一つの「日本人の精神構造解体」の方も見落としてはならない。

 1945年から52年までの約7年の間に、日本の戦前までの精神文化は徹底的にGHQによって解体されていった。それもやはり、日本軍が戦前強かった(とアメリカが恐れた)ために、「天皇陛下のためなら何が何でも戦う」という特攻隊的精神を打ち砕くことが目的の一つだったので、「民主、人権、自由、平等・・・」などのいわゆる「普遍的価値観」を埋め込み、それを娯楽の中に潜ませていったのである。

 そのためにハリウッドが配給した映画は数百本を超え、ハリウッド映画に憧れを抱かせるように、あらゆるテクニックを凝らしていった。

 この背後で動いていたのはCIAだ。

◆CIAによる洗脳

 日本敗戦後まもない1947年までは、第二次世界大戦中の特務機関であった戦略諜報局OSS(Office of Strategic Services )がアメリカ統合参謀本部でスパイ活動や敵国への心理戦などを実施していたが、1947年9月18日に機能を拡大して中央情報局(Central Intelligence Agency=CIA)と改名した。

 サンフランシスコ平和条約締結に伴ってGHQが解散され、アメリカの占領軍が引き揚げると、アメリカはすかさずCIAを中心として日本テレビを動かし、新たな「日本人の精神構造解体を実行する装置」を構築した。その詳細は『日本テレビとCIA 発掘された「正力ファイル」』(有馬哲夫、新潮社、2006年)などに書いてある。

 CIAのその操作は大成功を収め、日本は世界で唯一の「大洗脳に成功した国」と言っても過言ではないほど、完全に「アメリカ脳化」することに成功したのだ。

 日本のその成功例を過信し、アメリカはイラクに大量の破壊兵器があるという偽情報に基づいて「イラクの自由作戦」などと名前だけ民主的な名目を付け、激しい武力攻撃に入った。実態は侵略戦争以外の何ものでもない。大量の破壊兵器は見つからず、それは偽情報だったということがわかっても、イラク国内での戦闘は止まず、凄絶な混乱と治安悪化を生み出しただけだった。

 アメリカの腹には、日本に原爆を二つも落として惨敗させても、日本はアメリカによる占領軍の指示を従順に聞きアメリカを崇めるに至ったので、他の国でも日本と同様のことができるはずだという目算があったにちがいない。

 しかし世界中、日本以外のどの国でも、そうはいかなかった。

 なぜだろう?

◆なぜ日本では完全洗脳に成功したのか?

 なぜ他の国ではうまくいかないのに、日本では成功したのだろうか。

 あれは『毛沢東 日本軍と共謀した男』を書いていたときだった。アメリカのスタンフォード大学のフーバー研究所に通い続け、そこにしかない直筆の「蒋介石日記」を精読する月日の中で知ったのだが、蒋介石は日本の戦後処理に関して「天皇制だけは残さなければだめだ。日本人は天皇陛下をものすごく尊敬している。天皇制さえ残せば、戦後の日本を占領統治することができるだろう」という趣旨のことを書いている。

 かつて日本軍は「皇軍」と呼ばれて、「天皇陛下のためなら命を落としてもいい」という覚悟で闘った。戦死するときには「天皇陛下万歳――!」と叫んだ。

 1945年8月15日、終戦を告げる詔書を読み上げた天皇陛下の玉音放送を、私は長春の二階の部屋で聞いたが、そのとき家族一同だけでなく工場の日本人従業員が集まって、全員がラジオの前に正座して両手を畳に揃えてうつむき、むせび泣いていた。

 それから何十年もあとになってから、日本で玉音放送を聞いている人たちの姿を映像で見たが、その正座の仕方から始まり、うつむいてむせび泣く姿は、異国にいた長春でのあの風景と完全に一致したのだ。

 なぜ、全員が、誰からも指示されていないのに、同じ格好で玉音放送を聞いたのだろうか?

 日本人の多くが天皇陛下に対する畏敬の念を抱いていたからではないだろうか?

 その昭和天皇が「堪(た)え難(がた)きを堪え、忍(しの)び難きを忍び…」と日本国民に呼びかけたのだ。日本人は終戦を受け容れ、天皇陛下がマッカーサーに会いに行ったことによって、これは天皇陛下の意思決定だと解釈して、GHQの指示に従ったものと思う。

 この要素が決定的になったのではないだろうか。

 こうして日本人は自ら積極的にCIAの洗脳を歓迎し、「アメリカ脳」化していったにちがいない。

◆「第二のCIA」NEDに思考をコントロールされている日本人

 何度も書いてきたが、1983年にアメリカのネオコン(新保守主義)主導の下に「第二のCIA」と呼ばれるNED(全米民主主義基金)が設立された。CIAは政府の組織なので他国の政党に直接資金を渡すことはできないが、NEDは非政府組織なので、他国の民主化運動組織を支援することが合法的に許されるからというのが最大の原因だった。しかし実際にはアメリカ政府がNEDの活動経費を出しているので、毎年「会計報告」を公表しなければならない。非常に矛盾した組織を米陣営側の国際社会は批判しない。

 そのお陰で、「会計報告」情報に基づいて過去のいくつかの時点におけるNEDの活動一覧表を作成することができた。いくつかの時点というのは、この「会計報告」は3年に一回削除されてしまうので、完全な形でフォローすることはできなかった。

 それでも、その範囲内でNED活動の一覧表を掲載したのが拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』である。拙著に掲げた【図表6-4 「第二のCIA」NEDが起こしてきたカラー革命】や図表【6-8 「第二のCIA」NEDの活動一覧表】などをご覧いただければ、台湾有事を創り出そうと必死で動いているのが「第二のCIA」NEDであることは明瞭な形で読み取れるはずだ。

 しかし残念ながら、アメリカ脳化されてしまった少なからぬ日本人には、この現実が見えない。これが見えない限り、日本は必ず「台湾有事」を創り出すことに結果的に協力し(積極的に力を注ぎ)自らを再び戦争の中へと突き進ませていく。

 まもなく終戦78周年を迎える。

 あのような犠牲を二度と日本国民に強いないために、どうか一人でも多くの日本人が「アメリカ脳」から脱却してほしいと祈らずにはいられない。

日本人の戦争贖罪意識もGHQが植え付けた その結果生まれた自民党の対米奴隷化と媚中

 戦後日本を占領していたGHQは、「日本人が犯した戦争の罪に対する贖罪意識」を徹底して植え込み、自虐史観を抱かせることに成功した。それも「アメリカ脳化」政策同様、日本政府とメディアを使ったので、日本人はGHQに操作されていることに気づくことなく自ら進んで意識改革をしていった。いま同じアメリカがNED(全米民主主義基金)を用いて「反中、嫌中」意識を同じくメディアを用いて日本人に植え込んでいる。だから自民党は「反中」対米隷属と自虐史観的媚中外交の二股外交を余儀なくされている。これはバランス外交などというカッコいいものではなく、全てはGHQが植え付けた「贖罪意識」の結果だ。それをまず認識したい。

◆WGIP(War Guilt Information Program)=日本人に戦争贖罪意識を植え込む戦略

 戦後日本はGHQによって占領された。戦勝国であるアメリカは、戦勝国であるがゆえに敗戦国・日本に対してはやりたい放題。日本人の精神解体を行っただけでなく、「日本人がいかに罪深い人種であるか」を徹底して植え込み、「アメリカが原爆投下を行ったことを絶対に批判できないように」教育を浸透させていった。

 それも占領下の日本(傀儡)政府やメディア、特に教育界を通して実行したので、日本人には、「日本国」自らがそう判断しているのだと思わせる手段を用いるという、「実に頭のいい(?)」戦略で動いたのである。

 このWar Guiltはただ単に「戦争責任」という日本語ではなく、もっと「罪責」あるいは「罪悪感、自責」の方に近く、結果的に「贖罪をしなければならない」という認識を日本人の意識に植え込み、「原爆投下は、ありがたい罰である」と思わせるところに、このプログラムの(アメリカにとっての)真の意義がある。

 日本に原爆を二つも投下したことに対する史上かつてない残虐性、非人間性を「批難してはならない」というのがWGIPの真の目的なのだから。

 広島出身の岸田首相は、「だからこそ原爆には絶対に反対する」と言いながら、核兵器禁止条約には日本は絶対に参加しない。「核保有国は一国たりとも参加していないから、その橋渡しを」というのが岸田首相のいつもの弁明だが、彼もまたGHQが日本政府の精神性に埋め込んだ「贖罪意識」から逃れられないでいるのだ。

2015年に出版された『日本人を狂わせた洗脳工作 いまなお続く占領軍の心理作戦』(関野通夫著、自由社ブックレット)は見事にその証拠を突き付けている。

◆共産・中国に利したGHQのWGIP

 本来、「アメリカの原爆投下も日本占領も批判してはならない。悪いのは、お前ら日本人なんだから」というGHQの目論見は、結果的に共産・中国に利している。

 なんと言っても日中戦争において日本は「中国を侵略した」のだから、悪いのは日本で、「ひたすら中国に謝罪し続けなければならない」と、日本自らが積極的に思うようになった。

 拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』にも書いたが、毛沢東は「私は皇軍に感謝している」と言い切っている。なぜなら日本軍が戦った相手は最大の政敵・蒋介石がトップに立つ「中華民国」だったので、蒋介石率いる国民党軍を弱体化させてくれたからだ。

 結果、日本敗戦後に中国国内で始まった国共内戦で共産党軍が勝利し、共産・中国である中華人民共和国(現在の中国)を誕生させたが、日本の対中贖罪意識は、なんと、敗北して台湾に身を寄せた蒋介石の「中華民国」に向けられず、勝利した共産・中国に向けられたのである。まるで共産・中国を「日本に対する戦勝国」のように位置付け、戦勝国に対する「敗戦国」の奴隷根性を丸出しにしている。

 だから1971年のキッシンジャー忍者外交に慌ててアメリカのあとを追い、共産・中国と国交を正常化することに向けて突進し、「贖罪意識」を持たなければならない「中華民国」とは国交を断絶した。

 それだけではない。

 1989年6月4日の天安門事件後の対中経済制裁を「中国を孤立させてはならない」としてイの一番に解除したのは日本で、1992年2月に中国の全人代常務委員会が「領海法」を議決して、日本の領土である尖閣諸島を「中国の領土領海である」と宣言したのに、いかなる抗議もせず、それどころか同年10月には中国の依頼に応じて天皇陛下訪中を実現させて、「領海法」を事実上黙認する意思表示をしてしまったのである(詳細は『習近平が狙う「米一強から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』【第五章の五、尖閣・南シナ海の領有権を定めた中国「領海法」を許した日米の罪】)。

 現在の岸田内閣とて、実は変わっていない。

 自民党きっての親中派議員を外相に指名したり、中国では最も親中的な政党として位置づけられている公明党から必ず国土交通大臣を選んで「尖閣問題に関して中国側に立つ」姿勢を貫いていたりなど、やっていることはGHQに埋め込まれた「贖罪意識」装置そのままだ。

 その一方でアメリカの事情が変わってきた。

 アメリカの原爆投下を批判させないためのWGIPは、実は原爆を持つアメリカこそが軍事力的に世界一で、世界を支配する正当性を持っているという、戦後の「米一極支配」を正当化する装置でもあった。

 ところが、その「米一極支配」を脅かす存在が現れてきた。

 中国だ。

◆中国を潰すために動き始めた「第二のCIA」NED

1983年に「第二のCIA」であるNED(全米民主主義基金)を設立し、GHQやCIAの「贖罪意識」に代わって、「ロシアや中国を潰すための論理」で動き始めた。

 その柱にあるものを見抜かないと日本が戦争に巻き込まれることに警鐘を鳴らすために書いたのが前掲の『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』である。当該書の序章の最後に、本来なら「台湾有事を創り出すのはNEDだ」と書くべきだが、「NED」の知名度が低いので、「CIA」で代表させたと書いたが、実はもっと言えば、このサブタイトルをメインタイトルに持って行きたいほど、NEDの実態を知って欲しかった。

 正直に言えば、筆者自身、この本を書くまでは、ここまでNEDが世界全体を動かしていることには気が付かなかった。なぜ注目するようになったかというと、中東が中国に近づいた大きな原因がNEDが起こしてきたカラー革命にあることを知ったからだ。これによりいま地殻変動が起きようとしている。従って、NEDの実態を知らない限り、中国の真相も見えてこない。

 しかしNEDは、かつてのGHQやCIAと同じように、政府やメディアを動かしているだけで、直接的には日本国民に何かしらの指示を出すわけではないから、「アメリカ脳化」してしまった日本人にはNEDの動きは見えないだろう。大手メディアが言っているんだから正しいだろう程度に受け止めてしまう傾向にある。その「時流」に乗って出版される本や専門家(?)の発言がまた喜ばれるという精神的環境をNEDは作っているので、とことん中国を読み間違えてしまうのだ。

 「中国は今度こそは崩壊する」と喧伝して20年以上が経っているが、一向にその兆しはない。いや、数値が示していると主張するだろうが、その数値は一側面のデータしか拾ってないので間違えるのだ。

 たとえば7月28日のコラム<中国の若者の高い失業率は何を物語るのか?>に書いたように、確かに中国の失業率は目も当てられないほどひどいが、しかし一方では、当該コラムの図表5に示したように、中国は論文数においても引用された論文の数(=論文の質)においてもアメリカを抜き世界一に躍り出ている。背景にあるのは2015年に習近平政権が打ち出した「GDPは量より質」に基づくハイテク国家戦略「中国製造2025」だ。GDPの成長率などだけを見て「ほらね、中国はもうすぐ崩壊するよ」と、日本国民を喜ばせている専門家やメディアは、「量より質」がもたらす中国の脅威には目を向けようとしない。

 結果、日本が取り残されていくのを筆者は怖れ、なかんずく戦争に巻き込まれていくのを怖れるのである。

 日本人の精神性は、あの敗戦直後のGHQとCIAが創り出した遺伝子が填め込まれたようなもので、この「アメリカ脳化」された精神から抜け出すのは至難の業だ。

 しかし、日本政府の対米奴隷化も媚中も、両方ともがWGIPが埋め込んだ贖罪意識にあるのだから、ある意味、アメリカの長期的戦略に圧倒されると言えなくもない。しかも気づかれないように動かしているのだから、「大したものだ!」、「脱帽だ!」と言ってしまいたいくらいだ。

 GHQによって創り出された遺伝子的精神性のママ、日本は生き続けていっていいのだろうか?

 今年の8月15日は終戦から78年が経つ。

 読者とともに考えたい。

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